休日の犬(1)
一時間に一本のシャトル便に乗ってロゾーは星間管理局宙港に降りた。惑星と同じ名前の首都ベッフェルベリに航宙船舶が降下・停泊する宙港は商業用のものがあと一つしかない。
(まー、田舎も田舎って感じなんだよな)
交通の便は普通と言っていいだろうか。管理局宙港から大通りに出ればオートキャブが拾える。そこから都市の外れあたりまで走ること三十分ちょっと。ミレニティの経営するASレンタルショップ『ルースト』が建っている。
(ちゃんと舗装されてない道なんて、オレの故郷を除けばここでしかお目にかかれない)
都市部はもちろん舗装がしっかりしている。しかし、外縁のルーストがあるあたりではメインストリート以外は舗装がされておらず、土埃が舞わない程度に固化剤が噴霧されているだけ。
(普通の奴なんてこんな景色、ムービーでしか見たことないんじゃないか?)
外縁部を抜ければそこは荒野といって差し支えない景色が遥か彼方まで続いている。植物の緑もアクセント程度にしか見つけられない、良く言えば壮大な光景だった。
(ベッフェルベリが唯一の都市にしたってよ)
この惑星の収入源は宇宙で完結しているのである。
採掘船に乗った鉱夫は目的の資源小惑星に向かって航行する。小惑星を分解作業して採掘船に積み込むと惑星周回軌道に設置された精製プラントに運び込む。鉱夫の仕事はそこで終わり。精製された鉱物資源は流通業者によって星系外に出荷されていく。
(都市ベッフェルベリは鉱夫が生活してるだけの場所。そりゃ、幾つもはいらないよな)
車窓を流れていた集合住宅ビルの林はとうに途切れている。
土地は余るほどあるのだから一軒家に住めばいいと思う。ところが宙港への交通の便から鉱夫の住まいは都市中央に集中していた。
荒っぽい人間が多いので離れて住めばいいものをそうしない。なぜなら、現代建築技術は集合住宅にも極めて高い防音性をもたらしている。一軒家を防音加工するより安上がりなのだ。そして、鉱夫という人種は住処より飲み食いにお金をかけたがるような手合いである。
(で、急に場面転換みたいに景色が変わる、と)
地上に定住しているのは都市中央にある鉱夫向けのサービス業がほとんど。あとは農業や食肉プラントを運営している数少ない業者たちである。
ところがミレニティが住むブロックだけは一軒家が並んでいて、異質な様相を呈している。そこだけ切り離されたような古めかしい街並みが続く。
(しかし、田舎だってのに軌道エレベータも残ってない。ここの連中は生まれたときから反重力端子の恩恵を預かってるってわけか)
このゴート宙区から発信されたアームドスキン技術。それらは星間銀河圏を席巻した。全高で20mもある巨大人型兵器が格闘戦も普通にできる強靭さを持っているとなると宇宙戦闘を一変させてしまう。
さらに関連技術、反重力端子の効果も半端ではない。その名のとおり、電力供給だけで物体の質量をコントロールできる装置は文明さえ簡単に変える。航宙船舶だけでなく、巨大人型兵器が単独で重力圏からの離脱および降下を可能にしてしまったのだ。
(こいつも、か)
ロゾーは頭のσ・ルーンを指で叩く。
その感応装具は恒常的に装着者の動作学習をしている。そしてアームドスキンに搭乗したとき、命令情報として動作信号を発信する。反射動作を重視すべき腕のコントロールを除き、機体制御を全てσ・ルーンで行えるのである。
(これがなけりゃ、オレはパイロットになれなかったかもしれない)
σ・ルーンは彼に非常にマッチした。辺境のうえに「ど」が付くような惑星の出身では複雑な操縦系など合わない。戦闘艦の操舵など見てもなにをやっているのかわからない。しかし、感応システムのアームドスキンは操れる。身体を動かすのが得意な人間に向いていた。
「やっと着いた」
オートキャブは交通システム制御下のメインストリートまでしか走ってくれない。ミレニティの家、ルーストまでは歩くしかないのだ。
「犬の兄さん」
「ん?」
「こっちこっち」
σ・ルーンのコミュニケータが仕事をしてくれる。一本裏の通りに入ったところで婦人が一人手招きしていた。
「この前はうちの馬鹿どもが悪かったね。これ、飲みなよ」
使い捨てのプラ製タンブラーを渡される。
「いくら?」
「いいよ。お詫びさ」
「お詫び?」
通訳をミスっているのではなさそうだ。
「レニーちゃんが、例の騒ぎの真相を触れてまわっててね。皆、あんたには申し訳ないことしたと思ってるんだよ」
「問題ない。似合わないことをした」
「まあ、その風体じゃねえ。びっくりしちゃったんだよ。もう慣れたから安心しな」
婦人にバンバンと肩を叩かれる。その力も遠慮がない。艦の女性パイロットでもそこまでではないというレベル。呆けていると「よく見たら愛嬌があるじゃないのさ」とさらに叩かれた。
「レニーちゃんとこ行くんだろ? じゃあ、もう一つ持ってってくれないかい?」
「構わない」
「頼むよ」
「わかった」
最後だけ覚えたてのゴート語で答えた。すると婦人は満面の笑みになる。なぜか、顎の毛皮をワシャワシャとされた。
(なんだ? 急に距離感狂ったぞ?)
ロゾーはいきなり面食らった。
次回『休日の犬(2)』 「ほんとに来たの?」




