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元婚約者とその友人(女性)は、ある種お似合いのベストフレンズです(あなたに奪われたものを数えましょう)  作者: 暁
《2》「ブックシェルフ 改8」

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「ブックシェルフ 改8」【9】俺の権利はどうなるんだ ①

 中等部に入ってから、フィリップ様との間に特に問題はありませんでした。問題が生じるほどの接触がなかったといったほうが良いでしょう。


 たとえば休日の過ごし方。


わたくしは「ブックシェルフ改8」を活用してルスカ資料を読みたい。読書をしたい。書店に行きたい。魔道具店に行きたい。散歩に出たい。ダニエルズに行きたい。お友達と無駄話をしたい。

「ブックシェルフ改8」は大のお気に入りとなっていました。外見もわたくしの好みぴったりに繊細で美しく、中にはお気に入りの本が詰まっているのですから。用がなくともブックシェルフ保管庫に行って、ほれぼれと眺めたりしていたのです。満足でした。

 

一方、フィリップ様はテニスがしたい。テニスがしたいポロがしたい。テニスがしたい。テニスがしたい。ポロがしたい。乗馬がしたい。テニスがしたい。


 接点がまるでありません。


 学園でもクラスが違い、選択授業もかぶっていないことから、ほとんどお会いすることがありません。

 

 ただ、そのことをあまり気に留めてはおりませんでした。いずれ話をする機会もできるでしょうと。

 


 このころ、我が国の外交方針としてダスラウ王国との関係をより緊密なものとし、各方面での協力体制を構築することが決定、記念事業として互いの国で共通して人気の高いスポーツの親善試合が開催されました。テニスやポロなど、国を挙げて、貴族から平民までたいそう盛り上がるといったことがありました。


 学園でもそれは同じ。この時テニスに優れた方が高等部に在籍しておられたのですが、この方が我が国の代表に選出され、非常に良い成績を収められたことも学園生たちの興奮を掻き立てました。


 今回の親善試合が好評であったことから、4、5年ほど後にまた親善試合が行われることが決定し、スポーツ好きの学園生たちはよるとさわると親善試合の話ばかりでした。


 学園でも対象競技の選手の育成に力を入れ始めました。本人の希望と適性を鑑みて、強化選手として特別に強化トレーニングの対象としたのです。その中にフィリップ様も含まれていました。単独競技もですが、特にマリエル様と組んだテニスの男女混合種目が抜きんでて強かったのです。マリエル様はスポーツもおできになるのです。

それまでにも試合でペアを組まれたことがあり、お互いに面識をお持ちだったのですが、このとき正式にペアとして強化選手に選ばれてから、お二人は親しい友人となられたようです。

 フィリップ様とマリエル様、容姿も整っていて優秀な選手であり、かつそれが高位貴族ではなく平民と下位貴族であることから、学園での人気も高まってゆきました。まるで夢の物語のようだとあこがれる生徒もいました。

2人にあこがれる友人たちに、フィリップ様とマリエル様が囲まれているのをよく見かけるようになりました。マリエル様は座持ちがうまく、いつも明るくにぎやかな集団でした。その雰囲気に引き付けられて、2人の人気はますます高まってゆきました。


 マリエル様は、直情的な性格の方の多い選手の間で持ち上がる言い争いなどを、禍根なく収めることが非常に上手でした。わたくしも一度お見かけしたことがあるのですが、感情的になった2人の方を、冗談で場をほぐしながら冷静にさせ、解決に運んでおられました。機転の利く方だと感心した覚えがあります。選手間の問題解決に貢献される姿に、先生の信頼も厚くなっていったのです。

 フィリップ様は相変わらず率直・・・な言動をなさるようでした。しかし、実力が抜きんでていること、人気が高いことがその言動を良いように解釈させる方向に流しているようでした。一つ間違えれば人を傷つける言動も、悪意に欠けていることは明らかですので、友人たちからは「面白い人」、先生方からは「完ぺきではないが、それだけに可愛げがある生徒」と思われる結果となったのです。これはフィリップ様にとって良いことではなかったのかもしれません。すべては後になって思うことです。


 思えば、このころから、不穏な空気はあったのです。マリエル様とその婚約者のアレックス様は誰もが知るきらびやかなカップルです。ところがフィリップ様は?フィリップ様の婚約者って誰?から始まって、それがわたくしだとわかると、あからさまに落胆する人や愕然としてみせる人々が出始めました。はい。「地味」ですから。


 一部の、フィリップ様たちにあこがれる人たちを中心に、スポーツを趣味としない人間はつまらない人間であると見做す空気も感じらるようになりました。学園の授業以外では特にスポーツに取り組まず、休日には読書に没頭することもあるわたくしは、彼らにとって珍妙な人間に見えるのでしょう。人はそれぞれ、と思うのですが。


 スポーツ人気は各方面に波及し、お芝居や小説でもスポーツ少年、スポーツ少女たちが活躍するストーリーが流行し始めました。


 雲行きが怪しくなってきたのは中等部1年の終わりころです。

 そのころ、テニスが得意な少年が、努力の末学校の代表となり、やがて国の代表となって、各国の個性的な選手が参加する国際試合で活躍するという筋の小説が大人気となりました。テニスに詳しい方が筆者のようで、テニス好きで実際にプレーしている人が読んでもまったく齟齬がなく、共感・感動できる内容だそうです。数巻にわたり発表されていて、今後も巻を重ねることが決定していたのですが、本を手に入れることが困難なほどの人気でした。

