一話 怒涛の異世界転生
初めまして猫屋と申します。
読んで良かったと思ってもらえるような、満足感を残せる作品を描いていきたいと思います。
これは一人のおっさんが異世界に渡り、ウンコ製造機から人間に戻り、再び成長していく物語。
それではどうぞ、お楽しみください
野鳥がさえずる、木漏れ日の中、男は棒立ちになり茫然としていた。
「…どこだここは」
男の名は五味 葛谷。
渾名はゴミクズ。
日本社会の闇に揉まれて消耗しきり、半ば逃げ出す形でドロップアウト。
何があったかは話せない。
一言で表現するならばブラック怖い、だ。
葛谷は両親から譲り受けた一軒家に閉じこもり、ウンコ製造機としての道を歩み始めていた。
食糧が底をつき、社会へ出る恐怖と戦って数日。
とうとう飢餓に負けて、近所のショッピングセンターへ買い出しに向かったその日。
貧血でよろめき階段を踏み外し、頭を強打し呆気なく昇天。
気付けば森の中に佇んでいた。
「…腹減ったな」
葛谷の腹が鳴った。
空腹を自覚した瞬間、強烈な飢餓感が襲い掛かる。
何か食べなくては死ぬ。
「食べ物…食べ物…」
餓鬼か亡者のように、ふらふらと食べられるものを探す、探す。
地面に生えた草、木ノ実や果物、よく分からない茸。
食べて大丈夫なのかとか、毒があるんじゃないかとか、考えたのは食べた後だった。
とにかく口に詰め込み、噛み砕き、呑み込み、吐き戻す。
そんなことを繰り返してようやく飢餓感が静まり人心地ついた頃。
葛谷は向けられた視線に気が付く。
「うわぁ……」
葛谷自身の声か、その視線の持ち主の声かは分からない。
いつから見られていたのか。
血の気が引いた顔色で胡乱な目で葛谷を見る少女の姿があった。
少女は踵を返そうと後ずさる。
やばい(社会的に)死ぬ。
「…待って!お願い!まぁ待ってほしい!俺は怪しい者…だろうけど、怖い人間じゃあない!」
手の平を見せ両腕を伸ばし、バンザイ無害をアピール。
葛谷は慌てて少女を引き止めた。
葛谷の怪しさ満点の行動に、少女はびくりと怯えを見せた。
しかし、立ち去ることは思いとどまったようで、その場で葛谷を警戒するように見ている。
葛谷はひとまず第一村人(話ができそうな人)を逃がさずに済み一息つく。
「オーケー、オーケー、ありがとう。ホントにありがとう。えーっと、俺の言葉は通じてる?」
無害アピールを維持したまま少女に語り掛けると、黙ったまま小さくうなずいてくれた。
「ふー…っ、ありがとう。言葉は通じるか。良かった。
えっと…おじさん、迷子になって困ってて…
申し訳ないけど、誰か大人の人を呼んできてくれないかな?」
葛谷の異世界生活は不審者と少女の出会いで幕を開けた。
~~
「美味い…生き返る…まじ感謝、ありがとう、ありがとう」
葛谷は木皿に盛られたスープを貪るように食っていた。
テーブルの向かいには、山刀を手元に置き、頬杖をついて葛谷を見張る中年オヤジ。
その後ろ、壁の向こうから心配そうに様子を覗き見ている少女とその母親らしき姿もある。
「お前さん、よく食うな」
食べっぷりを見ながら呆れたように声をかけてくる。
葛谷はモゴモゴと口を動かした後、ごくりと飲み下した。
「いや、申し訳ない。あまりに空腹だったもので。この御恩は必ずお返しします。
お宅のお嬢さんにも感謝を。あのままでは死んでいたかもしれない」
葛谷は食べる手を止め、中年オヤジに頭を下げる。
もしも誰にも会わずに彷徨っていたら、
もしも少女が逃げ去っていたら、
もしも少女が大人を連れて来なかったら、
もしも大人に囲まれて捕えられていたら、
もしものことを考えれば恐ろしく、この幸運と出会いに葛谷はとても感謝していた。
「おうよ、礼はあとでいい。…で、お前さんはあそこで何してたんだ?」
