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元婚約者とその友人(女性)は、ある種お似合いのベストフレンズです(あなたに奪われたものを数えましょう)  作者: 暁
《4》婚約解消の後先

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婚約解消の後先【2】 フィリップ様②


 休憩が終わり、フィリップ様、マリエル様の登場です。

観客席から耳が痛くなりそうなほどの声援が飛びます。


「フィリップ様ー!マリエル様ー!」


声援の中、2人がコートに向かいます。

フィリップ様はいつも通り「自然体」。きっといつも通り、周囲の様子など気にもかけていないのでしょう。マリエル様はちらっと観客席を見て、微笑みました。いつものような笑みではありません。少しこわばった笑みでした。




 試合が始まりました。

しかし、観客の予想に反して、フィリップ様、マリエル様の動きはいつものように華麗ではありませんでした。思うとおりに動くことを許されず、拘束されているようですらあります。

アンネマリー様たちのように、長くラリーを耐えることができません。


フランツ様のおっしゃったことが分かりました。ボールが速すぎます。光速かどうかはわかりませんが、音速は超えていると思います。


観客席の期待に反して、ゴドン様ペアが、さきほど以上に流れるようにポイントを取って行きます。


 フランツ様の解説によると、フィリップ様、マリエル様のプレースタイルは攻撃型に偏っていて、相手が圧倒的に強い場合、今の様に手も足も出ないということがあり得るのだそうです。




「フィリップ様~!マリエル様~!」


嵐のように響いていた声援は、小さくなり、小さな悲鳴になり、消えて行きました。



3セットマッチで6-0、6-0 取得ポイントは0。どうにもなりません。

大人と子供どころか、大人と幼児の様でした。


ゴドン様ペアはさきほどの試合でお疲れであっただろうに、です。



 観客席は静まり返っています。いつもは、試合が終わるとすぐにフィリップ様、マリエル様を崇拝するお友達が、なだれのように観客席から二人のところに集っていくのです。プレゼントを持ってゆくファンも多かったのです。


 そんな人たちも、今日は動きません。何も言いません。一人、二人と気まずげに、あるいは逃げるように席を立ち、黙って観戦席を出ていきます。

試合途中で取り落としたのでしょうか。渡されることなく踏みにじられた花束が落ちていました。



 結局試合後のお2人の所に行ったのは3,4人と言ったところでしょうか。今までの華やかでにぎやかな集団の記憶があるからか、とても寂しい光景でした。無残と言っても良いかもしれません。マリエル様が笑顔になり切れない笑顔で対応しています。



 膨れ上がった物語がはじけ飛んで行きました。残るのは素のフィリップ様とマリエル様。物語を勝手に作り上げた人たちは、それでは満足できなかったのでしょう。



 これまでにも、フィリップ様、マリエル様が国内の他の強豪ペアと練習試合を戦ってきたことはあります。ですが、こんなことはありませんでした。


その方々は、若手ペアの教育を行うことが目的で、フィリップ様たちが最もよく学べるように試合を運んでくださっていたそうです。フィリップ様たちの良いところが生かせるように、伸びるように行われた試合だったのです。


 マリエル様はこのような結果がありえることもわかっていのでしょう。悔しさを隠しきれないまでも、比較的冷静でした。


 問題はフィリップ様です。試合直後、フィリップ様はラケットを地面にたたきつけ、たった一度、それだけでもラケットは折れてしまいました。渾身の力が入っていたのでしょう。フィリップ様が気に入っているという、おじさまおばさまから贈られたラケットのはずです。衝動的にやってしまったことのようでした。


 フィリップ様は折れたラケットを悄然とかかえあげ、何が起きたのかわからないという表情でした。


 全身打ちのめされた様子でネットまでふらふらと歩いて行き、魂の抜けた操り人形のように、ゴドン様ペアと握手をかわしていました。

 更にネット際で、笑顔のゴドン様ペアに何やら話しかけられて、絶望的な表情を浮かべていました。



 何だったのでしょうか。


 あのフィリップ様が絶望という感情を持つことがあるなどと考えたこともありませんでした。何を言ったところでご自分の「自然体」が崩れない、周囲を気にもかけないフィリップ様が崩れるとは。



 どうでもよいことですが。



 期待の外れた観客が潮が引くようにいなくなり、すっかりがらがらになった観戦席にいるグレンを見つけたゴドンご夫妻が、こちらに向かって手を振り、近づいて来られました。


背の高いお二人で、キャサリン様もケンドール様に負けないくらいの上背です。神話の戦いの女神の姿を思わせる格好の良い方です。



「ご挨拶に行く?」


グレンと2人観客席を立ち、こちらからもお二人に向かって歩いてゆきました。


お二人はグレンの隣にいるわたくしを見て、


「パークレスター嬢?」と問われました。


グレンからわたくしのことを聞いていたのでしょうか?


「はい。学園にお越し頂いてのエキシビションマッチ、ありがとうございました。」


とうなずきました。


「近く良いことがあると思うわよ。」


キャサリン様は続けられました。



テニスがお強いと予言も出来るのでしょうか?



 そして、婚約解消の両家の話し合いの後、フィリップ様はラデルのおじさまおばさまから、テニスを禁じられました。期限は決められておりません。


 学園には登校しなければならないけれどもテニスはできない。エキシビションマッチで完全な敗北を喫した上、生気を失ったフィリップ様の周囲からは更に人が減って行きました。マリエル様も個人練習しかできない上に取り巻いていた人々を失いつつあることにあせったのか、いつものような如才のない行動がとれなくなっていました。



 二人の物語をとことん楽しんだ人々は、素のままのお二人では満足できないのでしょう。


今度はどんな物語を作って楽しむつもりなのでしょうか。



 わたくしを理不尽に扱い、大切なものを奪っていったのはフィリップ様です。それは変わりません。


しかしわたくしは、フィリップ様の後ろにかくれて、わたくしを傷つけて楽しんだ無責任で愚かな人々を忘れません。


彼らにとってはわたくしを傷つけることも、物語に参加する一手段だったのでしょう。



 おじさま、おばさまはこのままフィリップ様が変わらないのであれば、代表選手の打診があっても辞退するとおっしゃっています。



 自分の人生を豊かにしてくれていたものを失うということがフィリップ様にもわかったでしょうか。



ただ、テニスへの情熱を失っていないのなら、それはまだ「まし」なことだとわたくしは思うのです。



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