第282話 幼馴染み
就寝
「うちは狭いから……我慢してね」
と、雪の部屋に僕の布団が敷かれた。
「おばさん、さすがに一緒の部屋はどうかと?」
真澄はこう話した。
「他の部屋は仕事用の生地や作業部屋として使っていてね、泊まってもらえる部屋がないのよ。ごめんね」
「いや、そう言うことでは……」
「雪はクロハニの仕事が増えて来たけど、前と変わらず春風くんのことをよく話題にあげているわ。親としては、雪が春風くんのことを許嫁と思っている訳だから、大切にしてもらえたらなぁと思ってるのよ」
これは複雑な気持ちにさせられる。
どう返事して良いものか?
「そうなんですね……」
雪とふたり
先に風呂をもらった春風は、ひとり雪の部屋から夜景を眺める。
「三階だから海がギリ見えるね。雨の小田原か」
「ガチャ」
と扉が開いて、湯上がりの雪が部屋に入って来たのを、振り向きざまに春風は捉えた。
お尻までスッポリ隠れるTシャツ一枚のドキッとする姿で、目の前に現れた雪はこう呟いた。
「久しぶりだね、春風と二人っきりになるの」
その言葉の裏には「きっと幼い頃、この部屋で一緒に寝ていたね」と言う懐古的な意味を感じ取った春風は、
「あの頃はよく一緒に遊んだな」
と思い返しながら笑って見せた。
雪は化粧台の前に座り髪をドライヤーで乾かしながら、何かを話し始めた。
「雪は最近ね、学生じゃなくて職人として生活を送っているんだけどね、この仕事は天職だって思ってるんだ」
「あっ、ちょっと聞こえないかな?」
「えっ、何て?」
とドライヤーを止めた雪は、聞き返した。
「聞こえなかったんだよ」
と春風は言い直した。
すると雪は立ち上がり、春風と向き合った。
「私のことは関心がないのかしら?」
とストレートに言って除けた雪に、
「いや、ドライヤーの音が……」
と答えるや否や、雪は春風にギュッと抱きついて、
「もっと私のことを気にして下さい!」
と雪は下から春風を覗き込むように迫った。
「ドライヤーが……」
と言いかけた春風をそのままベッドに押し倒し、
「私はいつまでも待っているから、そのことを忘れないでね」
と雪は身体を預けた。
それは間違いなく雪を女であると認識した瞬間であり、あの江ノ電での別れ間際にキスをした雪が、どれだけの思いでそうしたのかを推し量るに足る瞬間でもあった。
「んなぁ、雪」
「ん? 何?」
「明日なんだけどさ、付き合ってくれないか?」
「ひょっとして、お母さんのこと?」
「ああ」
「……わかったよ」
「……」