照れ臭さを隠すように頬をかきながら中年オヤジは問いかける。山刀からは手を離さずに。
やばい(物理的に)死ぬ。
葛谷は必死に頭を回転させ、記憶を整理する。
生きるのに疲れた。
家に閉じこもった。
腹が減った。
頭打って目が覚めたら森にいた。
よし、QEDは完璧…じゃない。最後が意味不明。
どうやって説明しよう。
葛谷は考えながら経緯を話し始める。
「正直に話したいんだけど、自分でも理解出来てないことがあって…それでもいいだろうか?」
中年オヤジは怪訝な顔をしつつも顎でしゃくって続きを促してくれた。
「都会へ働きに出てたんだけど、そこで色々あって疲れて故郷に戻って…家に閉じこもってたんだ。
それで、食事の材料が尽きたんで買い出しに行ったんだけど…いつの間にか森にいたんだ」
葛谷が悩みながら言葉を選んで説明していく間、中年オヤジは眉間に皺がどんどん寄っていく。
話が終わる時にはこめかみを指でグリグリと押さえていた。
「一番重要なところが欠けてる気がするんだが…そこが自分でも理解できてないところ…ってやつか」
中年オヤジは腕を組み唸る。
葛谷は冷や汗を流し、じっと反応を持つ。
無限にも思える時間を経て、突如カッと目を見開いて中年オヤジが口を開いた。
「いくら考えても分からんものは仕方がない。
話の中身はともかく、誠意は伝わった。あとは信用だな。
よし、さっき恩を返すと言ったな。さっきのは俺たちのメシだったんだ。
信用を得るためには…分かるな?獲物を狩りに行くぞ。
まさか…断るなんて、しねぇよな?」
凄みながら返答を迫るオヤジに葛谷はただ頷くことしかできなかった。
~~
今、葛谷は命の恩人たる中年オヤジと森にいる。
草を掻き分けて進む中年オヤジの後ろを、葛谷は革袋と弓を持たされて歩いていた。
「そういや、お前さんの名前を聞いてなかったな。俺はロベルトってんだ。村では狩人をやってる」
中年オヤジ改めロベルトが気さくに話を振ってくれる。
話を振りながらも進む足は止まらず、山刀で草や枝を切り開いていく。
「俺は五味葛谷って言います。親しい友人にはゴミクズって呼ばれてます」
流石プロだなと感心しながら何気なく返答する葛谷。
中年オヤジが止まる。
「あー…言いたいことは色々あるんだが…ゴミクズヤってのが名前か?」
振り返ったロベルトは微妙そうな表情で、葛谷はそれに疑問を感じつつも答える。
「ゴミが名字でクズヤが名前ですよ。」
ロベルトは難しい顔で言葉を続ける。
「…あのよ、俺はマナーを知らねぇ不良オヤジだが、
自分の子には良い子になってもらいてぇって思ってるんだ。
クズヤって呼ばせてもらうぜ。いいか、娘にゴミクズなんて呼ばせんなよ?」
言葉の最後で少しばかり凄んだ後、ロベルトは進路に向き直って、再び歩き始める。
葛谷はよく分からないまま、その背中を追っていった。
「…止まれ。少し静かにしてろ」
しばらく歩いてロベルトが再び足を止めた。
葛谷も足を止める。
ロベルトは手と指で獲物の方向を教えてくれているようだ。
示す先には額に角の生えた兎が一匹。
兎は時折周りを警戒しつつ草をモシャモシャと食んでいる。
「…」
ロベルトが掌を差し出しクイクイと動かす。
視線と動きから葛谷は察して、持たされていた弓を差し出す。
ニヤリと満足気にロベルトは受け取り、矢をつがえ、狙い、息を止める。
葛谷もじっと息を潜めている。
「…キュワッ」
兎の悲鳴とトスリという軽い音。
胴体を縫い留められた兎が葛谷の目に映った。
「…ふぅ、一匹仕留められたな。クズヤ、おめぇなかなか分かる奴だな。
おん…?口を抑えてどうした?クズヤ?」
葛谷は草陰へ駆け込み嘔吐した。
~~
「クズヤ、お前どうやって生きてきたんだよ。肉食ったことねぇのか?」
