第51話 道を塞いでいるものがある
二日目の朝に、問題が見つかった。
サリムが先行させた人員が戻ってきて「前方に崩れがあります」と報告した。三ツ辻から持ってきた地図を広げて確認すると、地図には崖線が描いてあったが、崩れたという記録はない。
「地図が古い。去年の雨で崩れたかもしれない」
サリムが言った。
「見てくる」
スズが先行した。ミコトが続いた。カイがサリムと一緒に後から進んだ。リュウは荷物の中から「崖の記録に使うノート」と「採集に使うノート」を取り出して、どちらを持っていくか一秒だけ悩み、両方持って歩き始めた。荷物を減らした男が、真っ先にノートを二冊に増やす。人は変わらない。
崩れた現場に着くと、道が半分以上塞がれていた。
崖の上から岩と土が崩れ落ちて、大型の荷車が通れる幅がない。人間なら通れるが、馬と荷車は無理だった。
「迂回路は」
サリムが聞いた。
「北側に回れますが、地形が読めない。崖の上を確認しないと判断できない」
ミコトが答えた。
「確認してくる」
スズが崖の上に向かった。ミコトが「一人で行くな」と制するが、スズは「行ってくる」と既に半分登っている。ミコトが「……」と後を追う。
リュウが感心した口調で言った。
「スズさんは止める前に動いていますね。毎回そうです」
「感心するな」
「いつも止めようとしているのに間に合わないのが、ミコトさんだけですよね」
「……そうですね」
カイが少し考えた。「ミコトが止めに行くのも仕事です。正確に言えば、スズが動く前に止めるのがミコトの仕事のはずですが」
「それはうまくいったことがないですが」
「一度もないですね」
止める側と、止まらない側。この二人の役割分担は、二年間ただの一度も成立したことがない。
カイが崩れた岩の周辺を見ていた。石を確認しながら、道の端に転がっている大きめの岩の前で止まった。
灰色の金属光沢。
三ツ辻の石柱と、同じ素材だった。
カイが岩のそばに膝をついた。「リュウさん」
「はい」
「これ、見てください」
リュウが来た。岩の表面を見た。
表面が異様に滑らかだった。苔が生えていない。崖から崩れてきた他の岩は苔だらけで、土が付着している。この岩だけ、崩れてきたにもかかわらず、表面が清潔なままだった。
「これは——」
リュウが声を低くした。指先が無意識に岩へ伸びかけている。「石柱の素材です。間違いない。叩いていいですか」
「どうぞ」
リュウが指の節で叩いた。硬い、透明感のある音がした。周囲の石を叩く。にぶい音がした。
「同じです。三ツ辻の石柱と同じ素材」
カイが岩の表面を手でなでた。崖が崩れる際に地中から出てきたのか、一部が土に埋まっている。しかし表面に出ている部分には、細かい刻み目があった。カイが光の角度を変えながら、刻み目を追った。
意味が浮かんだ。浮かんで、止まった。
「……制御区画A-3」
声に出すと、リュウが顔を上げた。
「A番号ですか」
「B-7でもB-6でもない。A番号です」
二人で黙って岩を見た。
B番号とA番号——別の系統の存在。カイが父のメモのことを考えた。父が集めていたのはB番号の記録だった。A番号については、一度も出てこなかった。
「AとBで何が違うんでしょうか」
リュウが言った。
「わかりません。でも同じシステムの、別の部分なのかもしれない」
崖の上からスズとミコトが戻ってきた。
「北側に回れます」
ミコトが崖の上を指した。「少し遠回りですが、馬でも通れる道があります。崖の上から確認できました」
「わかりました。そちらで」
サリムが、岩の前に立つカイとリュウを見た。「何か見つかりましたか」
「遺物が出ています」
カイが岩に手を置いた。「崖が崩れる際に地中から出てきたらしい」
ミコトが崖の上を振り返った。「崖線の中腹に、これと同じ硬い層が少し見えます。道はその下を削って通している。崩れなければ、地図にはただの崖として残っていたはずです」
サリムが岩を見た。表情に、意外そうな色が浮かぶ。「……こういうものは外の道にはたくさんあります。珍しいと思ったことがなかった」
「どのくらいありますか」
「道端に埋まっているもの、崖に混じっているもの——数えたことはないが、見ない旅はないくらいです。石柱のような形のものもある。柱のようなものもある。これは使えないから放置している」
「どれも刻み目がありますか」
サリムが考えた。「……あるかもしれない。気にして見たことがなかった。あなたはそれが気になりますか」
「気になります」
カイが刻み目を指でなぞった。「珍しいかどうかより——何かのシステムの一部だということが重要だと思っています」
