第十一話 ア ン ト ワ ネ ッ ト — — 鏡 の 間 に て
ヴェルサイユの鏡の間に⽴つとき、私はいつも、⾃分が何⼈もいるような気がした。
⼗七枚の鏡が並んでいる。どの鏡も、私を映す。しかし映った私は、どれが本物かわか
らなかった。公式の場に⽴つ王妃としての私。夜に涙を流す私。⼦どもたちの前で笑う私。
ルイの隣で黙っている私。
どれが本物なのか。おそらく、すべてが本物で、すべてが本物ではなかった。
アルマンが来てから⼀年後の冬、私は彼を鏡の間に連れていった。
彼は六歳になっていた。ヴェルサイユの⽣活に慣れてきた頃で、⾷事のマナーも、挨拶
の仕⽅も、かなり⾝についてきていた。廊下を⾛らなくなった。声を上げて笑うことも少な
くなった——それが成⻑なのか、それとも何かが失われているのか、と私は時々思ったが、表情は豊かになっていた。⽬が語るようになっていた。
鏡の間に⼊ったとき、アルマンは⽴ちすくんだ。
広⼤な空間。天井の⾼さ。そして⼗七列の鏡が、冬の光を増幅して輝いている。彼は最
初、鏡の中に広がる別の部屋があるのだと思ったらしく、ゆっくりと歩き始めた。鏡に近づ
き、⾃分の姿を⾒て、少し驚いた顔をした。
「⾃分が映っていますよ」と私は⾔った。
「知っています」と彼は答えた。「でも、どれが本当の⾃分かわからなくなります」
六歳の⼦どもの⾔葉とは思えなかった。
私は彼の横に⽴って、
じく⾦⾊の髪の彼。⻘い⽬と、⻘い⽬。
⼀緒に鏡を⾒た。⼆⼈分の姿が映っていた。⾦⾊の髪の私と、同
「どれが本当の⾃分だと思う?」と私は訊いた。
彼はしばらく考えてから⾔った。「全部じゃないですか」
私は笑った。
「そうね」と⾔った。「全部が本当の⾃分かもしれない」
その⾔葉を、私は⾃分に⾔い聞かせていた、という部分があった。浪費する王妃も、泣
く王妃も、⼦どもたちを愛する王妃も、すべて本物だ。どれか⼀つを選ばなくていい。そう
思うことで、私は⾃分を保っていた。
アルマンが去っていくまでの⻑い年⽉のあいだ、私はこの場⾯を何度も思い出した。
鏡の中の⼆⼈。
同じ⾊の⽬が、同じ鏡を⾒ている。
私は彼の何かを理解しようとしていたのか、それとも彼の中に⾃分の何かを⾒ていたの
か——今となってはどちらとも⾔えない気がする。
おそらく、両⽅だった。




