第13話 ゾ エ — — チ ュ イ ル リ ー の 庭 で
シャルル殿下と積み⽊をしていたある⽇、アルマン様が庭に来られました。
いつもは静かな⽅でしたが、その⽇は何か違う空気がありました。何かを決めたばかりの⼈の顔、というのでしょうか。⽬が、いつもより少し遠くを⾒ていました。
「積み⽊やるか」とシャルル殿下が声をかけました。
アルマン様は笑って、座ってくれました。
三⼈で積みました。アルマン様が積んで、シャルル殿下が崩して、私が拾う、という役割が⾃然にできていました。アルマン様は崩れても怒らず、また積む。シャルル殿下は崩すた
びに笑う。
しばらく遊んでから、アルマン様が⾔いました。
「ゾエ、お姉さんたちと仲良くしているか」
「はい。⼿紙が来ます」
「それはよかった」
それだけでした。でも私には、その⾔葉が何かの別れの⾔葉のように聞こえました。直
感というものでしょうか。⼦どもの直感は、時々⼤⼈より正確です。
「アルマン様、どこかへ⾏かれるのですか」と私は訊きました。
アルマン様は少し驚いた顔をして、それから静かに笑いました。
「なぜそう思う」
「なんとなくそんな気がして」
彼はしばらく積み⽊を積んでいました。⾼く、ゆっくりと。
「どこかへ⾏くときでも、⾏かないときでも、元気でいなさい」
と彼は⾔いました。
「何があっても、⽣き続けなさい。それが、
⼀番⼤切なことだから」
私はうなずきました。
⽣き続けること。
その⾔葉の重さは、当時の私にはわかりませんでした。しかし今はわかります。⾰命の嵐を⽣き延びて、名前を変えて、場所を変えて、それでも⽣き続けた私に、あの⾔葉は贈られていたのだと。
積み⽊が崩れました。
シャルル殿下が笑いました。
アルマン様も笑いました。
私も笑いました。
その笑い声が、庭に広がって、消えていきました。
あの笑い声を、私はずっと覚えています。




