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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第九章 僕が誇れる僕になる
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295/321

第293話 箱根へ、いざ出陣!

 レース本番

 

 箱根山に集結した強者たちが凌ぎ合うトライアルレースには、箱根スパイラルのレギュラーメンバーも出走をすると公表されており、出走を待つ者たちは皆、集中力を高めていた。

 開催に合わせた交通規制が開始されて一時間、いよいよレース開始の火蓋が切って落とされる頃、春風は天野寛から直前のアドバイスを受けていた。

「このレースには、箱スパの選手も混じっているのは知ってるよね?」

「もちろんです」

「その理由は?」

「理由……箱スパレベルのペースを作るため、ですか?」

「まぁ、それも当然あると思うが、狙いは別にあるんじゃないかな?」

「別に……ですか?」

 グローブを嵌め終えた春風は、天野の顔を見やった。

「おそらく箱スパ選手は、各々が注目する選手をマークして、その力量を確かめに来るだろう」

「注目する選手を見定める、と言うことですか?」

「恐らくね、つまり単純な着順を決めるレースではないと言うことなんだ」

「でも速い選手が相対的に強い選手になるのでは?」

 すると天野はすまし顔でチラシの話を持ち出した。

「ではトライアルのレース順位とメンバー入りの条件が紐付いた表記をキミは案内チラシで確認したのかい?」

「……あっ、いや確認はしてないですが……」

「そうなんだよ。今回のトライアルはクライマーを選ぶためのレースであるが、箱スパは総合力が求められるチーム故に選抜基準はクライム区間だけではないと言うことなんだ」

「と言うことは……コース内の登りじゃないポイントや、難易度の高い区間のタイムなんかを判定に用いるってことですか?」

 天野は目を丸くして、

「本当キミは理解が凄いや!」

 と春風を褒めながら、

「クライマー以外の高い能力も当然求めていくサディステックなチーム、それが箱根スパイラルなのさ」

 と視線を先頭付近に位置する箱スパキャプテン眞露に向けた。

 

 トライアルスタート

 

 先頭でサイレンが鳴り、総勢五十名に登る強者たちが一斉にペダルを回し始めた。

 このレースは箱スパのクライマー二名を決めるレースであり、メンバーに年齢制限はなく、春風のような高校生選手も出場しているらしい。

 コースは箱根湯本駅付近から大平台のヘアピンカーブを抜け、小涌谷踏切から一号線最高地点を経由し、第一鳥居を抜けて箱根ミュージアムまでの往路、復路は往路を下る、箱根駅伝五区六区の箱根山部分に当たる。

 先頭から最後尾まではおよそ一五〇メートルほどに連なり、天野さんと僕はやや後方に位置し、目の前の集団には箱スパの鹿島選手が後方からレース展開を伺っているようだ。

「よう! 久しぶりだね!」

 スーッと後ろから並んだ派手なカラーリングのバイクに、春風は気がついた。

 エディだな。

「あの時は絶望してたようだけど、ママのおっぱい飲んで元気になったかい?」

 ムカ!

 その時、前のバイクがエディの隣まで下がってきて、

「おい兄ちゃん、若者に随分な挨拶じゃねえか?」

「あなたは、鹿島さんですね、うわー光栄だなぁ」

「光栄だ? 油売ってる暇あったらさっさと前に行きやがれ!」

「へいへい」

 とエディは猛スピードで走って行った。

「よう、寛!」

「ご無沙汰してます。鹿島さん」

「それに早乙女ちゃんじゃないの?」

「その節はいろいろご指導ありがとうございました」

「いいじゃない! その謙虚さ。ますます気に入った!」

「鹿島さん、ありがとうございました」

「おお、今の派手男か? ああ言うタイプは凹ましてやりたいが、まあ、バイクの勝負はバイクでってな」

「鹿島さんは今日はどんな役割なんですか?」

「よく聞けたな、早乙女ちゃん。企業秘密だと言いたいが、俺は案外口が軽くてな」

「いい時に話ができましたね」

「まあ、あれだ。注目選手の偵察とでも言っておこうか」

 春風は少し恥ずかしげに、

「僕だとか?」

 と呟いた。

「そうだな、と言ってやっても申し分ないくらい仕上がってるじゃないの? そのバイク」

「見ただけでわかるんですか?」

「わかるさ、そんで案外寛のチューニングだったりしてな?」

 僕は目から鱗、いや、その後光に思わず首を垂れた。

 いわゆるハロー効果って感じだ。

「なあ、寛よ!」

「はい」

「今日の目玉はお前だ!」

「機密事項でなくて?」

「言ったろ! 俺は口が軽いんだ……まぁ、そんなことはメンバーの誰もが当たり前過ぎて、言う気にもならないだけのこと。兄ちゃんの(ひらく)もよ、口には出さねえがお前と走るの楽しみにしてやがったぜ!」

 天野は敢えて鹿島に視線を合わすことなく、前を見据えて呟いた。

「じゃあ、待ってろって伝えてもらえますか?」

「いいじゃない! それでこそ天才クライマーの弟くんだ」

「やめて下さいよ」

「……そうだな、弟くんはないよな。じゃ改めて、孤高のクライマー天野寛よ、楽しませてくれや!」

「いいですよ、俄然気合が入りましたよ」

「早乙女ちゃんも楽しみにしてるぜ! 勝負はあの時のように冴えた奴、見せてくれや!」

「はい」

 と僕も乗せられて大きな声で返事をしていた。

「じゃあな、この先のクライマックスでまた逢おうぜ」

 鹿島はまた前の集団の先頭まで駆け上がって行った。

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