レポート ルスカの拠点についての一考察【1】学園祭特別講演
わたくしがルスカや魔道具に対して心が動かなくなってしまった一方、わたくしのレポートは各方面で評価を得はじめていました。
最初にこの説を唱えた者として必ずわたくしの名が無碍にされることはないようにしよう、とダレス先生が動いてくださっていたのです。
後に資料を手に入れた研究者が同じことに気が付く可能性はもちろんある、しかしそれに最初に気が付いたのはミリアムであり、それは大切なことなのだと。
また、早期に仮説を発表することで、その後の研究も早く進み、可能性が認められれば予算もついて、早期のラナック島の探査につながるのだそうです。
「そもそもラナックベチュラワームねえ。普通の研究者だとたどり着けないかもしれないね。どうしてそんな希少な虫知ってたの?」
「カメムシつながりです。」
「?」
ダレス先生がわたくしのレポートを高く各評価してくださったことで、学園の先生方の間でもわたくしのレポートに注目が集まり、通りすがりに、あまり接点のない先生におほめいただくことすらありました。
そして、わたくしは学園の、学園祭特別講演の講演者として選出されたのです。特に優秀なレポートや研究を行ったものが講演者として選出されるその講演で、「ルスカ拠点ラナック島説」レポート発表の場を与えられることとなったのです。
学園の学園祭は、広く一般に開かれていて、高位貴族から平民に至る生徒たちの保護者ばかりではなく、各方面の来賓の方々、予定が合えば王族の方々まで訪れるのです。その場での特別講演の講演者となるのは大変な名誉です。
講演者名の大きく記載されている学園祭のパンフレットを、記念に額縁に入れて卒業後も書斎に飾っておかれる方もあるそうです。
学園祭特別講演の審査は厳しくて、該当者なし、の年もあるほどでした。
今年発表を許されたのはわたくしのみで、ダレス先生は、ここをわたくしの「ルスカ拠点ラナック島説」の発表の場にしようと、とても楽しみにしてくださっていました。このレポートがきっかけとなってルスカの拠点がついにわかるのではないかと、研究者として興奮しておられました。そのために、まず説を発表しなければならないと。
「ミリアム写本があればなあ・・・。」
わたくしの気持ちを思いやってか、奪われたミリアム写本について言及されないダレス先生がぼそりと言いました。思わず口をついて出てしまったのでしょう。
確かに、レポート発表の際には視覚的な資料があったほうが良いでしょう。それが写本であれば理想的です。ただ、それはもうありません。ダスラウ王国に行ってしまいました。
正直なところ、ルスカのメモやその資料を見るのが辛いのは変わりません。フィリップ様たちに奪われた、私の中の大切な存在だったルスカや魔道具への思いが簡単に戻ってくるとは思えません。
しかし、レポートの資料はすでにまとめてあります。
後は、ミリアム写本の代わりとなるように、ラナックベチュラワームの咬み跡と咬んだ後に残す薄い青の見本を作ること。また、わずかですが残っている彩色用に加工したブラッドライトをルスカメモと類似の紙に塗ってお見せすること。
それだけであれば、できそうな気がします。
特別講演会は名誉であるばかりでなく、わたくしにとっては一つのチャンスでした。
もしかしたら、もうルスカにも魔道具にも以前のような情熱を持つことはできないのかもしれない。それでも、レポートは、わたくしのこれまでのルスカや魔道具への思いの集大成として残るでしょう。
これまでのわたくしの人生は、魔道具やルスカがあったために、豊かで楽しかったことは事実なのですから。
また、ダレス先生をはじめ、今までルスカや魔道具を通じて知遇を得た方々、レポート作成を助けて下さった方々、私を助けてくれた方々へのお礼を言いたかったのです。講演会の場で。
わたくしのレポートが学園祭特別講演で発表されることは学園内で公表され、生徒たちも知る所となりました。
「どんなレポート?」
と気軽に聞かれたりもするようになりましたが、詳しい内容は当日の発表にしよう、とダレス先生とお約束しています。
「ルスカについてよ。」
ぐらいでお茶を濁すのが関の山でした。
わたくしは、レポートによるわたくしの説の発表がきっかけとなってルスカの拠点が分かれば、グレンの役に立てるのかもしれないとも期待していました。
拠点からルスカのメモが見つかれはきっと研究の後押しになる。
ミリアム写本をグレンにあげる、という約束を破る結果となってしまったことが、心にずっと刺さっていました。
ソフィア様、アマーリエも喜んでくれました。
アマーリエはひたすら笑顔でした。
2人とも、わたくしの部屋のルスカ資料・古書に覆いがかけてあることを知っています。
ソフィア様は
「悪諾む馬鹿なら対処の仕様もあるのに、唐突な馬鹿は手に負えない。」
とフィリップ様の所業を嘆いていたので、今回のことがことさらに嬉しいのです。
悪諾む馬鹿なら、悪だくみの計画段階が大概あるので、その段階で情報を察知して、妨害なり対策なりができるそうです。しかし、フィリップ様はソフィア様曰く「場当たり的な馬鹿」であり、計画も何もなくその場で「自然体で」「率直に」行動するので、事態の動くスピードが唐突かつ速すぎて対処が難しいそうです。
わたくしもそう思います。
フィリップ様達とはもう関わり合いになりたくない。
学園祭での特別講演の講演者に選ばれたことを手紙で知らせたところ、わたくしの父母、そして祖父母もたいそう喜びました。
特に、パークレスター家初ではないか、と父母は手紙の筆跡まで興奮気味でした。そして、ミリアムだもの、当然よね。などと親のひいき目に満ちた言葉が手紙には並んでいました。最後に、ミリアムを誇りに思っている、とありました。わたくしも、父母を誇りに思っています。
都合がつけば講演を聴きに王都に来たいのに、と非常に残念がっていました。
一部工事に遅れが出ていて、その対応で父母も祖父母もパークレスター領から動けないのです。
フローリーのケリー総支配人も、ダニエルズのマダムも、ブライト書店の店主も、ガーランドさんも、どこで耳にされたのか、発表を見に来て下さるそうです。
レポートの最後には、感謝の言葉とともに資料提供・協力者の名前があり、ケリーさんもガーランドさんも記載されています。是非来ていただきたいです。
ケリー総支配人は、
「ラナック島の産出ではないけれど、ブラッドライトの商品を持っていこうかしら?商機よね?」
と笑っておられました。
そういえば後からケリーさんに請求されたブラッドライト粉末代金は絵の具1本分くらいでした。
「絵の具でしょ?」
だそうです。必ずまた、フローリーでジュエリーのオーダーをいたします。
ダニエルズのマダムは
「記念ラナック島クッキーでも発売しようかしら?あら観光土産みたいね?それも意外と新鮮かしら?ねえ、ちょっとマックス!」
と真顔で検討に入っていました。
この勢いだとガーランドさんも、販売用に画用木炭一揃え、比較表付きで持ってこられそうです。
ソフィア様が
「第3王子が講演を聞きに来たいって言ってる。」
と言っていましたが、冗談でしょう。
もっぱらフィリップ様やその信奉者たちの悪意や誤解により、ぼろぼろになっていたわたくしの評判も、多少は回復しつつあるようでした。




