第295話 路上の猛者
よく考えてみれば、ここをレースで登るのは二回目だが、下見や前回のエディとの一件を含めれば今回の山登りは四回目になる。
どことなくコースを読み切れているつもりだが、おおよそが協調しながらのクライムであったためか、単独で走行する時の疲労はそれと比べると半端ないのを自覚する。
僕のポジションは先頭から数えて九人目で第二集団の後方に位置し、常に先頭集団の飛び出しに注意を払いながら、詰めるチャンスを伺っていると言ったところだ。
一方、天野さんは気付けば五番手までスルスルと駆け上がり、先頭集団後方にしてロングスパート? いや違うな、出し抜いて一気に前に出てからの逃げだ。
「天野さんは確か先頭に出てからのモチベーションが異常に高いし、引き離しにかかった時のレンジのあげ方がエゲツなく速いから、僕がもし仕掛け期を見逃してしまったら、二度と捉えることはできなさそうだ」
大平台のヘアピンカーブに入る前あたりで、先頭集団がバラけ始めているのをハッキリと捉えた春風は、ここでペダルを踏み込む。
「ここで離される訳にはいかねぇんだよ!」
前を走っていたエディが春風に反応してほぼ同時に第二集団から飛び出した。
「抜け駆けは許さへんで!」
と並走気味になりかけたエディと春風は、ヘアピンに入り速度を上げてバラけた先頭集団の後方にいる選手を捉えた。
そして一気に抜こうとした瞬間、呼び止めるように声がかかる。
「そんなに急いでどこ行くん?」
「え?」
「どこを目指しとるんや? と言うことや」
「どこって?」
と横槍の言葉に僕が集中が切れたのを見透かしたようにエディは、
「何抜かす! ゴールに決まってるやないか! ママのオッパイ吸っとる暇あったらペダルを回せやおい!」
と喝をいれた。
「そ、そうだね」
エディの反省の色のない一言だったが、そのおかげで正気に戻った僕は、切らした集中力を取り戻すため、先頭選手に照準を合わせ懸命にペダルを回した。
「おい、お前ら話くらい聞けや……何や慌てん坊やな、ここは慌てる場面やあらへんのに、行ってもうたわ」
現段階での順位でハッキリしてるのは、二番手に成田錠、三番手に天野寛、五番手にエディで六番手に僕が追う展開だ。
箱スパのオールラウンダー鹿島選手が天野選手の後方から動向を伺い、スプリンター天王寺選手が僕の後ろを走る七番手の様子を振り返りながら、僕のバイクの前輪一個ぶん前を走っている。
どうやらこの七番手までで勝負が着きそうな、そんな様相を呈してきたぞ。
箱根山トライアルコース沿道には、全国から集まったバイクの猛者たちの走りを見ようと多くの人達が集まっていた。
「今日のトライアルは箱根スパイラルのメンバー選考会につき、集まっている選手が凄いんだぜ」
「確かにそう言われれば、あれっていろは坂の成田錠じゃねぇ?」
「そうだな、三番手は確か湘南のERCの天野寛で、四番手は信州の山神と呼ばれてるチームミノウラの代表の箕浦大輔だよな」
「おいおい、今通過してったの、今野じゃねぇ?」
「前回の秩父宮取ったあの今野か?」
「あゝまちげえねぇ、今野肇だ!」
「ヤベぇ、鳥肌立って来た!」
「この選考会どうなっちまうんだよ?」
「確か枠は二つでクライマーだから、最有力は今野選手だろ、次が箕浦だな」
「でもよ、今野は確かオールラウンダーじゃなかったか? それに比べて箕浦はガチクライマーだからな、この四番手はとんでもない曲者だぜ」
「あんたたち、逃げの早坂を忘れちゃいねえか? 先頭は早坂だからな」
と盛り上がるふたりに声をかけたのは、何とERCの最上阿良隆であった。
「あんた、最上さんじゃ?」
「おお、なんか嬉しいじゃないの! 僕を知ってるんですか?」
「もちろん、江ノ電運転手で自転車野郎の阿良隆さんですよね」
んーっ。
どうリアクションしようか微妙な感じだわ。
「こりゃどうも」
そうこうするうちに上位に位置取る選手たちに動きが出始める




