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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第九章 僕が誇れる僕になる
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第290話 ポジティブ思考

 二学期の始まり

 

 いつもの自分を見失ったまま、春風は二学期を迎えていた。

「おはよう」

 誰となくクラスメイトに挨拶をしながら、春風は自席に着いた。

「フウ」

 なんかテンションが上がんないや……。

「おはよう、早乙女くん」

 と聞き覚えのある声に、小さく「おはよう」と投げ返した。

 常盤結奈である。

 彼女は、浮かない顔つきの僕を覗き込むようにして、心配気な表情を見せた。

「なんか元気ないよね?」

 そんな言葉が、より一層気分を下げる。

「そうなのかな?」

「何かあったの?」

 そう問いかけられたが、その訳を曝け出すつもりもない僕は、ボンヤリと応えて話した。

「あっ、いや、そうだね。そんな気分の日もあるのかな?」

 なんて言ってみて「本当はそうなのかも?」と勘違いしたい気分だ。

「おはよう」

 とまた聞き覚えのある声がする。

 その声に振り返ることなく、

「おはよう」

 と気の抜けた返事をして見せた。

「あれから何かあったの?」

「いいや、大丈夫」

 と母の一件を気にした真田雪に、どことなく的の得ない返事をして見せた。

「そう……また、相談にのるよ」

 と言って雪も自席に着いた。

 そしてまた、あの男が目の前にやって来て、腑抜けた僕に参戦布告を始めた。

「随分と覇気がないな! どうした? 夏休みは遊び疲れたか? だが、お前と違って俺様は、超絶学問に磨きをかけた。さあ、勝負だ!」

 羽柴秀一郎。

 相変わらず空気を読まない、いや、空気が読めない輩だ。

「さあ、どうした? 今学期の定期テストでは圧倒的な勝ち方でお前を抑え、俺様がこの学年のトップだと触れ回ってやる! そして一週間挨拶運動をやってもらう!」

 イラっとする気も起きない。

 いや、呆れて物が言えない。

「まあ……」

「まあ、なんだ?」

「お前はいつもそう言うが、それに何の意味があるんだ? 成績で負けて挨拶運動とかってさ!」

「おのれ、挨拶を愚弄する不届者め!」

「挨拶のことを愚弄してはいない。挨拶運動を罰ゲームのように扱おうとする、お前のその不埒な発言を責めてるんだ」

 秀一郎はどこか嬉しそうな顔つきに変わり、春風の机を「バン!」と一つ叩いた。

「いいだろう……ならば、勝者が勝利を感謝して一週間の挨拶運動をやるってことにしてやる」

 いかん、コイツは挨拶を勝利宣言にすり替えてやがるぞ。

 どこまでおめでたい野郎なんだ。

「言っておくが、挨拶運動がしたくてああだこうだと言っている訳じゃない」

 秀一郎は腰に手を当てた。

「早乙女よ、お前こそ挨拶運動を愚弄するなよ。したいとかしたくないとかではなくて……するんだよ。なぜならそれは、成績トップに君臨する王の役目」

 おいおい、罰ゲームが王の役目まで昇格しちまったぞ。

「もういいか、話し疲れたからさ」

「では次回、定期テストで真価を問おうぞ」

 と言って秀一郎は清々しい顔になり、自席に戻って行った。


 新学期からしんどいな。

 でもまぁ、

 秀一郎のせいで、いや、おかげかな? 

 落ちてた気分を忘れられたような気がする。

「よし、ポジティブに行きますか!」

 と春風は顔を上げた。

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