第285話 意識が戻る
三人は控え室を離れ、一階ロビーまで降り自販機で飲み物を買って、待合の椅子に腰掛けた。
「命の心配はなくなったから、一安心と言いたいけど、意識が戻っていないから、まだ気が抜けないね」
「そう言えばお兄ちゃん、自転車で事故したってことだけど、自転車はどうなたんだろう?」
紗矢香がそれに答えた。
「さっきね、SRCS(湘南ロードサイクルショップ)の天野店長から私のスマホに連絡が入って、春風くんのコルナゴは無事回収したと連絡が入ったわ」
「自転車を?」
と翔子は不思議がった。
「自転車にショップのステッカーが貼ってあって、警察が連絡を取ってくれたみたいなの。保険名義人が早乙女春風と知らされ、天野店長が引き取りに行かれたって訳よ」
「でもなぜ、紗矢香ちゃんの携帯番号を知ってたのかしら?」
「実は前にね、春風くんとショップに一緒に行って自転車を借りた時に、私も電話番号を書いてたらしくて」
「なるほどね」
「紗矢香ちゃんは、春風とデートで立ち寄ってたと言うことだね」
「それ、なんか、恥ずかしいな」
その後、三人は春風の意識が戻るまで、誰も帰ろうとはしなかった。
そして、十九時を過ぎ、春風の父・早乙女祐一が病院に到着した。
「あっ、父さんだ。お父さん!」
その声に気がついた祐一は、詩織と翔子を見つけ近寄る。
「詩織のラインで状況は理解しているが、意識がまだだって?」
「先生は時期に回復すると言われていたけど、まだ目を開かないの」
「命に別状がないんだ。心配することない……ところで彼女は?」
と翔子に声をかけた。
「春風の彼女よ。美少女でしょ?」
祐一は目を丸くして頷いた。
「本当に美少女だな。んん、申し遅れましたが、私が春風の父です。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
また、翔子が祐一と気軽に会話をする姿に、詩織が違和感を感じた。
「父さんは翔子さんのこと知ってるの?」
「そうだね……詩織には伝えておかないとね」
「何を?」
「翔子は私の娘なんだ。春風のお姉さんなんだ」
「えっ? 姉弟ごっこの姉じゃなくて、本当の……お姉さん?」
俄には信じがたい話に、詩織は目を丸くしてこう言った。
「私はお兄ちゃんの妹なんだよね?」
祐一は迷うことなく返事をした。
「ああ、もちろんだ」
「詩織ちゃんは私の妹になるのよ」
「そう、なんだね」
そんな話をしているところに、看護師が呼びに来たのだ。
「早乙女さんのご家族さんですね」
「え、父ですが?」
「息子さん、意識が戻りましたよ」
そう看護師から話を聞いたことで、その場にいた者は皆、それぞれに安堵したのだった。
「医師からは、二、三日入院していただいた方が賢明だと話がありますが、それでよろしいですか?」
との説明に、
「よろしくお願いします」
と祐一は春風の入院をお願いしたのであった。
かくして意識を戻した春風は、医師の判断で一般病棟へと移ることとなった。




