二話 長閑な村生活
おはよう、こんにちは、こんばんは、猫屋です。
一話に続き、読んでくださりありがとうございます。
前回は動きの激しい内容でしたが、今回はチルのターンとなっています。
緩急つけて風邪引かしてやんよぉ!
それでは、どうぞお楽しみください。
誠実の女神シラン・ケド、
共感の女神アー・ソレナ、
調和の女神イロン・ミトメル、
三人の女神の手によって世界ドコダローナは誕生した。
大地に人が誕生し、文明を築く。
人々は女神を敬い奉った。
しかし、それを良く思わぬ者たちがいた。
享楽の女神オスナ・オスナ、
怠惰の女神アス・ヤール、
賭博の女神ツギ・アタル、
三人の悪神が手を組み、人々を狩る存在「魔物」を大地へとばら撒いた。
これが人々と魔物の始まり。
そんな伝承があったり、無かったりするそうな。
~~
熊を倒した後。
「クズヤ、お前んなもん大事に抱えやがって。自分の命のが大事だろうがよ…
まぁでもクズヤがどんな奴かってのは充分に知れた気はするぜ。仕方ねぇやつだ」
獲物の肉が入った革袋をロベルトさんに手渡すと苦笑いしながら受け取ってくれた。
葛谷自身も捨てて逃げた方がいいと分かってはいた。
でもなぜか捨てられなかったのである。
獲物の血であの熊をおびき寄せるという意図も無かったわけでもない。これは後付けの理由だけど。
それにあの獲物はスープの対価でもあった。これも後付けの理由だけど。
色々理由は付けられる。
けれど、次の機会があるなら(無い方がいいけど)捨てて逃げよう絶対。葛谷はそう思った。
「…にしても、クズヤは運のいいやつだな。
逃げた先が湖で鬼熊と一緒に転落、ヤツは溺れてお前は助かった、なんてよ」
なんとなく、アイテムボックス(仮)の能力は明かさない方がいい気がしたので、そういうことにした。
人間知らなくて良いことは少なからずあるものだ。
知ってしまえば、知らなかった頃には戻れない。
知ることがその人を危険に晒す。そういうことだってあるのだ。
「鬼熊の肉は村で分け合っていいんだな?まぁ痛んじまうよりはいいか。ありがとよ。
だが、毛皮と爪、あとは肝とかか?荷車に積んどくからちゃんと持って行けよ。
生きるのに金は多少あった方がいい」
これは有難く頂戴することにした。
熊肉を譲る代わりに荷車も用意してもらえた。壊れて倉庫に眠っていたものを直してくれるそうだ。
そして葛谷にとって最も良かったこと。
ロベルトさんの山刀が家の道具入れの中に仕舞われていることだ。
~~
森で最初に見つけてくれた少女はナーシャちゃん。
ロベルトさんの娘さんだ。年は小学生くらいだと思う。
ナーシャちゃんと一緒に葛谷は森の中を歩いていた。
「おじさん、私から離れちゃ駄目だよ。迷子になったら今度は助からないかもしれないからね」
おそらく、絶対に葛谷の方が人生経験は多いはずだが。
複雑ではあるが迷子になっていたことは事実なので、素直に忠告は受けておく。
「ありがとう、ナーシャちゃん。助かるよ」
フンスとお姉さん風を吹かすナーシャちゃんには、本当に感謝しているのだ。
あの時、見捨てられていたら今頃生きていなかっただろう。熊もいたし。
葛谷は周りを警戒しながら歩いている。
「ナーシャちゃんは凄いよ。自分で小遣いを稼いでるんだね。森が怖くないのかい?」
ナーシャちゃんは家の仕事を手伝うだけでなく、
森の浅いところで野草を摘み、村民や他の子供と物々交換しているらしい。
交換したオヤツを友達同士で分け合っているそうだ。良い子やで。
「父さんの娘だからね。森に入ってすぐのとこだし。怖い熊はおじさんが倒してくれたんでしょ?
