第298話 フロントギアの秘密
残すところ300話まであと2話となり、一年かけて漸く物語は半年近くまで辿り着きました。
皆様の愛読に支えられて、物語はようやく転機を伺えるところにあります。
これからも応援よろしくお願いします!
「残りはあと三人や」
「おい、箕浦くん、いよいよ残り登りもあと三キロや……見てみい! 早坂が見えて来たぜ!」
「逃げ切り失敗やな」
「今野さん、成田と天野が見えへんで!」
「奴ら、逃げ切らずにまくったな!」
そんなやり取りに春風は焦る。
「まだ見えないなんて……」
「おいおい、兄ちゃんよ。勝負はここからやで」
「そ、そうですよね」
「今野さん、残り三キロ弱なんで、そろそろ……」
「そろそろやな」
何?
何するの?
「この先な、予定ではこの先のカーブ抜けると最後のキツい坂があんねん」
「わかりますよ」
「そのカーブを曲がり切ったところで前のふたりが見えたら、この勾配キツい坂で抜き去るよ」
「ど、どうやってですか?」
「俺と今野さんのフロントギア、よく見てみい」
「えっ?」
その瞬間、春風は言葉を失う。
「アウター、インナー以外に第三のギア、名付けてミドルギアってな」
そんなシステム見たことない!
「ワイらの自転車は、キミの二十四段と違って三十六段使えるんや!」
「このミドルは山登りではフロント二枚のギアに対してリアギアが使えない領域があるが、そこをカバーするために組んだ仕掛けや。よってこのキツい勾配でもスムーズに踏み込んでいけるんや」
なんと、今野と箕浦のバイクにはフロントギアが三枚用意されており、通常ならリアのトップ付近のギアを持て余してしまうところ、ミドルギアでその余したギアを使えてしまうと言うのだ。
今野と箕浦は最後の激坂に笑いながらペダルを踏み込んで行った。
ヤバい、離される!
ここまでか……いや、そうでないでしょ、このマシンは僕仕様に仕上げられた、謂わば一心同体。ここまでだってあの二人についてこれたんだ。しかも、ギアを残して。これは使えないギアのつもりはない。使わなかっただけなんだ。
なら、前を走るこのミドルギアの二人について行けるのか?
いや、行けるでしょ!
呼吸は乱れ、足の疲労はあるけど、なんだろう、不思議とまだまだペダルを回せる気分だ。
天野さんのセッティングのおかげだな、これは。
「では、僕も追撃だ、オオー!」
箕浦と今野は、先頭を走る成田と天野を三百メートル先に捉えていた。
「天野、山神たちがすぐそこまで来てるぜ!」
「なんとまぁ、思ったとおりだこと! 詰めてくるのはここだとわかっていたよ」
成田と天野もまた、予想どおりのポイントで詰めて来た箕浦と今野にある種敬服をするとともに、こんな会話をふたりは交わした。
「あのふたりを振り切るにはチョッチ骨が折れるぞ」
「成田さん、二人じゃなくて三人っすよ」
「誰だ、その三人目は?」
「早乙女ですよ……あいつ、あの二人について来たんだ。やるな!」
「早速前の二人、気づきよった。距離はざっと二百メートルと言ったところやな! それにな……後ろ見てみい! さっきの兄ちゃんついて来てんぞ!」
「わかってますよ、後ろからピリピリプレッシャー感じてますよ」
「捉えたぞ!」
春風はここまでの展開でかなり回したはずの足がまだまだ行けそうな感覚にあり、先頭に照準を合わせさらに一段ギアを上げた。
「ウォォォー!」
ここから残り二キロは、選手五人の争いと言ってもいい。
先頭を走る成田にタイヤ一個分遅れること天野、二百メートル空けて箕浦に今野、二十メートル後方に春風が猛追をかける。
春風 後書きとか、初心を思い出したとか?
紗矢香 違うわよ、これは気まぐれよ!
中町 確かに気まぐれのような気がするけど?
春風 300話までのカウントダウンとか?
紗矢香 そう、それだわ! それしかない!
中町 そう、そんな気がして来たぞ!
春風 次回、決着の刻。
紗矢香 私を除け者にしているあのレースのね!




