星空の向こう(3)
訓練部隊などロゾーにとってはステップでしかない。アームドスキンに乗って浮かれがちな同期入隊者に混じり、あからさまに差を付けていく。
「ロゾー、君はなんであれが見えた?」
「なぜといわれても、オレを撃つ気ならあそこしかないだろう」
「いやいや、ないって」
同期のパイロットは完全に意表を突いたと思ったか。
野生の勘とも違う。シンプルにわかるのだ。もし、彼を狩ろうとするなら敵はそこから来るしかない。その感覚に身を委ねるだけ。そうしていれば、相手が次になにをしてくるかが読める。
「どこまで行く気だよ」
「できるだけ高みへ、だな」
誰よりも早く訓練フェイズを終え、実務部隊へと配属が決まる。パイロットを志すと決めてから、ルパードが買い与えてくれたσ・ルーンは十分に育っており、訓練でパーソナルプロトコルも充実した。
「養子とはいえ、さすが閣下のご子息ですな。訓練フェイズで被弾ゼロというのは聞いたことがありません」
「ふーむ、ロゾーにとっては難しいことではなかったかもしれないな」
「さぞや厳しく鍛えられたのでしょう」
「いや、自分はないもしてない。皆、これの才覚だ」
養父に背中を叩かれる。
このとき、ルパードはウグルア方面軍司令官に昇進している。ただし、年齢はもう六十五歳。退役までの時間はそうない。彼の誉れとなるには、もっと急がなくてはならない。
「どんな厳しい任地でも問題ない、親父殿。いや、司令官閣下」
「そうらしい。自分を助けてくれるか?」
「任せてほしい」
それから三年は転戦をくり返す。どこへ行けども歓迎され、さほど苦労もせずに作戦を成功させた。ロゾーにとって、敵の動きは読めるものだったからだ。幼いときにくぐった数々の死線が彼を強くする。
「向かうところ敵なしか。お前を星間軍に推薦する声が届いている。自分もその一人だ。挑戦してみるかね?」
「望むところだ」
「現役最後に最高の戦士を送りだせたとなれば鼻が高いものだな」
星間軍は管理局所属のパイロットにとっては憧れの的であり、ゴールであるともいえる。しかし、ロゾーはそこもスタートだと思っていた。そこで頭角を表してこそ登りつめたと思える。
「人生とは興味深いものだ、あの未開の惑星で出会った少年がこの星間銀河圏最強の場所へと向かおうとしているとはな」
「行かなくちゃならない。キニーが、妹の魂があそこで待ってる」
「うむ、念願の高みだったな。そこでお前はなにを成すのだろうか」
半年後、ロゾーのフィットスキンの胸には『GF』のロゴが入っていた。
◇ ◇ ◇
「親父殿のとこにいた間が一番ゆったりとしていたかもな」
「どこが? めちゃくちゃハードにいろんなこと吸収してない? アームドスキンに乗るのだってそこで憶えたんでしょ?」
「それより生活周りの機械の操作を憶えるほうが大変だったぞ、パティ。ありすぎだ」
ガルフレンの家で一変した生活に慣れるのに苦労をした。それに比べればアームドスキンの操縦は比較的直感でまかなえるので楽だったと記憶している。
「人それぞれよ」
ミレニティも幼馴染に言及する。
「私たちにとったら生まれたときから当たり前に周囲にあった物でも、ロゾーにしてみたら全部初めて触れるものだったってこと。パティだって物珍しい器具が厨房に入ってきたら戸惑うでしょう?」
「まあね。レニーに比べたらあたしは機械もの苦手だし」
「おじさんだって得意ってわけじゃないから私に調整をお願いしに来ることだってあるもん」
どうやら二人の娘が揺り動かされた感情も落ち着きを取り戻してきたらしい。柄にもなく長い昔語りをしてしまった。苦い生い立ちも今になっては記憶でしかなくなっている。
「もうこんな時間か」
夕暮れが近くなっている。
「そろそろ戻らなきゃな」
「えー、盛りあがってきたとこなのに」
「あのな、オレは夜からまた待機任務なんだよ。帰らせろ」
時間的にぎりぎりである。
「じゃ、続きはまた今度ね」
「あくまで聞きだす気だな?」
「当然でしょ。隣家に紛れ込んできた迷い犬の素性を知っておかなきゃ、大事な幼馴染を危険にさらすことになるかもだし」
パトリシアは上手に誤魔化したつもりかもしれないが、瞳が興味本位だと告げている。彼は辟易しつつも彼女の大胆さに感謝もしていた。
(レニーは訊きにくそうにしてたもんな。自分もいろいろと背負ってるだけに他人にも踏み込みたくないのはわからんでもない。どれだけ気になっても、自分からは持ちだせなかったろう)
彼女の少し晴れやかになった表情が事実だったと物語っている。彼の歩んできた奇妙な道のりが、このルーストにたどり着いたのも縁みたいなものであろうか。
(まあ、ここまでだな)
次からはまたのらりくらりと躱すしかあるまい。
(話せないことが多すぎる。星間軍でオレが経験したことをもらせば、今のこの自由さえ手の届かないものになりかねないんでは尻込みもする。それくらいは勘弁してくれよ)
ロゾーはベッフェルベリでの関わりを捨てたくはないのだった。
次回『変化と蠢動(1)』 「いつからそんな仕事熱心になった?」