たぶんしばらく他の魔物は寄って来ないよ。もしもの時はこれも持ってるし」
そう言って紐の付いた小さい玉を取り出して見せてくれる。
匂い玉と言って紐を引っ張ると炸裂音と共に強烈な悪臭をまき散らす道具らしい。
けっこうどんな生き物にも効くとか。
あの熊でさえ動きを止めるらしい。結局追いかけてくるんで安心は出来なそうだけど。
それにしても異世界の子供は逞しいな。
葛谷が知らないだけで向こうの世界でだって子供なりに逞しく生きているのかもしれないが。
ナーシャちゃんは葛谷と話しながらもテキパキと野草を摘み、葛谷が抱える籠へ納めていく。
葛谷も負けじと野草を探し、見覚えのあるそれを見つけて摘もうとした。
「あ、おじさん、それダメなやつだよ。死にはしないけど吐いちゃうよ」
葛谷の手が止まる。
「…俺、この草、食べたことあるんだけど」
ナーシャちゃんの手が止まる。
「そういえば最初に会った時、何か食べてたね。これ、食べてたんだ」
~~
森からの帰り道、森から抜けるところ。
ナーシャちゃんが足を止めた。
「あ、リゴンが生ってる。あの色は食べ頃だよ」
ナーシャちゃんが指さして教えてくれた先には果樹が生えている。
果樹の枝には赤い果物がいくつか生っていた。
「青いのは酸っぱいんだけど、赤いのは甘くて美味しいんだよ。オヤツに持って帰ろう」
ナーシャちゃんはぴょんぴょん飛んだり背伸びをしたり、果物を採ろうとしているが、少し高さが足りないようで苦戦している。
「ナーシャちゃん、俺が採ってもいいかな?」
葛谷が声を掛けるとナーシャちゃんは笑顔になり場所を譲ってくれた。
葛谷は抱えていた籠を草の上にそっと置き、
ナーシャちゃんの教えてくれる通りに食べ頃の果実を収穫していく。
「ありがとう、おじさん」
葛谷は満載になった籠を抱えて、少女と並んで村へ戻るのだった。
~~
ロベルトさんの妻であるナタリーさん。
葛谷は荷車が仕上がるまで、ロベルトさんの家で世話になっている。
そしてその対価として一家の手伝いをさせてもらっていた。
今はナタリーさんの調理助手をしている。
「そうそう、上手よ。これが地味に大変なのよね。助かるわ」
ナタリーさんが葛谷を褒めてくれる。
葛谷が今やっていることは窯焚きである。
窯に火を入れ薪を燃やし、その火で食材を調理するのだ。
調理工程に合わせて息を吹き込んだり、投入口の広さを調節したり。
スイッチ一つで火が付く便利な道具など無いのだ。実はあるらしいけどこの村には無い。
「熱いでしょ、後でちゃんと水を飲んでね」
当然、火の傍での仕事だから熱い。葛谷は汗だくだ。
それにしても、ナタリーさんは頻繁に葛谷を褒めたり心配したりしてくれる。
それはもうロベルトさんが焼餅を焼いてしまうくらいに。
おそらく葛谷よりも年下で、そんな女性に褒められるというのは、やはり恥ずかしい。
悪い気分では無いのだが。あの子にしてこの親ありというか。
ロベルト爆発しろ。ごめん、やっぱり爆発しないで欲しい。
~~
ロベルトさんは狩人ではあるが、畑仕事もしている。
副業的なものらしく、本業がない日は他の村民の手伝いに回るらしい。
葛谷はロベルトさんと共に鋤を振るっていた。
「おう、最初はへろへろだったのに、なかなか様になってきてるじゃねぇか。
やっぱ一人より二人だよな。いつもより仕事が早く終わりそうだぜ」
ロベルトさんは狩猟で鍛えられた柔軟な肉体を存分に使い、テンポよく耕していく。
葛谷も負けじと鋤を振るう。引き籠り生活で体力も筋力も落ちている。
でも、身体を動かすのが楽しい。道具が馴染み、動きが最適化されていく。
若い頃のあの熱さ、エネルギーが自分の中に湧き出てくるのを感じた。
「ありがとうございます。ロベルトさんには全くかないませんが」
休息を取り、水筒の水を喉に流し込む。超うめえ。
「そら当たり前よ。俺たちゃ生まれた時から畑やってんだ。負けてらんねぇよ」
ロベルトさんは謙遜しつつも、どこか誇らしそうだ。
「休憩はしっかり取っとけよ。疲れを感じたら無理すんな。身体壊しちゃあ仕事できねぇぞ」
葛谷は翌日、筋肉痛で寝込んだ。
~~
桃太郎、金太郎、竹取姫、花咲か爺さん、ぶんぶく茶釜。
葛谷の世界における童話にあたるものがこの世界にもある。
毎日勤勉に働き続ける人々を見て、
うるさくて眠れぬと怒った悪神アス・ヤールは呪いを振りまき、7日のうち2日を働けなくした。
5日を超えて働くと怠惰の呪いが降りかかり、幾度も重なれば家から出れぬほどに衰弱してしまう。
人々は呪いを恐れ、必ず7日のうち2日を安息日と定めたそうな。
「…世界がホワイトだ」
遠くを見る目で葛谷は言葉を漏らす。
葛谷はナーシャちゃんに童話(というか伝承?)を教えてもらっていた。
「?」
ナーシャちゃんは不思議そうな表情を浮かべていた。
この日は安息日。
村の子供たちと遊んだり、大人同士なら酒を飲みかわしたり談笑を楽しんだり。
人々は思い思いに身体と心を休めるのだ。
~~
荷車が直った。
村の職人によって丁寧に仕上げられ、まるで新品のようだった。
荷車にはあの熊の毛皮や爪、乾燥させた肝(薬になるとか)、他には餞別としてもらった食糧。
旅立ちの時が来た。
「悪いな。もっと何か持たせてやりたいんだが、食い物以外は無くてよぉ。
短い間だったが楽しかったぜ、クズヤ」
ロベルトさんは苦そうな表情を見せた後ニカリと笑う。
「いつでも帰って来てね。食べるに困ったら、ご飯はここにあるからね」
ナタリーさんは心配そうな表情だ。
ナタリーさんの息子ではないし、たぶん葛谷の方が年上で。
悪い気はしないのだけれど。なんだかなぁ。
「おじさん、町で迷子になったら門番さんとか衛兵さんを探してね。
あと、ギルドで身分証を再発行してもらうの忘れちゃだめだよ」
ナーシャちゃんも心配してくれている。
良い子には違いないんだけど。
小さな子供にこんなに心配されて複雑ではある。
しかし悪い気分ではない。
「皆さん、ありがとうございます。生活が落ち着いたら、また顔を見せに来ます」
手を振り、背を向け、荷車を引いて歩く。馬などいない。人力だ。
村で異世界での生き方を学び、葛谷は道を進む。
さぁ冒険はこれからだ。
お疲れ様です。
読了ありがとうございます。
満足いただけましたでしょうか。
風邪引けましたか?
今度は熱く温めてやっからよぉ!
ご感想やお気づきの点などがありましたら、どうぞコメントにて教えていただけると嬉しいです。
※本作は制作過程において、AIから文章の添削や創作上の助言を受けています。




