四話 腐れ外道とゴミクズ
おはよう、こんにちは、こんばんは、猫屋です。
引き続き、読んでくださりありがとうございます。
今回はチルのターンです。
場合によっては熱いターンが続くかもしれません。
それでは、どうぞお楽しみください。
葛谷の遠い記憶。
親しい友人は俺をゴミクズと呼ぶ。
「ゴミクズ、遊びに行こうぜ」
最初は本当だった。
呼ばれることが嬉しかった。
この呼び名が痛みに変わったのはいつからだったろうか。
親しくない者からもそう呼ばれるようになり。
渾名が蔑称へと変わり。
「おい、ゴミクズこれやっといてくれよ」
「何やってんだゴミクズ、しっかりしてくれよ」
「先輩、なんでゴミクズって呼ばれてんですか?」
この痛みに慣れたのはいつからだったろうか。
気にならないふりをしていた。
被害妄想なのだと信じたかった。
「親しい友人にはゴミクズって呼ばれてます」
この痛みを笑いの種にし始めたのはいつからだったろうか。
大人になり、社会を経験して、痛みとの付き合い方を覚えて。
でも、平気になったわけでは無かったのだと気付いた。
気付けたのは全てから逃げ出した後だった。
~~
葛谷は商人のキャンプで食事の同伴にあずかっていた。
「いやぁ危ないところをありがとうございました。
私も私の護衛たちも、そして馬車も。
全て無事なのはあなたのおかげです、魔導師殿」
商人の名はクサレ・ゲドー。
新進気鋭の店持ちの商家、ゲドー商会の会長だ。
懇意にしている冒険者『自由の盾』を支援するオーナーの一人でもある。
商売への誠実さとクサレ・ゲドーという名前のギャップを利用して顧客を惹きつけ、力をつけてきた。
クサレが財貨と心血を注ぎ、大切に育ててきたものたちが失われずに済んだ。
最悪の場合、全財産だけでなく、命すらも奪われていたかもしれない。
クサレは葛谷にとても感謝していた。
そして、同時に先程の戦闘で見せたあの火炎魔法を警戒してもいた。
機嫌を損ねればその魔法がこちらに向くかもしれない。
商人クサレは感謝の気持ちを伝えると共に、葛谷の為人を知っておきたかった。
まずは商人の武器(言葉)で相手の警戒を解いてみせよう。
商人クサレは水を飲み、喉を湿らせ、唇を舐めた。
~~
商人クサレが口を開く。
「自己紹介がまだでしたな魔導師殿。
まず、こちらの護衛たちは『自由の盾』という冒険者パーティでしてな、
最近注目されておる大変優秀で評判の良い者たちです。
信仰に厚く、人情に厚く、そんな彼女らに私めも幾度と助けられまして、
今ではすっかり遠方での商談に不可欠なパートナーになっております。
魔導師殿も護衛を欲される際は是非、彼女たちを頼る事をお薦めしますぞ」
葛谷は思った。すごいしゃべる人だな、と。
商人のトークに合わせて、となりに座っている女騎士が頭を下げる。
「私は『自由の盾』の代表を務めている。エインフェリアだ。よろしく頼む。
今は護衛の任務中であるため、申し訳ないが後日、改めて礼をさせてもらいたい。
仲間を一人も失わずに済んだのは魔導師殿のおかげだ。ありがとう」
葛谷は、いえいえと女騎士改めエインフェリアさんに頭を下げて返す。
葛谷は思った。エインフェリアさんは生真面目そうに見える。
一線を引いて内面を悟られないように徹してるみたいだ。
若いし女性だし代表だし苦労してそうだ。偏見だったら申し訳ないけれど。
商人のトークはまだ続く。
葛谷はただ相槌を打つだけだ。
「そして私めですが、見てこの通り商人をさせていただいております。
クサレ・ゲドーと申します。この名の意味する通り私は腐れ外道でしてな、
商売とあらば奴隷や盗品、禁制品まで何でも手を伸ばし取り扱う、ま・さ・に腐れ外道。
しかし、悪党ではございますが女神アー・ソレナ様に誓って、人の道は決して外れてはおりませんよ。
商売は誠実にあるべし、信用は宝であるというのが私どもの信条であります。
けっして損はさせませんので、ご入用の際には是非、私どもゲドー商会を使ってくだされば嬉しく存じます」
揉み手揉み手で胡散臭い仕草を見せてはいるけれど、話の内容はわりとまともである。
取り扱う商品のくだりとか、自分の名前をやけに擦ってるなとか、色々と気になることはある。
ただ、葛谷は思った。めちゃくちゃしゃべる人だな、と。
~~
商人クサレがひとしきり話し終え、息を継ぐ一瞬の静寂。
エインフェリアさんを見れば、必要以上に話に加わる気は無い様子。プロだ。
ようやく葛谷のターンが回って来た。
「…色々と言いたいのですが、失礼があったらすみません」
