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第5話 食料はどこから来るのか


 拠点設立から十日が経った朝、ハナが帳簿を持ってきた。


「食料の在庫を確認しました」とハナは言った。「現在の消費ペースだと、持ち込んだ分は十日から二週間で尽きます」


 三十人が黙った。


「十日で尽きる、とは」とタケオが言った。


「各集落から持ち込んだ分を合計して計算しました。一日あたり三十人分の食事に必要な量と比較すると、そうなります」


「それはもっと早くに確認しておくべきだったのでは」


「おっしゃる通りです。一月分はあるはずだったのですが、ここに来て2日目の夜に草毛獣に荒らされた時、思いのほか失ったようです。」とハナは素直に言った。「ただ現実として、そうなっています。次の供給がくるまでの間を何とかするか、供給を早めるか、消費を減らすか——どれかが必要です」



 話し合いが始まった。


 最初に出たのは「集落に戻って食料を取ってくる」という案だったが、往復で六日から八日かかる。その間に残った人間の食料が減る。帰った人間が運べる量にも限りがある。そもそも荷馬車がない。大量の物資を動かせるのは隊商だけだが、次の隊商がいつここへ立ち寄るかは確定していなかった。解決策としては弱かった。


「罠を仕掛けます」とガンが口を開いた。「罠師の仕事として、今日から周辺に仕掛けます。草毛獣なら一頭で、三十人の数食分になる」


 スズが少し間を置いた。ミルクをちらりと見た。


「外にいる普通のやつだ」とガンは言った。「ミルクじゃない。あいつは別だ」


「……わかりました」とスズが言った。納得したような、していないような顔だった。


「周辺で採集できるものはないか」とカイが言った。


 全員がリュウを見た。


 リュウがノートを開いた。「昨日の時点で食べられると確認したのが七種類あります。薬草になるものは別として、食用になるものは根菜系が三種、葉物が二種、実がなる低木が一種、キノコ類が一種です。季節にもよりますが、今の時期は採れます」


「なぜ最初から言わなかったんですか」とハナが聞いた。


「食べられるかどうかの確認が終わっていなかったので」とリュウは言った。「まだ試していないものを『食べられます』と言うと、ハナさんが使ってしまいます。使ってから問題が出ると困るので、確認が終わったものから順番に——」


「つまり今、確認が終わったから言いに来たということですか」


「はい」


 ハナが少し間を置いた。「……それはそれで、筋が通っていますね」


「ありがとうございます」


 スズが「でもリュウさん、一人でこっそり試してましたよね」と横から言った。


「試していません。詳細に観察していただけです」


「食べてみましたよね、沼葦」


「あれは昨日の話で、今の話とは——」


「カイさん、リュウさんが一人で試してましたよね」


「聞こえていました」とカイが答えた。「少量だったそうです」


「なぜカイさんまで……」とリュウがつぶやいた。ハナは特に表情を変えずに「確認が終わったものだけ使います」と言って、仕分けを続けた。


「でも危ないと判断した段階で言ってください。食べる前に止められます」


 リュウが「……なるほど」とつぶやいた。ノートに「危険なものは先に報告」と書いた。


「今後は確認中でも言ってください」とドウが穏やかに続けた。「途中経過で構いません」


「わかりました」



 翌朝から採集班が出ることになった。リュウが案内役を務め、カイとスズが同行した。拠点の外に出ると空が広くなる。北の標塔の線が、いつものように空に向かって伸びていた。食べられる植物のある場所をリュウが把握していたので、効率よく回れた。


