第286話 明かされた真実
面会
「春風、大丈夫か?」
「父さん?」
少し朧げな様子ではあったが、体のあちこちに受けた打撲の痛みこそあれど、意識は次第にハッキリと戻り始めた。
「皆さんにも……心配をかけました」
「話さなくていいから」
と祐一が声をかけた。
しかし春風は振り絞るように問いかけた。
「母さんを見かけました。なぜ死んだと?」
祐一は人呼吸した後、腹を据え、諭すように真実を語り出した。
「お前の母さんは、妊娠したあたりからうつ症状が酷くなり、自傷行為もあり精神科での入院をしたこともあったんだ。出産こそ無事に終えたのだがな……産後はやはり育児ができる状態ではなく、結果、彼女の離婚願望を受け入れる形で美奈子と別れることになったんだ」
春風は真田明生から聞いた離婚の裏側にそんな事情があったことを知り、驚きと共にずっと引っかかっていたあのことを問い返した。
「僕は堂島鉄心の子であるとして手紙を受け取ったんだ。父さん、僕は父さんの子なんだよね?」
「お前は父さんの子に決まっているさ」
「母さんはどこで堂島と知り合い、なぜ堂島と暮らしているのか教えて欲しい。そしてなぜ交通事故で死んだと嘘をついたのか?」
春風は思いをすべて父にぶつけた。
祐一は一瞬躊躇する素振りを見せたが腹を決めた様子で、
「すまないが、君たちにはちょっと席を外してもらえないかな?」
と紗矢香と詩織に声をかけた。
ふたりが退室したのを見届けた後、祐一は話し始めた。
「翔子は知っているか?」
翔子は首を横に振る。
「堂島鉄心は母さんの中学時代の同級生で、かつては交際していたこともある関係なんだ」
「えっ?」
「父さんがそれを知ったのは、美奈子が出て行く直前になってからなんだがな」
「それで?」
「それまでの美奈子の思いとは裏腹に堂島は彼女に離婚を迫っていたんだ」
「まさか、そんな?」
と春風は驚きを隠せず嘆いた。
「そうなの」
と翔子が祐一の話を肯定したのだ。
そして祐一は話を続けた。
「美奈子は春風を妊娠したあたりから、先ほど話したようにうつ症状が出始めたんだが、これは堂島が彼女に強く迫るようになって来たことに起因すると思うんだ。そして家族に危害が及ばないよう美奈子は家族をおいて一人出ていこうとしたんだ」
その話に合わせて、翔子は姉であることを隠していた理由を話し始めた。
「幼ながらに母が心配で、私は母と共に堂島の下へ行ったの。父さんとは小学生に入ってからは、堂島が服役中に連絡を取り合うようになったわ」
「そうなんだ……」
「春風が鎌倉学院に進学した頃、服役中の堂島は死んだと聞かされていた春風が生きていると知り、自分の子ではないかと思い込んだような節の手紙を、母宛に送って来ていたの」
「……」
「私は春風のことが心配になったわ。それで父に相談した結果、死んだことになっている私は、あなたに姉であることを隠し近寄り、あなたが堂島に強要されたり、取り込まれたりしないよう動きを監視していたの」
「姉さん……」
「ごめんね春風。ずっと嘘をついていて……」
「いや、いいんだ。ありがとう。僕、嬉しくて……姉さん、姉さん……」
事実を知り、翔子のこれまでの苦労や、弟を心配してくれていたことが咀嚼できたことで、涙が溢れ出た春風なのであった。




