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元婚約者とその友人(女性)は、ある種お似合いのベストフレンズです(あなたに奪われたものを数えましょう)  作者: 暁
《5》ひとつひとつ

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ひとつひとつ【2】ミリアム写本①

 デアギル家へお邪魔するとなると、まず将軍ご夫妻にご挨拶しなければなりません。


「あまり気負わないようにね。」

グレンは言います。


「無理だわ。」

無理です。わが国の誇る将軍ご夫妻です。


「それから、じいさまばあさま、ミリアムの婚約解消の経緯も大体わかってるから。もし、何かでしんどくなったりしたら、遠慮なく言って。」


フィリップ様達とのこと、何故ご存じなんだろう。




「ミリアム・パークレスターと申します。祖父母がお世話になっております。」


デアギル将軍は、軍人というよりも学者のような、勇ましさより穏やかさを感じさせる方でした。

グレアム様とおっしゃいます。

グレンの琥珀色の目は将軍から受け継いだものでした。


奥様のフランシス様は笑顔の可愛らしい明るい方です。

輝きを持ったミルクティーベージュの髪色の方は、フランシス様譲りです。


「パークレスターのお嬢さんね。グレンから話を聞いてるわ。かしこまらないで、自由にしてね。」


「家の中まで窮屈なのは面倒だろう。皆自由にやっているからね。」


「はじめっから自由にふるまえと言われても困るだろうが、そのうち慣れるからね。」 


「釣りやチェスの手ほどきならできるから、いつでもどうぞ。」


「あら、釣りなら私の方が上でしょ。ボードゲームもバックギャモンなら私が上ね。」


「いや、量より質だろう。大きさでは私が勝っているはずだ。」


「まあ、あきらめの悪い。じゃ、今から勝負しますか?」


釣りにご出発されました。自由です。


「あの、グレン、将軍はお手が・・・。」


「うん。趣味をあきらめるのは業腹だって、じいさまとばあさまがわちゃわちゃ釣り竿の工夫して改造してた。」


片手の指がままならなくても楽しめるように、工夫した竿を使われるようです。



 グレンに案内されて2階に上がります。


 階段を登り切って、窓の大きくとってある明るい廊下を進んで、玄関ホールなどお屋敷のにぎやかな一角から離れたところにある部屋の前で、グレンが立ち止まりました。


 わたくしの前に立って、グレンがクリーム色の木製の扉を開けます。

手入れが行き届いているのか、扉は静かに開きました。

廊下にも窓が並んでいましたが、お部屋にも出窓がいくつかとってあるようです。


 「さ、どうぞ入って。」


 扉を開けたグレンはそのまま部屋に入ることなく、わたくしに先に入るようにと、手で促しました。


 明るいクリーム色の壁紙の部屋には、やわらかい光が入ってきています。


そして、その壁には


 額 装 さ れ た ミ リ ア ム 写 本 が か か っ て い ま し た。


写本は3枚、額は3つ。


まさかよく似た別のものでしょうか?


あわてて、彩色の写本の額の前まで行ってじっと見つめました。


わたくしの写本です。


残る2つも、わたくしの写本でないわけがない。


分かっていても足は動きました。


1つ。また1つ。確認して小走りに移動します。


わたくしの写本です。


これはわたくしが作ったもの。


走って走って夢中になって作ったミリアム写本に間違いはありません。


グレンが後ろから近づく気配がします。振り向かないまま訊ねました。


「グレン、これ額から出しても良い?」


「うん。壁から降ろそう。順番に。」


そう言ってグレンはまず、彩色の写本が入った額を手にしました。


大きめのテーブルの上に、きちんと並べて置かれた写本。


そっと、直にさわってみる。


やはり、わたくしの写本に間違いない。


あの日、心躍らせながら作り上げた写本。


夢がかない、直に見たルスカのメモの写本。


ルスカと魔道具への思いがこもった写本。


少しざらつく赤の彩色の部分にそっと触れながら、わたくしの目から涙が流れました。


それは静かな一筋の涙でしたが、止めようと思っても止まらず、後から後から流れてくるのです。


自分でも驚きました。わたくしが泣くなんて。


何の涙かわかりません。ただ、心の中は、嬉しい、嬉しい、という声で一杯でした。


もう戻らないと思っていたのに、嬉しい。


声も出さずに泣き続けるわたくしの横で、グレンはじっと待っていてくれました。 




 どれくらいの間泣いていたのか、いつか涙は止まっていましたが、そうなると、今度はとても気まずいのでした。


 グレンを泣かす前にわたくしが泣いてしまいました。負けた感が否定できません。


ハイ、とグレンが少し温めたタオルを渡してくれました。部屋の奥にはパウダールームがあるようです。しぐさがダレス先生と同じで笑ってしまいます。気まずさがほぐれます。


とは言え、何から話したらよいのか、わたくしが考えあぐねているのを目にしたからでしょう。


「俺のだから返してもらってきた。」

 

