第284話 事故
交通事故
その日の午後、春風は小雨になるのを待ち、自転車で自宅である女子寮に向かいペダルを回し始めた。
しばらく走るうちに、雨は予報通りあがったが、路側帯に時折現れる段差にひっかかりコントロールを失い、春風は転倒し意識を失ってしまった。
しばらくして救急隊が救助に現れ、意識の戻らぬ春風は平塚国際医療センターに搬送された。
病院では所持していたバッグの中から学生証が見つかり、鎌倉学院へと緊急連絡が入り、そこから春風の父、翔子へと救急搬送されていたことが伝えられた。
たまたま翔子は紗矢香と一緒にいたことから、紗矢香はライメイ650に翔子を乗せ病院へ向かう。 途中、翔子は詩織に電話で事情が伝え、タクシーで病院に向かうよう指示をした。
医療センターに着くと、ふたりは受付で案内を受け、春風が救急病棟に運ばれていることを知る。
「紗矢香ちゃん、とりあえず行こう」
「ええ」
翔子は今にも泣きそうな声で紗矢香に声をかけ、紗矢香もとても心配そうな顔つきで翔子に続いた。
春風はICUに入っていて、まだ、意識が戻らないようであった。
ふたりは親族控室のベンチシートに並んで座った。
「春風くん、大丈夫だよね?」
紗矢香が不安をかき消すように翔子に問いかける。
「大丈夫、あの子は強い子だから」
と翔子は、心配な気持ちを敢えて振り切るように答える。
「今にも雨になりそうな天気だったのに、私、小田原に行ってくるって言った春風くんを止めていれば、こんなことにはならなかったのに……本当ごめんね」
「紗矢香ちゃんが悪い訳じゃないから、そんな風に言うの、よそうよ」
「うん」
「あのね、さっき小田原に行ってるって言ってたけど……昨日のお昼は春風とパーラーであってたの。なのにどうしてそこから小田原に言ったのかしら?」
「確か……幼馴染の子の家に行くって」
「真田さんのところよね?」
「そうね、でも他に目的があったみたいなんだけど……聞いてはいないの」
じゃあ、あなたはどうして小田原へ?
まさか……堂島からの手紙に書かれた母に会いに行くために、私の自宅に?
ここまであなたが知ってしまったのなら、私の存在をあなたに隠す必要もないのかも知れないわ……。
「ヴーヴー」
「はい、あっ父さん……今病院についだけど、春風はまだ意識戻んなくてICUなの」
「そうなのか……詩織も時期に到着するから……詩織にはまだ翔子が異母姉妹のことは話してないから」
「わかってる」
「すまんな、気を遣わせて」
「春風も恐らく私のことを勘付いているし、もうこれ以上隠し通すのは厳しいよ」
「そうだな。お前たちが生きていることを、堂島の手紙から知ってしまったのだろう。そして、春風は堂島が自分の父親だと思ってしまったのかも知れないしな」
「そうだね」
「今、新幹線に乗ったところだから、そうだな、十九時にはそっちに行けるから、その時に話そう」
「わかった」
翔子は紗矢香を見ながらこう話し始めた。
「今まで黙って、いや、嘘をついていてごめんね。実は春風は私の実の弟なの」
「……そうなんですね。でも、どうして黙っていたの?」
「これには複雑な事情があってね」
「詩織ちゃんは翔子ちゃんとは姉妹ではないの?」
「詩織ちゃんは血のつながりのない妹なの」
「そんな大事なことを、私が聞いてしまって良かったの?」
「春風が父や私を遠ざけるかも知れないし、その時は春風を支えてあげて欲しいから……」
「わかったよ」
「ありがとう」
そこに詩織がやって来た。
「紗矢香さん、翔子さん、お兄ちゃんの意識は戻りましたか?」
翔子が首を横に振る。
紗矢香は、不安そうな顔をした詩織を抱きしめた。
「お兄ちゃん、もうダメなのかなぁ」
と泣き出した。
「大丈夫だよ。春風くんは不死身なんだから、心配しないで!」
と言い聞かせるも、紗矢香も心配でたまらない。
「ご家族の方見えますか?」
と看護師が控え室に来て声をかけた。
「私と妹がいます!」
と翔子が声を上げた。
ICUで医師から説明があった。
「検査では頭の中の出血はないようですし、バイタルも安定しているようですから、時期に意識が戻ると思われます。ですのでHCUで様子を見ていこうと思います」
これを聞き、ふたりはホッとして抱き合った。