ロベルトは兎の頭を落とし、腹を開き、内臓を地面の穴に落としていく。
兎の首から血が滴り、穴へと流れていく。
葛谷は草陰へ駆け込み二度目の嘔吐をした。
~~
「…すみません、もう出ないので大丈夫ですぅ…うぇ」
げっそり青白い表情でロベルトの背中をふらふらと追う。
葛谷の手元にはまだ生暖かい革袋が抱えられていた。
ロベルトは今にも死にそうな葛谷をちらちらと気にしながら草木を切り開いていく。
「お前、動物殺したことないのかよ。どこの貴族の坊ちゃんだよ…いや、いい。何も言うな。
お互い気にしない方が身のためだろうよ」
葛谷が弁明しようとするのを、ロベルトは頭を振って止める。
二人はそのまま無言で森を進んでいく。
ロベルトが急に立ち止まった。
「…待て。しくじった。やべぇ奴がいる。」
ロベルトの頬を汗がツっと流れていく。
葛谷はロベルトの視線を追う。
一言で表現するなら巨大な熊。頭に二本の頑丈そうな角が伸びている。
熊は何かを掘り出している真っ最中のようだ。ガリガリとブルドーザーのように地面が掘られている。
「アイツは鬼熊つってな、普通こんな浅い森にはいねぇはずなんだが…
ともかく見た通り凶悪で執念深いやつらだ。
普通の人間は遭遇すればまず生き残れない。幸いまだ気づかれてはいないようだが…」
気配を殺し、声を潜めてロベルトが話してくれる。
「いいか、俺が囮になる。俺たちが掻き分けてきた道が分かるだろ?
お前は後ろを見ず、来た道を死ぬ気で走れ。荷物は全部置いていけ。生き残ることだけ考えろよ」
ロベルトが熊から目を離さずに葛谷へ指示する。
熊が動きを止め、鼻をヒクつかせる。
やばい(ロベルトが死ねば村に帰れなくなって)死ぬ。
やばい(ここで見捨てれば一生後悔しながら)死ぬ。
やばい(このままでは二人とも)死んでしまう。
「…えっ、おい、クズヤお前…っ」
ロベルトが慌てる様子が見えた気がするが、葛谷の行動は早かった。
革袋を抱えたまま葛谷は駆けだす。
死ぬ気で走りながら叫ぶ。
「おおおおおおおお!こっちだプーさん!追いついてみなああああ!俺のばかやろぉおおぃ!!」
葛谷に何か勝算があったわけではない。
久しく感じていなかった人の優しさに触れたから。
ロベルトを家族の元へ返したいと思ったから。
理由はいくつもあったのかもしれない。
気付けば足が動いていた。
走りながらちらりと後ろを見る。
熊が追ってきている。しかも早い。
必死に走る。とにかく走る。木々の間を駆け抜けていく。
あの熊の足音が、息遣いが、すぐ後ろに聞こえる気がする。
やばい(このままじゃ追いつかれて)死ぬ。
「うぉおおお!邪魔だ邪魔だ邪魔だ!死んでたまるかー!!」
枝を避け、草を掻き分ける。
目の前に現れた大木に手を付け避けようとした時、フッと大木が消えた。
「え?」
当然、急に大木が消えたことで葛谷の身体は下へと引っ張られていく。
熊はすぐ傍まで来ていた。
ブオンという風切り音、切れ味の良さそうな凶悪な爪が耳の横を通り過ぎるのを感じた。
幸いだったのは、そこが崖で、その下が湖だったことだろう。
「あああああああ!マジかよ、マジかよー!!」
ドボンという大きな音と共に湖に噴水が上がった。
~~
葛谷は意識を手放さなかった。
なぜなら…
やばい(溺れて)死ぬ。
必死に水を掻き分けて湖面に顔を出す。
新鮮な空気を吸い込み、すぐさま崖の上を見る。
熊がこちらを見ながらウロウロと動き、降りられそうな場所を探っている。
危機はまだ去っていない。
服が水を吸って重い。
脚は棒のようだ。
体のあちこちに怪我をして血が滲んでいる。
革袋は濡れてしまったが中身は無事。
大木はなぜ消えた。
あの大木を思い浮かべる。
