↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
108/110

第108話 三集落に話す日

 三集落の代表が、三ツ辻に、集まった。


 ミナシロのヤエ、カネヅカのカジキ、ハラダのナルセ。三人が、一堂に会するのは、珍しいことだった。三ツ辻評議会室に、三集落の代表と、三ツ辻の主要な者が、集まった。


 カイが、報告した。禁域の中に、保存槽があったこと。その中に、二千年前の人間が、眠っていること。その人を、起こすことに決めたこと。


 禁域の鍵が、カイの体だということや、ナノマシンのことは、話さなかった。だが、保存槽の人のことは、話した。三ツ辻だけで、抱えるには、大きすぎたからだ。


「二千年前の、人間」


 ヤエが、眉をひそめた。「それが、まだ、生きていると」


「生きています」


 カイが、うなずく。「でも、保存が、終わりかけている。起こさなければ、死にます」



 三人の代表は、それぞれ、違う反応を、示した。


 ヤエは、安全を、問うた。


「その人間を、起こして」


 鋭く問う。「危険は、ないのですか。二千年前の人間が、何を、するか、わからないでしょう」


「わかりません」


 カイが、まっすぐ答える。「でも、慎重に、起こします。何か、あれば、対応できるように、準備します」


「準備で、足りるのですか」


「足りるか、わかりません」


 カイは、目をそらさない。「でも、見殺しには、できません」


 ヤエは、しばらく、カイを、見ていた。それから、言った。「……あなたたちは、いつも、そうね。危なくても、やる。でも、今回は、特に、慎重にしなさい」


「はい」


 カイが、頭を下げた。



 カジキは、管理の手順を、問うた。


「起こした後の、ことは」


 腕を組む。「どうするのか。住む場所、食事、世話。それから、その人間が、何か、知っていたとして、その知識を、どう扱うのか」


「住む場所は、用意します」


 ドウが、帳簿を開いた。「食事は、ハナさんが。世話は、セリさんと、リュウさんが。知識については――」


「慎重に、扱います」


 カイが、引き取った。「すべてを、すぐに、広めるつもりは、ありません。父も、ナルセさんも、ユズキさんも、語らないことが守ること、と言いました。私も、そう思います」


「手順を、決めているなら」


 カジキが、短く言った。「いい。行き当たりばったりで、やるな。それだけだ」


「決めています」


 ドウが、帳簿を叩いた。「帳簿に、全部、記録してあります」


「カジキさんらしい、確認です」


 スズが、小声でこぼした。二千年前の人間が眠っていようが、この人が最初に確かめるのは段取りである。ぶれない。



 ナルセは、長く、黙っていた。


 他の二人が、話し終えても、ナルセは、何も言わなかった。ただ、考えている様子だった。


 やがて、口を開いた。


「カツオが」


 ナルセの声は、低かった。「あなたの父が、最後に、調べていたのが、これですか」


「たぶん」


 カイが、静かに答える。「父は、保存槽を、守ろうとして、死にました。中にいる、この人を」


「カツオは」


 ナルセが、遠くを見る目をした。「いつも、言っていました。世界には、私たちが、知らないことがある、と。私は、ただの、語り部の戯言だと、思っていました。でも、カツオは、本気でした。そして、本当に、見つけたのですね」


「父が、見つけたものを」


 カイが、言葉を継いだ。「私が、続けています」


「カツオの、続きを」


 少し、声が、震えていた。「あなたが、やっているのですね」


「はい」



 ナルセは、しばらく、目を閉じていた。


「カツオは」


 目を閉じたまま言った。「いい男でした。語り部の家系なのに、語ることより、調べることが、好きでした。危ないことばかり、していました。そして、死にました」


「すみません」


「謝らないでください」


 ナルセが、静かに首を振る。「あなたが、悪いのでは、ありません。カツオが、選んだことです。そして、あなたが、その続きを、やっている。それは、いいことです。ただ――」


「ただ?」


「あなたは、一人では、ないのですね」


 ナルセが、周りの仲間を見回した。「カツオは、一人でした。でも、あなたには、仲間がいる。それが、カツオと、違うところです」


「はい」


 カイが、うなずく。「私は、一人じゃ、ありません」


「なら」


 ナルセの口元が、わずかに緩んだ。「カツオより、遠くまで、行けるかもしれません」



 三集落の代表は、最終的に、三ツ辻の判断を、支持した。


 ただし、条件が、一つ。


「記録を、残しなさい」


 カジキが、念を押した。「その人間を、起こして、何が、起きたか。何を、話したか。全部、記録しなさい。後の世のために」


「残します」


 カイが、応じる。「三ツ辻は、記録の、場所です」


「では」


 ヤエが、腰を上げた。「あなたたちに、任せます。三ツ辻は、もう、ただの中継所では、ありません。三集落と、一緒に、判断を、する場所です」


「第四の、集落として」


 カジキが、言い添えた。


 カイは、その言葉を、聞いた。三ツ辻は、三集落に、判断を求めるのではない。判断を、共有する。対等な、立場として。


「ありがとうございます」


 カイが、深く頭を下げた。


 三集落の代表が、帰っていった。それぞれの、集落へ。だが、その背中は、三ツ辻を、信頼している、背中だった。


「三集落が」


 ドウが、感慨深げに言った。「私たちの判断を、支持しました。これは、大きな、ことです」


「はい」


 カイが、うなずく。「三ツ辻は、変わりました。中継所から、判断の場所へ」


 ナルセが、帰り際に、カイに、言った。「カツオの続きを、最後まで、やりなさい。一人ではなく、みんなで」


「はい」


 明日、保存槽の人を、起こす。アオイを。三集落の、支持を得て。父の、続きとして。だが、父とは違い、一人ではなく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。