商人はうなずき、にこやかに先をうながしてくれる。
「俺は五味葛谷といいます。五味が名字で葛谷が名前ですね。
昔はゴミクズなんて当て擦って呼ばれていたこともありますが、
俺のことは葛谷と呼んでやってくれると有難いです」
商人の目が見開かれたように感じた。
黙して続きをうながしてくれる。
エインフェリアさんの反応は読み取れない。やはりプロだな。
「それから…クサレさん、サリーと愛称で呼ばせてもらってもいいだろうか?」
商人の目の色、雰囲気が少し変わったように感じる。
葛谷自身の認識が変わっただけかもしれない。
商人はうなずき、了承してくれた。
葛谷の世界には『名は体を表す』ということわざや、
『言霊』という言葉には物事を変える不思議な力があるという考え方がある。
他者から呼ばれ続けるうちにその呼び名の通りの人間に変化してしまうというものだ。
一種の自己洗脳とも言えるだろうか。
本人が変わったのかも知れない。周りの見方が変わったのかも知れない。
葛谷が感じたそれは言葉の持つ何らかの力だったのだろう。
閑話休題、葛谷の話は続く。
「次に助太刀の件については、俺にも加勢する理由があったので気負わずにいてください。
あと…たぶんセールストークなんだろうなとは理解してはいますが…
サリーさんは外道でも悪党でも無いと思います。
先程は自分の紹介よりも先に護衛の皆さんを俺に紹介してくれましたよね?
それに護衛の皆さんを見ているとサリーさんを本当に信頼しているんだなと感じ取れます。
見当違いなことを言っているなら申し訳ない。
俺の目が節穴でなければ、サリーさんは至極真っ当な商人であると感じました。
是非、その機会にはお世話になりたいと思います。よろしくお願いします」
最後に葛谷は改めて頭を下げて締めくくった。
~~
商人クサレは内心、かなり感動していた。
葛谷がセールストークに乗って来ず、予期せぬ方向から切り返して来たからだ。
その刃は鋭く、核心を突いている。
そして、こちらを気遣う温かみが感じられた。
単なるお人好しという訳では無い。
へりくだる相手にも丁寧に気遣える。
揺るぎの無い一本の芯のようなものを感じる。
悪くはない、悪くはないな。
これではどちらが解きほぐされたのか分からない。
クサレはちらりと横を見た。
長い付き合いのクサレには分かる。
エインフェリアの目は心なしか輝いて見える。何らかの関心を持った目だ。
ふむ、商人の勘が訴えてくる。逃がしてはならないと。
「私どもには勿体ないほどの過大なる評価、有難く、そして嬉しく思います。
その信用を損なわぬよう、精進していくことを約束いたします。
是非ともご贔屓にしてくださいませ。商会を挙げて歓迎いたしますぞ。」
クサレは思う。
ああ、大事なことを忘れるところであった。
「私の方からも一つお願いが。クーヤ殿と愛称で呼ばせてもらってよろしいですかな?」
クサレは葛谷に手を差し出した。
~~
騎士エインフェリアは冒険者パーティ『自由の盾』の代表である。
騎士エインフェリアは仕事のプロである。仕事以外ではけして前に出てはいけない。
騎士エインフェリアは護衛依頼の遂行中であり、私情を持ち込むのはご法度である。
クサレ様の事は尊敬している。
定期的に仕事をいただけるのも大変有難く思っている。
しかし、一つだけ不満があった。
クサレ様はよく自分自身を貶めた物言いで相手の反応を観察するきらいがある。
商人としては正しいのかも知れない。
エインフェリアは自身を堅物であると認識している。
気に食わないものは、やはり気に食わない。
魔導師殿…いや、葛谷殿だったな。
うむうむ、彼はなかなか良い『見る目』を持っている。
(私もサリー様と呼ばせてもらおう)
葛谷が知らぬ間に、
騎士の心をチクチクと刺し続けていた棘が秘かに抜き取られていた。
~~
葛谷はクサレが差し出した手を握り返す。
「改めてよろしくお願いします。ええ、クーヤと呼んでください。
良ければエインフェリアさんも。
初めて呼ばれる愛称ですが、とても心地よいです。ありがとうございます」
おっさんが愛称で呼ばれて喜ぶのは少し恥ずかしい気もする。
しかし、葛谷はその新鮮な響きに心地よさを感じていた。
お疲れ様です。
読了ありがとうございます。
満足いただけましたでしょうか。
次はいよいよ町へ…はまだ着きません。
まだ熱いターンが待っています。
ご感想やお気づきの点などがありましたら、どうぞコメントにて教えていただけると嬉しいです。
※本作は制作過程において、AIから文章の添削や創作上の助言を受けています。




