第299話 決着の刻
いよいよ300話まで後1話と迫り、ストーリー展開も大きな転換期に差し掛かるところまで漸く運ん来れました。
さぁ、箱根トライアルの結果は如何に?
ゴール前の死闘
先頭から五番目の選手までの距離二二〇メートルが徐々に縮まる終盤、息詰まる攻防、登りも残すところ二〇〇〇メートルを切り、勝負は五人の選手に絞られた登りのクライマックス。
「登り、あと二キロじゃ!」
このトライアルレースの見どころは、やはり登りである。
参加選手は皆、総合順位ではなく往路の登りの順位が参考基準になることを熟知しているため、往路でどれだけ踏み込めるかが肝と判断している。
成田がそう啖呵を切って、レンジを上げてダンシングで最後の戦いに乗り出した。
天野も負けじとギアを上げる。
その後方百五〇メートルから箕浦と今野は物凄い気迫で追い風をもろともせず、駆け上がる。
その後ろににピタリと張り付いた春風は、彼を風除けにしながらピッチを上げて行く。
「ちょい、この先の国道最高地点まであと一〇〇〇メートルのこの地点で、この五名の選手が一〇〇メートと離れず混戦模様を呈してきたが、一際目立つのが箕浦か」
と並走する箱スパ鹿島が呟いた。
箕浦は三番手のまま一、二番手のふたりのすぐ後ろまで追い縋る。
その瞬間、天野はまだギアを二つ残した状態で、箕浦や成田を引き離しにかかる。
そこにスルスルと登ってきた今野が、春風を引き連れるように成田を捉えた。
まさに接近戦が始まる。
斜度が少しだけ緩くなる最高地点、ほぼ直線で駆け抜ける残りの三〇〇メートル付近で、今野が成田と並ぶ。
「成田くん、行かせてもらうよ!」
今野が成田に並び、そして前に抜ける。
「ちっ!」
と成田は舌打ちをしながら、使い切っていた足を二度叩いた。
「ここまで来て抜かれましたじゃカッコつかないんだよね!」
天野は迫り来る箕浦らを振り切るべく、残していた一枚のギアにすべてを委ねる。
「いくぜ! あああぁー」
「ガチャガチャッ!」
ギアセンサーにタッチし、前傾姿勢でダンシングを続ける。
天野に一〇メートルと迫った箕浦は距離を縮めることができない。
「なぜだ? 足に痛みが……えっ?」
箕浦に並走するように、今野が上がり、更に大外から春風が箕浦に並びかける。
「まだだ、まだだ、まだだぁ〜!」
春風は残したギアに手をかける。
「カシャカシャ」
春風は今野との差を詰められぬまま、天野に迫る。
逃げる天野、猛追する今野と春風、その距離は五メートルか十メートルか、クライマックスが止まらない。
最高地点には天野の兄・開がそのクライマックスを見届ける。
通過順位
一位通過 天野寛
二位通過 今野肇
三位通過 早乙女春風
四位通過 箕浦大輔
五位通過 早坂晃
「よし! よし! よし!」
天野は痺れかけた右手で小さくガッツポーズをしながら、折り返し先になる箱根ミュージアムに向け、全力でペダルを踏み込み走り抜けていった。
今野は何をするともなく、天野を追う。
僕は背中に何かを感じ振返ると、箕浦が自転車を降りた瞬間を見ることとなった。
「メカトラか?」
トライアルには復路があるが、往路を勝ち切ったものは、淡々と山を降りて行く。
そしてトライアルは無事終了となった。
春風は復路を二位で駆け降り、天野は三位、今野は四位でフィニッシュした。
一位でフィニッシュしたのは驚くこと勿れ、成田であった。
春風は天野や今野とノーサイドにより自転車を降りた後、お互いの健闘を讃えるかのように、握手を交わした。
「トライアルの結果は、後日主催であるゲルニカのホームページで発表されるが、天野くん、おそらくキミが最有力候補に上がってくるだろうな」
今野がそう口にした。
「そうあって欲しいものですが」
天野もそう声をかけ返した。
「早乙女くんだっけ、キミの走りもなかなかだったな。あんな局面で引き離せなかったのは、高校時代の眞露くんくらいなもんだ」
「まあ、なんと言いますか……このバイク、その時の眞露さんが乗ってたV3RSなんです」
「ええっ? まじか? 眞露くんのバイクなのかい? へぇー、これがあの時の……なんか因縁感じちゃうね」
「あははは」
春風は登りの順位こそ三位になってしまったのだが、今の未熟な自身の力を思い知らされると共に、登りの強豪選手とレースで渡り合えたことに、喜びが溢れ出てきた。
翌日、ホームページで箱根スパイラル入団基準をクリアした者の名簿が掲示された。
掲載された名簿
次の番号に従い入団枠二名の交渉権を与える。
ただし、特と指定された者は育成選手としての活動を認めるものとする。
一 今野肇
二 天野寛
三 箕浦大輔
特 早乙女春風
女子寮管理室で郵便物の仕分けをしていると、スマホにメッセージが届いた。
春風は手を止めスマホを覗く。
「だれかと思えば、市川先生だ」
——春風くん、おめでとう!
——えっ、なぜ?
——そう、キミは育成枠に選ばれたんだ。見てないのか?
——はい……育成枠?
——とにかくやったな!
——ありがとうございます。
——そして天野は入団だ!
——そうなんですね。凄いや。
——ERCから二人も選ばれるなんて、喜ばずにはいられない。
——ありがとうございます。
「それ、本心なのか?」
——まあ、本音は複雑だけどね。
「ですね……特に天野さんが抜けるという事は、ERCのエースクライマーがいなくなるという事」
——なんて言ったら良いか……。
——いや、キミは喜べば良いんだよ。
「ほんと、言葉が出ないや」
また、紗矢香、翔子たちからも祝福のラインが入っていた。
こうして春風は育成選手に選ばれたのであった。
育成選手とは箱根スパイラルの母体であるゲルニカが認定した、次期入団候補選手のことであり、ゲルニカのプログラムに従い三年間トレーニングやレースに参加する事で、自転車機材等の資金提供やレース遠征費用が受けられるのであった。
例えば、箱根スパイラルの選手としてまだレースに出場していないが、南海大学主将の川崎大河や天王寺尊もかつては育成選手の経歴を持つ箱根スパイラルの団員なのであった。
これから春風は、三年間、箱根スパイラルの名を背負いレースに参加すると言うことになるのだ。
故に「無様な結果にならぬよう、トレーニングを積まなければ」と思う春風なのであった。
紗矢香 私の出番がありませんが、どうなってるの?
春風 それは作者に聞いてくださいよ!
三ツ沢 えっ? 恋する勿れ ですからね。
紗矢香 それって私たちの恋は終わるってこと?
春風 まさか? ですよね?
三ツ沢 タイトルどおり「純粋な勝負事に恋愛を持ち 出すな」と言う事ですよ!
紗矢香 風くんの歌詞にあるように「戦おうとも動機 は愛がいい」ってのがいいわ! キラリ!
春風 そろそろ次回予告していいですか?
次回「最後の女子寮物語」
三ツ沢 本当に最後になるのかなぁ?
紗矢香 その振りいやらしいわ!