涼しい顔でグレンが言いました。


タオルで顔を拭きました。特に目のあたりをきっちりと。


「ダスラウ王国の親善試合関係の方にお渡ししたって聞いてるけど、それがどなたか分かったの?」


「実は研究所の所長伝手。持ち帰った方が所長の知り合いの方で、所長に連絡があったらしい。見に来ないかって。所長も我が国にルスカの新発見文書が贈られたことを当然知ってたんだけど、何故ダスラウ王国に写本があるのか不審に思って、俺に教えてくれた。」


「では、その方の所に。」


「うん。そこに行って返してもらった。」


「返してもらえたの?」


「うん。ご覧の通り。

でも最初に尋ねて行ったときはけんもほろろだった。まあ状況は説明したけど、彼らだってある意味被害者だからね。何も知らないでミリアム写本を贈られてたんだから。何も落ち度はないわけだしね。」


「そう。それが分かっていたから、わたくしもダレス先生も取り返すことをあきらめたの。」


「粘って粘って、話を聞いてもらっているうちに、俺が留学してるって聞いてだいぶ態度が軟化した。小等部からの留学は珍しいし、飛び級を成功させたのも、高等部で研究所所属の許可をもらうのもまれなことだしね。まずそこに感心してもらった。」


「そうよね。聞いただけで大変そうだもの。」


「留学の目的が、ダスラウ王国の研究所で研究に携わることだってことにも喜んでもらえた。わが国として誇らしいことだね、って」


「それでお返しいただけたの?」


「いや、まだ足りなかった。」


「では、どうやって?」


「じいさまのファンだった・・・。

じいさまの名前で瞬間陥落した。俺の数時間にわたる懇願よりも、じいさまの名前一発だった。 

釈然としない。」


「そうだったのね。グレンがお孫さんだから、お返しいただけたの?」


「いや、じいさまとの茶会とサインが条件だった。仕方ないから、じいさまにお願いした。」


「ごめんなさい。ありがとう。グレンにも負担をかけてしまったわ。それでグレンのおじいさまは了承して下さったのね。」


「ちょっと考えてたけど。受けてくれた。パークレスターのお嬢さんとは縁があるなあ。って言ってた。」


グレンはふふ、と思い出し笑いをしました。


「茶会の時にさ、俺もダレス叔父さんも呼ばれていったんだけど、ソフィアとフランツもしれっと座ってた。」


ソフィア様とフランツ様はグレンの遠縁にあたり、小さいころから面識があるそうです。


将軍との茶会?ソフィア様からは聞いてません。


「それでね、ソフィアがフィリップの所業を事細かに話してさ。ゴドンご夫婦が怒りまくってた。」


「え?ゴドンご夫婦って、この間のエキシビションマッチの方ではないの?」


「そう、引退されて、親善試合関係の仕事を担当されておられるんだよ。その関係でマリエル様のお父上に会って、写本に出会ったってわけ。

ご夫妻が、茶会の後でソフィアとフランツとダレス叔父さんと何やらひそひそ話してたと思ったら、エキシビションマッチだった。」


エキシビションマッチ、急な話だと、妙だなと思っていました。

ソフィア様が将軍ご夫妻にお話しされてたんですね。

ソフィア様が動かし始めたことだったんですね。


「お返しいただくまでに間が開いてしまったのは、ゴドンご夫妻が、すでに写本を所長にお見せするって約束していた方がおられたからだよ。所長にお見せしてから、額に入れたままこちらに届けて下さった。それから・・・。」


グレンは言い淀みました。


「茶会の時に、ダニエルズのことも聞いた。ごめん。ミリアム写本のことや、学園祭特別講演の話はダレス先生から聞いてたんだけど、ダニエルズのことは知らなかったから驚いた。」


「良いわよ。そのうち分かることだもの。」


「うん。辛いね。」


静かに言ってもらえるだけで、縮こまってしまった心が少し緩む気がします。





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