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元婚約者とその友人(女性)は、ある種お似合いのベストフレンズです(あなたに奪われたものを数えましょう)  作者: 暁
《4》婚約解消の後先

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婚約解消の後先【4】 マリエル様②

「マリエル。君はしくじった。」


 アレックス様の言葉にマリエル様が返します。


「どういうことですの?わたくし何もしておりませんわ。」


「何もしていなければよいということではない。我々伯爵家は君を婚約者として気に入っていた。」


「光栄ですわ。」


マリエル様は微笑みました。


「だがそれは、君の能力を高く評価していたからだ。美しい婚約者、などと人は良く君の容姿を褒めるが、評価したのは容姿ではない。君の、周囲の人々を制御する能力だ。」


「強制など一切なく、人々の感情の流れを察知して、その流れる向きをコントロールする能力を我々伯爵家は認めた。かつての君は十全に能力を発揮しているように見えた。君とフィリップ君は多くの人にとりまかれていて、その人々は君たちとともあることに心からの満足を覚え、君たちの味方であったはずだ。だが、」


フィリップ様は言葉をとめ、手を広げて周囲に目をやりました。


「だが今はどうだ。」


「わたくしは何もしておりません!」


「それに対して言いたいことは2つある。「何もしていない」ことは我々にとっては失望でしかない。何もせずこの事態を招いたとすれば、君には落胆するほかない。」


アレックス様は続けます。

「敏い君のことだ、フィリップ君のことはよくわかっているはずだ。」


「まさか、アレックス様まで嫉妬なさってるの?フィリップとの間にやましい関係はないわ。」


「わかっているが、そんなことを言い出すことがすでに愚かでしかない。最善のためには、フィリップ君の危うい行動を制御する必要があったということだ。君はそれをわかっていただろうし、実行する能力もあった。それができていれば、今頃こんな惨めな状態になどなっていなかっただろう。」


「惨めですって?」


「それ以外に何と呼ぶ。あまりに愚かだ。」


「大方、ミリアム様とグレン様に禍根があったのだろう。中等部の卒業試験で彼らに負けたのが悔しかったか。」


「あんな人たちになど悔しく思ったりはしません!」


「そうか?それならなぜあんなミスをした。フィリップ君の制御というできるはずのことをしなかったのは、ミリアム様をあざ笑いたいという誘惑に負けたからだとしか思えないが。」


「なっ。」


「自分より劣る存在と認識していたミリアム様に成績で敗北。君の父君が婚約の申し入れをしても、碌に考慮されることもなく断られたグレン様にも負けた。そればかりか、君は婚約の申し入れをあっさりと断られたというのに、グレン様はミリアム様とごく親しい。プライドの高い君のことだ、負けたように感じること、更にそれが自分より劣ると思い込んでいたミリアム様からもたらされたことが、気に入らなかったのだろう。」


「そんなことはありません!ミリアム様がわたくしに嫉妬なさっておいでなのです!」


「その思考に至ることがすでに証明になっている。嫉妬されているということは、自分が相手の上にいるということになる。そう思いたいのだろう?それだけミリアム様に自分が劣るところがあると考えたくないのだろう?」


「違います!」


「それから2つ目だ。つい先日までは『何もしていなかった』かもしれないが、今は違うな?直接ミリアム様やグレン様に悪質な行為を仕掛けているな?あまりに愚かすぎる。幼児の様だ。」


「違うのです!誤解です!!」


「君の優れたところは、立場として対立関係にある者すら取り込むことができる能力だったのではないか。作る必要のない対立関係を引き起こす可能性のある、くだらない行動をとる意味はあるのか。」


「誤解です!そんな事はやっていません!」


「言うことはそれだけか?我々にとって、決定を変えるに値する新しい視点は何もない。」


「決定・・・。」


「婚約の停止だ。停止という表現が正確かどうかはとにかく。結婚の準備は一旦すべて停止する。今すぐ解消するというわけではないが、一定の期間を置いて再検討する。不満であれば、そちらからの婚約解消も受け入れよう。問題ない。」


「アレックス!なぜ。わたくしほどアレックスにふさわしい婚約者はいないわ!」


「今まで説明したことが、理由として十分だろう。私が仕事で学園を留守がちにしている間にこんなことになるとは・・・。我々も、つい先日まで、君という素晴らしい婚約者を得たことを喜んでいたんだよ。」


「先日・・・ミリアム様!アレックス様に何を言ったの?!」


「ミリアム様から聞いたのではない。それに聞いたのは裏付けのある事実だけだ。事実を収集するのは当然のことだろう?それだけで十分ひどかった。我々の期待する水準にはとうてい足りない。」


アレックス様は、言い捨てました。


「それから言っておくが、現時点で一から婚約者を選定するとすれば、ミリアム様の方が候補としての価値は高い。」


この一言が、マリエル様には一番堪えた様でした。

何か言い返す気力さえ失ってしまったようです。呆然としています。


「断られるとわかっていてミリアム様に婚約を申し込むことは無いが。」


わたくしの方を見て少し慌てたように、アレックス様は付け加えられました。

ご覧になったのは、わたくしのななめ後ろだったかもしれません。


 マリエル様は、震えながら、保健室の先生に連れられて、着替えなどに向かわれました。保健室には予備の制服があるのです。どなたか気を利かせて、先生を呼びに行かれたのでしょう。


 その後ろ姿に向かって言葉が投げられます。


「惨めねえ。」


「恥ずかしいこと。平民だからかしら?」


「アレックス様にも愛想をつかされるなんてね。みっともないわ。」


 先日まで、フィリップ様やマリエル様の後ろからわたくしを貶めていた、同じ人々です。


 確かにマリエル様はフィリップ様がわたくしを貶めるのを放置し、時には加担した方です。

けれども、その背後からわたくしに悪意を向けて楽しんでいた人たちのことも忘れません。


 愚かにもほどがあります。善悪の問題だけではありません。マリエル様は努力を惜しまない、能力の高い人です。そのご実家も平民であったとしても富豪。各方面の人脈は豊富で、我が国の政務を執っている方々とも近しいのです。あなどれば痛い目にあうことは、少し考えればわかることです。



 少し疲れたようなアレックス様を横において、フランツ様は、


「ランチタイムにお騒がせいしました~」


といつもの無邪気な笑顔であいさつされて、徐々にその場は、全体的にちょっとにぎやかないつものお昼時のカフェテリアに戻りました。


 アレックス様とミリアム様のお話合いの間に、クラシックショコラが2つ、わたくし用とグレン用として用意されていました。ソフィア様が、非常事態だから一人1個の販売制限適用外であると主張して手配して下さったのです。げらげら笑っていたのは許しましょう。


 でも問題はそこではありません。食べられることなく終わってしまった哀れなクラシックショコラ・・・。


至高のクラシックショコラにその役割を全うさせないとは、外道に他なりません。


スイーツを馬鹿にする者はスイーツに泣くのです。


本当に、フィリップ様もミリアム様も、お互いにお似合いのお友達です。




わたくしは、ミリアム様の制服に付着したクラシックショコラ2個の冥福を祈りました。


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