GPFの犬(3)
0.1Gの機体格納庫でロゾーは軽い身体を味わいながら整備士に工具を放る。トルクコントロール式のパワーレンチがくるくると回って手に収まった。
「面白いもんを拝んできた」
ヘソを曲げたメカニックに切りだす。
「なんだよ」
「地上でアームドスキンを見てきたんだよ。これがなかなか」
「なんだと? その話、詳しく」
パワーレンチで殴りかねない勢いで降りてきた。ダスティ・レビンは配属運が悪いだけで機械好きの仕事熱心なメカニックなのである。
「聞いて驚け」
ダスティは期待に目を輝かせる。
「箱にぎっしり詰まってたのは、たぶんイオンスリーブシリンダだ。あそこにあったアームドスキンには全て搭載されてると思っていい」
「お前、どうやってそんな大手工場の見学枠なんかに収まった。俺たちが申請したって全然許可降りないんだぞ?」
「工場なんかじゃない。それどころか町工場でさえない。レンタルショップだって言ってる」
メカニックは目眩を覚えたようにふらつく。ダスティにとってはとても信じられない情報だろう。相手が彼でなければ、からかわれていると思ったかもしれない。
「レンタルショップ……。悪い冗談じゃん」
「もしかしたら、あれで使うアームドスキンを貸し出ししてるんじゃないかと目星をつけたんだが」
「それこそ常軌を逸してる。あんな喧嘩に毛の生えたようなイザコザにそんな最先端機構を」
ここの星間平和維持軍駐留艦隊には縁のない部品である。管理局本部のあるメルケーシンを中心とした中央宙区にしか出まわっていないような代物だ。ダスティは拝んだこともないと嘆く。
「一本ちょろまかしてこれない?」
「馬鹿言うな。そんな安いもんでもないだろう。それをあんな女の子の目を誤魔化して盗んでくるなんてあり得ない」
「女の子ぉー!? お前、地上でなにやってんだよー!」
失言を悔いても遅かった。ロゾーは洗いざらい吐かされることになってしまう。口留めはしたが、早晩メカニックの間では噂になってしまうだろう。キュロラントや他のパイロットに伝わらねばいいかとあきらめた。
「そんなとこに潜り込んでたのか」
「身の上を思うと手伝ってやりたいじゃないか。だから当分、非番は手伝いなしな」
「仕方ない。俺が降りてって手伝ってやりたいくらいじゃん」
「やめとけ。あれは街のアイドルだ。腕に覚えがないとコテンパンにされて放りだされるぞ?」
街の人間のミレニティを見る目は明らかに敬意に染まっていた。それが彼女に寂しさを覚えさせるとも思ってはいないのだろう。
(特別視される孤独感ってなかなかないもんな)
ロゾーは少女の気持ちが痛いほどわかった。
◇ ◇ ◇
実機シミュレーション用の仮想宇宙に浮いているのはアームドスキン『コムファン』。ロゾーの今の搭乗機であり、そして三十年前の機体である。
中央宙区で配備されはじめている『カシナトルド』や『ヘヴィーファング』でもなく、以前に乗っていた重力波フィンタイプの『コムファンⅡ』や量産機の『ゼムロン』でさえない。
(骨董品ってほどじゃないが、もう民間機にさえ明らかに劣る世代のアームドスキンを使えっていう。初めから予算を割く気がないって露骨に言われてるようなもんだ)
当時は星間平和維持軍でも広く正式採用されていた機体なので汎用性は高い。しかし、いかんせんパルススラスターの機動性は古臭く、重力波フィン搭載機体に比べると出力はおろかエネルギー効率でさえ大きく見劣りしてしまう。
(新世代機の導入が急がれてる分だけ、あぶれたアームドスキンを払い下げするか、こういう厄介払いセクションに送るかどっちかってとこか)
世の流れは重力波フィンとイオンスリーブ駆動機構一色である。戦闘艦でさえ重力波フィンタイプが主流になりつつある今、加速の重たいプラズマスラスター推進のポンコツ戦闘艦所属。いくら安くとも、どこの国軍でも購入を躊躇うような旧式機体を任されているのは悔しさを通り越して笑い話でもある。
「今や民間企業でももっとマシな機体作るだろっ!」
躱したと思ったビームが左足をかすめる。今の搭乗機の性能をフィードバックされているコムファンはペダルどおりに加速してくれない。部品の交換をし、きちんと整備されていても老朽化した機体は各部にブレや必要以上の遊びができてしまっている。それが微少な反応遅れを生みだしてしまうのだ。
「こんな苦労して感覚を合わせたところで出番もない」
他の隊員はもっと悲惨な有様である。彼を含めた犯人グループ役の編隊に追いつけないどころか、一方的に反撃されて撃墜判定を食らう機が続出していた。これを訓練と言うにはいささか無理がある。
(それでもローラは訓練実績としてデータを上げなきゃならない立場だから堪らないよな。これじゃ、いつ復帰できるかわかったもんじゃない。ストレスを欲求不満に変えて発散したい夜を迎えることだってある)
総指揮官の現状を憐れに思いながら次の追撃機を撃破したロゾーだった。
次回『休日の犬(1)』 (これがなけりゃ、オレはパイロットになれなかったかもしれない)