 後で聞いたことですが、フィリップ様はスポーツ好きのお友達と相談して、担当を決め、何とか発売している巻を手に入れようと相当骨を折ったようです。そうして手に入れた入手困難な本であれば、汚したり無くしたりといったことが気になるでしょう。当然、流れとしてブックシェルフの利用が合理的でした。手に入れることができたのが1冊だとしても、フィリップ様のリーダーを通せば、複数の方が1冊の本を同時に読むこともできました。


 「ブックシェルフ 改8」を学園内に設置してから、わたくしは、リーダーを使って読書を堪能してきました。何しろ、フィリップ様の容量まで使わせていただいき、ブックシェルフ90冊分が使えたので、よく読む本はすべてブックシェルフに収納していたのです。教科書を置く棚をフィリップ様とわたくしでそれぞれ1段ずつ、残りをわたくしの趣味の本置き場にしていたのです。


 ところが、ある時本の入れ替えをしようかと「ブックシェルフ 改8」を覗くと、趣味の本のところに無理やりのように、テニス少年の冒険譚が1冊入っていたのです。どう考えてもフィリップ様のご本です。


 何か引っかかる気も致しましたが、わたくしは1年近以上、フィリップ様に容量を譲っていただいて、ブックシェルフの大容量の恩恵を受けてきました。フィリップ様も入れたい趣味のご本ができたのでしょう。それは喜ばしいことです。共通する趣味ができたといっても良いのです。

 わたくしは、フィリップ様、これまで場所を使わせていただいてありがとう、と思いながら、入れていた自分の本を少々、寮の自室に引き上げることにしました。フィリップ様から何か言ってこられたわけではありませんが、当然のことです。これまでは例外的にわたくしが多く使わせてもらっていたのですから。


 それからは、以前以上にこまめに「ブックシェルフ 改8」を覗いて、フィリップ様のものらしき本が増えて窮屈になっているようであれば、利用度が低い本から自室に移していきました。フィリップ様からは何も連絡はありませんでした。


 何が引っかかるのか、もう少し考えてみるべきでした。仮に立場が逆で、わたくしが誰かに何らかの利益を譲るお約束をしていたとして、その利益の提供をやめる段になって何の連絡をしないということは、おそらくしないでしょう。たとえば、参考書をお貸しすることをお約束してお貸ししていたとして、黙って勝手に取り戻すことはないでしょう。必ず、お約束した相手に声をかけるはずです。

フィリップ様も、同意の上でわたくしに保管容量を譲ってくださっていたのですから、それをお返しすること自体は当然であったとしても、わたくしに一言あってしかるべきなのです。


 この時は、何か不愉快な気分を味わいながら、もしかすると、好き放題に使わせていただくことに慣れてしまって、使わせていただいていた容量をお返しするのは当然のことなのに、不満の思いが沸いてしまっているのかしら?理不尽よね?わたくし。と自分を戒めるばかりで、そこまでつきつめて考えていませんでした。


 フィリップ様の趣味のご本は時とともに増えていきました。テニス少年の冒険譚は巻を増やしていましたし、今度はポロチームの友情物語が発表され、こちらも大人気となっていたのです。

フィリップ様とお友達は、長時間並んだりして何とか本を1冊手に入れると、「ブックシェルフ 改8」に収納してゆきました。容量の大きなブックシェルフを持っているお友達がいなかったことも不運でした。

 ついに、「ブックシェルフ 改8」の趣味に使えるスペースの容量のうち、半分の45冊分をフィリップ様の本が占める日が来ました。わたくしも45冊分使っています。これで使用容量は半分ずつです。フィリップ様からは何の連絡もありません。

 元々、半数ずつ使うのが基本なのですから、これが基本の状態だとわたくしは思っていました。45冊使えるだけでも贅沢です。

 

 フィリップ様から何の連絡もないことが気にはなっていました。

 

 しばらくして「ブックシェルフ 改8」の様子を見に行こうと考えました。保管庫に入室して、「ブックシェルフ 改8」に近づくと、その前に何かが置いてあるのが見えました。

近づいてみると、わたくしの本でした。床の上に数冊、床に直に乱雑に置かれています。あわてて「ブックシェルフ 改8」を開いてみると、フィリップ様の本が増え、わたくしの本とともに容量いっぱいの状態でした。


 わたくしは不安に思いました。この状況はやはり変だ。

確かに、もともと45冊ずつであった割り当てよりも多くの容量を使わせてもらっていたのです。ですから、今度はフィリップ様の方が多くの容量を使いたいという希望を出されたとしても不自然ではありません。しかし、フィリップ様からは何の連絡もないのです。わたくしの本を勝手に「ブックシェルフ改8」から出すのは道理に合いません。


 ひとまず、大切な本が含まれていたことから、床に置かれていた本を拾い上げて、急いで寮の自室に運びました。ブックシェルフ保管庫の中とはいえ、床の上に放置することはできません。


 寮から校舎に戻ると、遠目にブックシェルフ保管庫にお友達と入ってゆくフィリップ様の姿がありました。

後を追います。わたくしが保管庫に入ったとき、フィリップ様のお友達は手にテニス少年の冒険譚らしき本を持っていて、フィリップ様は「ブックシェルフ 改8」から、わたくしの本を取り出していました。

 

 






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