変化と蠢動(1)
ロゾーが所属する戦闘艦サコロアに戻ると妙に人の気配が乏しい。いつもは乗員がたむろしているレクルームやトレーニングルーム、カフェテリアにも姿がない。
首をひねりつつ恒例のお土産を手に艦橋を訪う。いつもどおり歓迎されるが、どこか浮ついた空気になっている。その原因がわからず、キュロラント・ヴァニャック戦隊長にも菓子を手渡しつつ訊いてみた。
「いない、かもね。たぶん、皆機体格納庫に降りてるわ」
「いつからそんな仕事熱心になった?」
「別に働きたくなったわけではないのよ。見物かしら」
補給艦がやってきて、一部機材の更新があったとのこと。パイロット含めた乗員はそれを眺めに降りているのだという。
「機材? アームドスキンか。今度はどこのお古がまわってきた?」
「案外お古でもないわ。中央あたりで試験採用していた機体。星間平和維持軍とか星間保安機構で運用してみて一応評価が終わったからこっちにも下げてくれたみたい」
「やっぱりお古じゃないか。ずいぶんとめでたい連中だ。少しは見直されたとでも思ったか?」
あくまで一部である。当然のように彼に割り当てられるはずもない。なにせ、毛嫌いされて編隊に属していないのである。
サコロアの四機七編隊を除けば、キュロラントの戦隊長機と遊撃機とされるロゾーが単機運用されている。だから、演習ではいつも犯人役だった。
「本当はあなたに乗ってもらいたかったんだけど、一隻あたり五機しかなくて。さすがに編隊リーダーを差し置いて、は無理があるから自重して」
「どうせ使う当てもないアームドスキンだ。中途半端に新しい機体より、古い機種のほうが犯人役には適当だろう」
「ヘソを曲げないの。どうせ下で面白いアームドスキンに乗ってるじゃない。使用登録はちゃんと報告上がってきてるんですからね?」
「バレたか」
通信士からのお土産リクエストを受け付けたあとは私室に戻るつもりだった。しかし、ここで見物に加わらなければ本当にヘソを曲げたように映ってしまうだろう。アリバイ作り程度に野次馬をしておくことにした。
「ダスティ、新しいオモチャが届いたんだってな」
比較的仲のいい整備士の背中を見つけて漂い降りた。
「戻ったのか、ロゾー。急遽だったんで皆びっくりしてるところさ」
「あれか」
「そう。なんと、いきなりイオンスリーブ搭載機ときた」
彼の目から見た印象は、全体にのっぺりとしているというもの。装飾に乏しければ威圧感があるわけでもない。GPFカラーの黄土色に彩色されたボディは如何にも試作機然としている。本当に実戦配備したアームドスキンかと疑うほどだった。
「あのヘーゲルの『ホライゾン』なんだぜ?」
もったいぶって説明してくる。
「ヘーゲルは知ってるが有名な機種なのか?」
「確かに発表はもう八年前だし、機体そのものもフルスペックタイプのものじゃない最初期型だけど、評価はかなり高かったらしい。完成度が素晴らしいってね」
「なるほど。八年前なら、オレが前に乗ってたカシナトルドと同時期の新機軸アームドスキンになるわけか」
乗機だったのは二年ほどだったが、管理局工廠で開発されたアームドスキン『カシナトルド』を使用していた。比較的ライト&スマートタイプの運用しやすい機種。
「はいはい、そうでしたね!」
ダスティは面白くもなさそうに言う。
「今やヘヴィーファングと並んで主力機のカシナトルドに乗ってらっしゃったんでしたね。それならホライゾンくらいなんてことないでしょうよ」
「嫌味じゃないって。事実なだけだ」
「わかってる。星間軍は最新機種が優先して配備されるのくらい誰でも知ってる」
彼も触れたいのだろうが、担当するのは第七編隊とロゾーの乗機である。割り当てられていない。
「そんなにうらやましかったら下に降りてみろよ。十九の娘だって当たり前に整備してるぞ」
「例の君の飼い主ね。うーん、魅力はあるけど一品物の癖強マシンは怖くて触れないって。見ただけじゃ、どこがどう繋がってるのかもわからなかったりするし。俺は規格製品専門なのさ」
きちんと設計図を読んで全体の把握ができるようでないと怖ろしいというのだ。ロゾーには理解できない悩みである。
「戦隊長殿に頼み込んでみろよ。担当させてくれるかもしれないぞ」
「よせ。班長に締められるわ」
「冒険しないと楽しみは得られない。俺が模範を示してやったじゃないか」
パイロットほどではないが整備士にも休みはある。そのつもりになれば長期休暇を取ってゴート宙区のメーカー見学に応募するくらいはできると促してみた。
「そんな悪魔の誘いはやめてくれ。これ以上にらまれたくないんだよ」
「まだ皮肉られてんのか?」
「君の機体だけ念入りに整備してるわけじゃない。普通にしてるだけだ。だってのに、あんなに動くのはおかしいって言われる。君の腕がいいだけなのにさ」
「放っとけ。オレに直接噛みついてくる度胸のない連中の遠吠えだ」
「ほんとに噛まれたら堪ったもんじゃないって思ってるんじゃないか」
メカニックのジョークにロゾーは殴る振りで応じた。
次回エピソード最終回『変化と蠢動(2)』 (なにか見過ごしてる気がする)




