第281話 絆
真田家の今
「祐一は、春風くんの本当の父に違いないし、堂島はキミの父親ではない。ただ、死んだと聞かされていたキミが生きていることが分かり、接触を図って来たに違いないよ」
真澄と雪が、春風の母・美奈子と姉・翔子について語り出した。
「美奈子さんの住んでいるところはマンションで、雪と同じ酒匂中学校区だったわ」
「そうね、翔子先輩はお母さんの影響でサーフィンしていて、地元じゃ翔子先輩のこと知らない人はいないわ」
そこに明生が口を挟む。
「美奈子さんは元プロサーファーだったんだ。あの頃は、葉山美奈子と如月ハナが人気を二分していたんだよ」
じゃあ、僕の母はサーファーってこと?
それになんだ?
如月ハナって?
「あの? 如月って?」
と春風は明生に問いかける。
「キミらの世代では、如月潤音くんの母親って言った方が通りがいいのかもな」
紗矢香のお母さんなんだ。
でも、雪の父さんてよく知ってない?
「あの? 雪のお父さんって、サーファー事情をよくご存知じゃないですか?」
明生は一つ咳払いをした。
「実は僕も学生時代にサーフィンに夢中でしてね。キミのお父さんとお母さん、そして僕は鎌倉学院でサーフィン部の仲間だったんだ」
「へぇ、初めて聞きました」
と春風は驚き、そして雪も父がサーフィン部であったことに驚いた。
「じゃあ、春風くんのご両親は、サーフィン部で恋が芽生えたってことなの?」
明生が真澄を見てから答えた。
「まあ、そう言うことになるのかな」
雪が更に明生に問いかけた。
「父さんは美奈子さんを巡って、三角関係にはならなかったの?」
「僕が? いやいや、あのふたりの間に入るつもりはなかったよ。僕はね、その当時、真澄と付き合ってたからね」
雪が違和感を感じ、明生に尋ねる。
「あれ? お母さんは鎌学じゃなかったよね? 父さんとはどうやって知り合ったの?」
真澄は明生を見ながら恥ずかしそうに答えた。
「それはね……江ノ電に乗ってる時に、父さんにナンパされたのよ」
「それは驚き!」
と雪が笑いながら驚いた。
「雪の両親も、うちの両親も高校時代から繋がってたんですね」
と春風は改めて事情を理解した。
真田家の団欒
話し始めこそシリアスな展開に心が締め付けられる空気感こそあれど「春風は祐一の子である」と明生が断言したことで、春風の心は一気に解き放たれた。
そして親の馴れ初め話から、真田家は団欒へと雰囲気を変えた。
「さあ、お腹も空いて来たから、夕食にしましょう」
雪の母・真澄が話の切れ目に声をかけた。
「母さん、さっきから気になってたんだけど、この香ばしい香りはなんだい?」
と明生が問いかけた。
「何だかわかるかな?」
と真澄が皆に投げかけた。
これにいち早く春風が答えた。
「トンテキじゃないですか?」
「えっ? 当たりよ」
「えー、春風、凄すぎない?」
「どうしてわかったんだい?」
「この香ばしいさはニンニクで、肉が焼けた香りなんですが、牛肉独特の甘い香りがしないから、豚か鳥かと考えたんです。うちの母が三重県出身でよくトンテキが食卓に出てましたから、トンテキかと思って」
「いただきます」
「いただきます」
まずは皆が春風の顔を覗き込み、
「お味はどうかな?」
とそのリアクションを待った。
「……味付けめちゃ美味いです」
「ふうー、良かった」
と皆は春風の言葉に安堵し、まずはトンテキから食べ始めた。
「うん、母さん美味しいよ」
「真澄は服飾のプロだけど、料理もプロ級だな」
これを聞いた春風が、
「エスハニ、でしたよね?」
と聞き返した。
「うわぁ、春風くんが知っててくれるなんて、なんか嬉しい」
「春風くんが将来、雪と一緒になってくれたら、こんな感じになるんだな」
と明生はサラリと口に出した。
「あなた、気が早いわよ」
「いやいや、雪も悪い気はしないだろ?」
「やめてよ、なんか恥ずかしいよ」
これが明るい家庭……。
こんなにたくさんの笑顔が、僕に注がれる団欒。
僕には与えられなかった家庭。
どんなに望んだことか。