死ぬか生きるかの瀬戸際だったからか、鮮明に思い出せる。
確かこんな大木だった…
「…はぁ?」
目の前に、あの大木が鎮座していた。
訳が分からない。大木が消えて、何も無かった場所にまた現れた。
この大木が消えた時、何があった。
必死に逃げていた。
邪魔だ邪魔だと木や草を避けて掻き分けて…
「…はぁあ?」
気付けばまた大木は消えていた。
あの木はどこへ…そう考えた時。
「マジかよ…」
また大木は現れていた。
葛谷は気づいた。
「ありえねぇ…これ、チートってやつなのでは」
~~
「よく分からんが、何かしらモノを出し入れできるチートが俺には備わってるらしい」
少しばかりの猶予を得て、休息しつつ検証してみた。
条件はまだ分からんが、生物、無機物、何でも手で触れて消えろと念じれば収納できる。
収納できる限界は分からない。湖の『水』は全て収納できた。今は元に戻してある。
ちなみに、気になる革袋は無くさないようにしまっておいた。
対象物に出ろと念じれば出てくる。出す時は念じるだけでいい。出す場所は調整できそうだ。
家で食っちゃ寝してた時、暇つぶしに読んだウェブ小説。
都合良すぎワロタとか言って真っ暗な部屋で笑ってたっけ。
こいつはたぶんアイテムボックスとかいうチートじゃないだろうか。
崖の上ではまだ熊がうろついている。
じっとこちらを見つめ熱いラブコールを送ってくる。
ノーセンキューだ。
「…とはいえ、これがこの状況で何の役に立つ?」
熊に触れて消すのはどうだろうか。
やばい(ハグされて)死ぬ。
直接あいつを収納するのは無しだ。出来る気がしない。
かすかに覚えているロベルトさんの話では執念深いらしい。
葛谷の知っている熊とそう変わらない。
つまり逃げても生き残れない。
あの熊を殺して生き残るしかない。
「…あいつの弱点は何だ?」
崖上で土煙が昇る。ガリガリガリとあの音がここまで響いてくる。
穴を掘って降りてくるつもりか。
猶予はもう無い。
~~
崖上には熊の姿は無い。
その代わり、手を置いた絶壁の向こう側からガリガリと振動が伝わってくる。
「やばいなぁ…死にたくないなぁ…」
準備は整えた。あとは誘い込むだけだ。
葛谷は壁から離れ、湖の中央へと歩いていく。
ピチピチと跳ねる魚を横目で見る。
「…悪いね。少しの辛抱だよ。俺も生きるのに必死なんだ」
バガン。
壁に穴が現れるのはすぐだった。
穴の奥でギラリと目が光る。
葛谷の匂いを嗅ぎつけ熊が迫る。
熊が葛谷めがけて腕を振り上げた。
「プーさんごめん、キミの愛は受け取れないんだ」
熊が見たものは一面の水だった。そして最期まで。
大量の水が熊を目掛けて放流されていく。
熊は水圧に押されガボガボと溺れかけている。
何が起きているのか理解もできていないだろう。
葛谷は水圧で熊を封じつつ、じりじりと立ち位置を入れ替えていく。
後退し、そして熊に背を向け、一気に湖の縁を駆け上がった。
~~
「…死ぬかと思った」
ドサリと座り込む。
見やった先には揺らめく湖面と元気に泳ぐ魚たち。そして息絶えた熊の亡骸が沈んでいる。
葛谷は熊を溺死させることに成功した。
「…おーぃ!クズヤぁ!生きてるかー!!」
崖上からロベルトさんの声がする。
村の男衆だろうか。他の男たちの声も聞こえてくる。
まさか探しに来てくれるとは思わなかった。
疲れ切った身体と頭。
葛谷は言葉を口に出す。
「あぁ…もしかすると、ここは異世界なのかも知れない…」
~~
お疲れ様です。
読了ありがとうございます。
満足いただけましたでしょうか。
ご感想やお気づきの点などがありましたら、どうぞコメントにて教えていただけると嬉しいです。
※本作は制作過程において、AIから文章の添削や創作上の助言を受けています。




