第16話 ア ン ト ワ ネ ッ ト — — タ ン プ ル の ⽯
⽯の壁というものは、冷たいだけでなく、重い。
視覚的に重い。⽬に⼊るたびに、何かが肩にのしかかってくる。天井が低い。窓が⼩さい。外の光が、細く切られて⼊ってくる。
タンプルの塔に来て最初の夜、私は眠れなかった。
⼦どもたちが眠った後、私はひとりで窓の外を⾒た。⾒えるのは、空の⼀部だけだった。星がいくつか⾒えた。
アルマンも、どこかでこの星を⾒ているか、と思った。
それとも、もう⾒ていないか。
その予感は、その頃から、うすくあった。戦争が始まって、彼が⾰命軍に加わったとすれば——という仮定は、可能性ではなく、確信に近かった。
しかし確かめることができなかった。
確かめたくなかった、という部分も、正直にある。
ルイが処刑されたのは、翌⼀七九三年の⼀⽉だった。
その⽇のことを、どう書けばいいかわからない。
夫が、国王が、断頭台に上った。私はタンプルの塔の中にいた。直接⾒たわけではない。しかし、⼤砲の⾳が聞こえた。遠く、しかし確かに聞こえた。
私はシャルルを抱きしめていた。
シャルルは何かを感じ取っていた。⽗が死んだということを、本能で知っていた。しかし⾔葉にはしなかった。ただ、私の胸に顔を押しつけていた。
その重さが、今でも腕の中にある気がする。
ルイは、多くのことが不得⼿な⼈だった。王として、夫として、私の期待に応えることが少なかった。しかし彼は、誠実な⼈だった。不器⽤に、しかし誠実に、⾃分の責任と向き合おうとしていた。その誠実さを、私は⽣前に、⼗分に伝えたか。
伝えなかった、と思う。
宮廷の礼儀と距離感の中で、夫に「あなたの誠実さを尊敬している」と⾔う機会を、私は作らなかった。
それが悔いだ。
アルマンへの悔いと並んで、それが⼀番の悔いだ。
⾔葉は、⾔えるときに⾔わなければならない。
⾔えなくなる⽇は、必ず来る。




