↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い目の子どもたち ーーマリー・アントワネットと、⾰命の時代に⽣きた⼦らの物語  作者: はまゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/19

第14話 ア ン ト ワ ネ ッ ト — — ヴ ァ レ ン ヌ の 夜

逃げようとした夜のことは、恥ずかしいとは思わない。

ただ、間違いだったとは思う。

ルイが決断したとき、私は賛成した。国境を越えれば、オーストリアが後ろ盾になる。

⼀度退いて、体制を⽴て直す。そういう計算があった。計算は間違っていなかったかもしれない。しかしフランスの⺠衆が何を感じるかを、私たちは読み誤っていた。

王が逃げる、ということが、何を意味するか。

⺠衆にとって、それは「王が⾃分たちを⾒捨てた」ということだった。

私にはその感覚が、⾺⾞に乗るまでわからなかった。

ヴァレンヌで⽌められて、連れ戻される⾺⾞の中で、私は窓の外を⾒た。道沿いに⺠衆

が⽴っていた。叫ぶ者、⽯を投げる者、ただ黙って⾒る者。

黙って⾒ている⽬が、⼀番こたえた。

怒りは理解できる。怒りは感情だから、通じ合える部分がある。しかし、ただ黙って⾒ている⽬の中に、何があるのか。諦め? 憐れみ? それとも冷静な審判?

わからなかった。

アルマンが同⾏しなかったことを、⾺⾞の中で初めて意識した。

出発の前に、彼に声をかけたか。かけなかった。なぜかけなかったのか、今考えると不思議だ。⾃分の「⼦」を置いていくのに、声もかけなかった。

かけられなかったのかもしれない。

彼が来ないことを、私はどこかで知っていたのかもしれない。知っていて、確認することを避けていたのかもしれない。

知ることが怖かった。

シャルルが私の膝の上で眠っていた。重い体の温かさ。この⼦は王太⼦だ。この⼦の⾏く末が、フランスの⾏く末と繋がっている。この⼦を守らなければならない。その責任だけが、あの夜の私を動かしていた。

帰路の⾺⾞で、ずっとシャルルの背中をさすっていた。

彼は眠っていたが、私の⼿の動きを感じていたかもしれない。感じていてほしかった。

あなたは⼀⼈ではない、という気持ちを、⼿のひらから伝えたかった。

伝わったかどうかは、わからない。

⼦どもに伝わることと伝わらないことは、親が決めることではない。⼦どもが感じ取ることだ。

チュイルリーに戻ったとき、宮殿の明かりが⾒えた。窓の灯り。誰かが待っているということ。

アルマンが待っていた。

⽞関ではなく、廊下の少し⼿前で、壁際に⽴っていた。私たちが通ると、静かに頭を下げた。⽬が合った。彼の⻘い⽬が、私を⾒た。

何も⾔わなかった。私も何も⾔わなかった。

しかしその⽬の中に、何かがあった。責めているのではなかった。批判でもなかった。

ただ、⾒ていた。⾒届けていた、というような⽬だった。

その⽬を⾒て、私は初めて泣きたいと思った。

泣かなかった。泣けなかった。

しかし、泣きたいと思ったことだけは、覚えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。