 採集しながら、リュウが次々と話した。


「これは沼葦の一種です。根を茹でると解熱に使えます。食用にもなります。ただし生のままだと少し渋い。でも茹でると食べやすくなります」


「それは食べられますか」


「はい。私は昨日試しました」


「試しましたか」


「少量でしたが問題なかったです。おそらく食べられます」


「おそらく、というのが少し気になります」


「たぶん大丈夫ということです」


「たぶんと おそらく、どちらが確かですか」


 リュウが少し考えた。「同じくらいです」


 カイは「わかった」と言って、その根菜をかごに入れた。食べる前にセリに確認しようと思った。



 昼前に帰ると、リュウはかごを調理場に持ち込んだ。ハナに「食べられるものと食べられないものを分けました」と言って、並べた。


「これは?」とハナが一本の茎を持ち上げた。


「これは試してないけど食べられると思います」


「試してないんですか」


「まだ人間での試験は——」


「セリさん!」とハナが大声で呼んだ。


 セリが来た。四十歳の薬師で、ハラダ出身だ。リュウの師匠的な存在だと本人リュウは思っているが、セリはそう思っていない雰囲気がある。


「また試していないものを持ってきたんですか」とセリが言った。


「試している最中です」とリュウが返した。


「試している最中というのは試し終わっていないということです」


「でも試す予定はあります」


「だからダメなんです」


 セリがかごを確認して、何点かをよけた。「これとこれとこれは今の時期は毒がある。これは食べても害はないが栄養もない。これは食べられる」


 リュウが「なぜご存知なんですか」と聞いた。


「ハラダの薬師は全員知っています。あなたも知っているはずですが?」


「知ってはいますが、確認のために試そうとしていました」


「知っているなら試す必要はありません」


 リュウが「でも知識と実際は異なる場合があって……」と言いかけて、セリの視線を受けて黙った。



 ハナが選び抜かれた食材を使って昼食を作った。根菜と葉物の煮込みに、持ち込んだ塩漬け肉を少量加えたものだった。普段より野菜が多かったが、味はまずまずだった。


 食べながらタケオが「まあ食えるな」と言った。それがこの状況における最大の褒め言葉だった。


 ハナが「本当は米と一緒に炊いた雑炊が一番なんですが」と続けた。「カネヅカの方たちは味が薄いとおっしゃいますし、ハラダの方たちは香草を入れてくださいとおっしゃいますし、全員を満足させる食事は難しいです」


「一度に全員は無理ですね」とカイが返した。


「どうしましょう」


「順番に、でどうですか。今日はこれ、明日はあれ、という感じで」


「それだと不満が出るかもしれません」


「出た不満を聞けばいいと思います。全部に対応する必要はないですが、聞くのはできます」


 ハナが少し考えた。「……そうですね。聞くだけなら、私でもできます」



 その日の夕方、食料保管庫の基礎工事が始まった頃、ガンが草毛獣を一頭担いで戻ってきた。罠にかかっていたものだ。拠点の端の方へ向かって、しばらくして解体した肉をハナに持ってきた。


「一頭分です」とガンが言った。「明日の分まではある」


「助かります」とハナが受け取った。手の中の肉を確認して、「今夜の汁に入れます」と付け加えた。


 ガンは何も言わずに手を洗いに行った。




 湿気と獣から守るために床を地面より高く作る高床構造は、ハナが「こうしないと腐る」と強く主張したものだった。クワが設計し、全員で丸太を運んだ。


 作業しながら、カイは塩のことを考えていた。持ち込んだ塩はどのくらいあるか。塩がなければ保存食が作れない。保存食が作れなければ冬は越せない。


「塩が足りなくなりそうです」と夕食のときにカイが言った。


「そうですね」とハナが答えた。「次の物資が来るまでに、どのくらい使えるか計算します」


「ありがとうございます」


「カイさんはいつも急に大事なことを言いますね」とスズが笑った。


「急ですか」


「さっきからずっと考えてる顔してました」


「そんな顔がありましたか」


「ありましたよ。ガンさん、カイさんってああいう顔するとき何考えてますか」


「塩のこととか」とガンが答えた。


「当たりでしたね」とスズが返してカイを見た。


「……少し考えていました」


「多分ずっとですよ。顔に出てます」


「そういうことは早めに言ってください」とスズが続けた。


「今言いましたよ」


 スズが「まあそうですが」と言いながら煮込みの汁を飲んだ。


「明日、残っている塩の量を全部量ります」とハナが続けた。「隊商が来たら、最初に頼む品目に入れます」


「罠肉の保存にも要る」とガンが付け加えた。


「では、塩の使い道も分けて書きます」とカイは言った。「食事用、保存用、交換用」


 問題は解けていなかったが、次に何を数えればいいかは決まった。


 その夜、食料保管庫の骨格が立ち上がった。高床の柱の上に、床板が渡された。まだ壁はなかったが、地面から離れた棚として機能した。食料の一部をそこに移した。


 ミルクが高床の下で草を食んでいた。高い場所には上がれなかったので、ここは安全だった。

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