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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
違うようで同じ二人

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GPFの犬(2)

 周囲があまりに姦しいので私室に籠ろうかとしていた。ところが、上官から呼び出しが来たとなれば出向かないわけにはいかない。ロゾーも大概に素行が良くない隊員だが、命令違反で自室謹慎処分は避けたいところである。


(前は好きにしろって思ってたのに気が変わるもんだ)

 非番を潰されたくない。


「なんでありましょうか、戦隊長殿」

 敬礼して室内に入る。

「ああ、ハレハンタ操機長。ごくろうさま」

「特に失点はなかったはずでありますが、これ以上飛ばされるような場所があるとも思えないのであります」

「辞令じゃないのよ。あなたのスケジュールについて」


 艦隊パイロットの総指揮官となる戦隊長キュロラント・バニャックは操機団長補というランクになる。彼の操機長階級からすれば三つも上の雲の上の人に近い。丁寧な言葉遣いともなる。

 ロゾーも元は彼女の一つ下の操機隊長階級まで上っていた。しかし、とある事件を起こして二つもランクを下げ、挙げ句に転属のうえ左遷という憂き目にあっている。


「次の非番も上陸申請出てるのだけど、なぜなのか訊いてもいい?」

 投影パネルを確認してから彼を見る。

「当該駐留任務には関係のない事柄であります」

(おか)にいい人でもできたの、ロゾー?」

「違う。いや、違わないか。いい人ってわけじゃない。気になるだけ。言い訳がいるか、ローラ。あれは遊びだったはず」


 しばらく前にキュロラントとは男女の関係を結んだ。しかし、一夜かぎりの遊びだったと思っている。彼女の欲求不満の解消相手でしかなかった。一夜では終わらなかったとしても遊びは遊びである。


「あなたを束縛したいんじゃないわ。ただ、ここは事情が事情でしょう? なにかトラブルでもあったんじゃないかって」

 立場が曖昧な質問である。

「変に敬遠してたのを後悔してる。ちょっと興味が湧いた。ちゃんと回線は繋がるところにいるようにするから勘弁してくれ」

「なにもなければいいのだけど、住民とのトラブルは避けてね。ただでさえ難しい地域事情を抱えてるんだから」

「君の失点になるようなことをする気はない。再起を邪魔したくない」


 キュロラントは三十一歳という若さと階級が示すとおりエリートである。なのに、なぜこんな左遷地に配属されているかというと、女の身であまりに優秀であったからだ。

 運悪くジェンダー差別の男性ハズレ上官に当たったときに彼女はひどい査定を受けてしまった。星間管理局の管理AIはどうしたことかそのまま通してしまい、流刑地に近いベッフェルベリ送りになってしまう。トラブルでなかったがゆえに階級はダウンしていなかった。


(まだリカバリする余地がある。ローラならもう一度出世への道を歩めるはず。オレみたいな、もうどうしようもない奴が足を引っ張っちゃいけない)

 ロゾーは固く誓っていた。


「GPF……、いえ星間管理局機関そのものに未練はないのはわかるけど」

「食わせてもらってるだけでありがたいと思ってる。いじけてるのも飽きてきたから、少しくらい自分を甘やかして生きてみようかなって」

「悪いこととは言わないわ」


 彼女はもちろんロゾーの更迭理由となった事件のことも知っている。それどころか、独自に裏の事情まで調べあげているほど優秀な人物だ。ひと度口にすれば情報部が飛んできそうな事情を。


「見逃してくれ。もうなにも望んでないから」

「口惜しいわ。あなたほどのパイロットを」

「笑ってくれよ。宇宙屋に転向するほどの度胸もない犬ころなんだ」


 軽口に過ぎない。現実に除隊を申しでれば誓約書どころでないものを課されるはずである。もう二度と自由を望むべくもない身の上だ。


「じゃあな」

「ええ、バカンスを楽しんで」


 ロゾーにとってはそんな境遇であろうと揶揄される。実際に、永遠にここでの待機任務が続いたとしても不平不満はない。アームドスキンを降りる年になって除隊を許されれば幸いくらいにしか考えていない。彼はもう終わっているのだ。


(こんな時間か)


 彼とて行く宛てがないわけではない。いくらなんでも気軽に話せる相手くらいいないと息が詰まる。自然と足は機体格納庫(ハンガー)に向かった。


「なんだよ、ロゾー。昨日は手伝ってくれなかったから大変だったじゃんか」

「あのな、非番のパイロットをこき使う整備士(メカニック)がどこにいる」

「他にやることないんだろ? 手伝わせてやってんじゃん」


 気の置けない関係なのは整備士(メカニック)班である。彼らは分け隔てなく付き合ってくれたので非番は機体格納庫にいることがザラだった。


「上陸したんだって?」

「耳が早いな」

「お前がパターンを外すから噂になってんだろ?」


 我ながら珍しいことをしたのは事実だ。悪い噂だけは電波より早く飛ぶ。


「いい店見つけたか? 俺は何回かチャレンジしたけど失敗してる」

「悪くないとこは見つけた。けど教えない」

「ケチ臭いこと言うなよ。地上も女の子のレベル低くないのは知ってるんだから接点だけあれば」

「なんで、そんな店に通ってる前提なんだよ」


 茶化された。それはこの整備士が、彼が意外と女性隊員にウケがいいのを知っているからである。犬系獣人種であるからだ。GPFにも多い、アゼルナンという獣人種(ゾアントピテクス)は非常にモテる。実はベッドが最高だとまことしやかに噂されているためである。


(ローラもそれが目的で誘ってきたんだろうし)


 そちら方面でもあきらめきっているロゾーであった。

次回『GPFの犬(3)』 「一本ちょろまかしてこれない?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 少し遅れて読み始めです。 今はまだ周囲の人間関係からですかね? (上官がヒロイン枠となるか!?) (SFでは⋯うん、在ったなマク□スが)
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