「システム」
サリムが繰り返した。難しい言葉を口の中で転がすように。「何のシステムか、わかりますか」
「わかりません。でも調べています」
サリムが少し考えてから、口を開いた。「いつかわかったら教えてください。私も長い間、こういうものを見てきた。何なのかは聞いたことがある——誰も知らなかった。あなた方が答えを持っているなら聞きたい」
道端の石を、旅の間ずっと見てきた男。それが何かを、誰も教えてくれなかった。その静かな言葉が、焚き火の火より重く残った。
迂回路に入ったのは昼前だった。
北側の道は細く、荷車が通るのに時間がかかった。馬がひっかかる箇所が二か所あり、全員で荷を持ち直した。それでも三時間ほどで本道に合流できた。
その三時間の間、サリムの人員が、崩れた岩に近づく獣の音を聞いたと言った。
風下に回ったスズが鼻をしかめた。湿った獣臭が残っている。泥の浅い場所には、人の掌ほどある丸い足跡が二つ、本道の端に向かって残っていた。
「足音の大きさは」
カイが確認した。
「鎌爪竜より大きいかもしれない。でも急ぎはしていなかった。崩れた場所を見に来ただけかもしれません」
「臭いを嗅ぎに来た可能性がある」
スズが足跡のそばにしゃがんだ。「崩れた岩の下から新しい臭いが出ていたとすれば、確認しに来るのは自然な行動です。私たちの臭いを嗅いで、近寄らなかった。それは危険ではない」
「どうしてわかるんですか」
サリムの人員の一人が聞き返した。
「近寄らなかったからです。もし敵意があれば足音が速くなる。速くなかったなら、ただ確認しに来た。人間の臭いを知っていて、今日は手を出さないと判断した」
「獣が判断するんですか」
「する」
スズがうなずいた。「いい条件じゃないと思えば来ない。今日は私たちの人数と、荷の量と、昼間だということで、今日じゃないと決めたんだと思う」
人員が「……そういう見方をするんだね」と目を丸くした。スズが「経験です」と返す。「最初は私も知らなかった」
サリムがスズに向き直った。「あなたたちはいつもこんな感じで話すんですか」
「獣の考えを、自分で考えるように説明する」
「そうです」
「普通、斥候はもっと大雑把に『危険か安全か』で言いませんか」
「それだけだと、次に同じ状況の時に判断できないので」
スズが肩をすくめた。「理由まで説明するのが習慣になってる」
サリムが少し考えた。「誰かに教わったんですか」
「ガンさんという人に」
スズの声がやわらいだ。「今は三ツ辻に残っています。毎回『なぜそう判断した』と聞いてくるので」
「なるほど」
サリムがうなずいた。「いい師匠ですね」
「怖い師匠です」
少し間。
「正確に言うと、怖くて怖くていい師匠です」
怖いが二回。そこに真実が全部詰まっている。
本道に合流した後、しばらく歩いてサリムが「今日の野宿地は前方の沢のそばです」と言った。水があって、風が遮られる地形だった。カイは「わかりました」と四人に伝えた。
歩きながら、リュウがA-3の岩を記録したノートを確認していた。
「カイさん」
小声だった。
「何ですか」
「A番号が存在するということは——B番号は一つの系統で、A番号は別の系統。系統が違うということは、機能が違う可能性があります。B-7に書いてあったのは『外部環境制御のサブノード』でした。A-3が別の機能なら、外部環境制御以外に、何か別のことを制御していたことになる」
「そうなりますね」
「何を制御していたのか——」
「今は護衛の仕事に集中しましょう」
カイが前方に目を戻した。「でも帰ったら考えます。ミコトと一緒に地図を作ります」
「地図に番号を入れる、ということですか」
「A番号とB番号の両方。どこにあるかがわかれば、パターンが見えてくるかもしれない」
リュウがノートにそのことを書き留めた。「帰ってからの仕事が増えました」と、その口ぶりは、隠しようもなく嬉しそうだった。
カイが横目で見た。「リュウさん、嬉しそうですね」
「嬉しいです。仕事が増えることは発見が増えることなので」
「ガンさんに言っておきましょう。帰ってきたら」
「それはやめてください。荷物を減らすように言われます」
「仕事が増えても荷物は七キロでいいです。そのための取捨選択が仕事です、と言うと思います」
リュウが少しの間、黙った。「……カイさんはガンさんの言いそうなことがわかるんですか」
「だいたいわかります」
「それは怖い」
「便利でもあります」
この二人と一緒に旅をしていると、三ツ辻に残っているはずのガンが、なぜか道中ずっと隣を歩いている気がしてくる。




