変化と蠢動(2)
(なんの酔狂だ?)
機体格納庫を冷やかしたロゾーは私室に戻りつつ考える。
(ベッフェルベリにあんなアームドスキンが必要なわけがない。どうせ下ろすならもっとゴート宙区でも栄えてるとこにすべきだろう。そんな噂は一切聞いてない)
嫌でも耳に届く。そして、駐留艦隊の乗員は自分たちが底辺なのだと思い知らされるのである。ずっとそんな空気にさらされてきた。だから、皆が浮かれているのである。
(なにか見過ごしてる気がする)
ロゾーは胸がざわめくのを感じていた。
◇ ◇ ◇
ボアクト・サルーニン旅団長はベッフェルベリ駐留艦隊三番艦『アイノノフ』の艦長である。一時は師団長補まで昇格していたが、任務失敗が続き今は降格されて艦長職に甘んじている。それが不満であった。
(こんな辺境に封じ込められていたら浮かぶ瀬はないではないか)
手柄を立てる機会がまずない。チャンスがなければ昇格する目はない。もう五十二歳の彼では、すぐにでも這いあがらなければ退役まで旅団長で終わってしまう。
主に艦長職を任じられる旅団長のランクは下から数えて二番目でしかない。指揮官コースに入ってすぐは旅団長補の見習い。それを卒業したらほぼ自動的に上がれるランクなのだ。
(このままでは名誉どころか、軍人年金さえ大した額にならない。こんなところで終わってしまったら笑い者でしかないじゃないか)
家族を呼べるような任地でもない。単身で配属されて、家族と会う機会など一年に一度ほどしか得られない。しかも、家に帰ったところで空気のような扱いをされる。任務失敗で降格されたのを知っているからだ。
(家族を見返すチャンスがいる)
ボアクトは真剣に考える。
(あんな小娘の下でいつまでも働かされて堪るものか)
キュロラント・ヴァニャック戦隊長が事実上の艦隊司令官でもある。ほとんど艦隊運用がない駐留部隊ではアームドスキン隊を統べる者が全体を統率する。それがルールだった。
(なにかが起こるのを待っていてもキリがない)
間違いのない事実である。
(チャンスがないのなら作るしかない。せっかくまともなアームドスキンの割り当てがきたのだ。あれを利用しない手はない)
これまでは本当になにもできなかった。なにせ、部隊の保有するアームドスキンは、本星で運用されている民間機種に劣るスペックしかない骨董品のような機種だったのである。
(ホライゾンが五機。それだけあればできることはある。最終的に手柄を立てられればそれでいいのだ)
多少強引にでも事を進める必要がある。しかし、彼が一人画策したところで上手くいくとも思えない。ヴァニャック戦隊長は嘗めていい相手ではない。何度もやり込められてきている。
(あの小娘には向上心というものはないのか? なにかと文句ばかり付けおって。未開人なんぞになんの配慮をする必要がある)
度重なる上申を退けられてきている。星間法に照らし合わせて逸脱する行為だとうるさく言われた。頭が硬いことこのうえない。
(次こそは確実に進めなくては)
ボアクトは共謀する相手を模索しはじめた。
◇ ◇ ◇
「いつになったら、あの邪魔なミレニティ・ユングを負いだせる」
ベッフェルベリ自治政府議会のダルキン・ファンガスタ議長は愚痴る。
「このままいけば、ガルドワのクランブリッド氏はあの小娘にベッフェルベリの為政者の椅子を禅譲させる気だぞ?」
「そのような話は今のところございませんが、いずれはとお考えなのかもしれませんね」
「そうに決まってる。だから、何度お願いしても頭越し外交をするのだ」
政策秘書の一人は賛同してくれる。
「こんな名前だけの自治政府では国民に利益還元などできません」
「ガルドワは名目上の自治だけ与えて、実質的には支配したままのつもりでいる。我が国の人間は騙されつづけている。我慢なるまい?」
「ええ、とても正常な状態とはいえませんです」
その政策秘書は他国から流れてきた者だったが非常に優秀であった。ダルキンにとっては片腕とも呼べる存在である。
「統治しているとはいえ、採掘業者どもはろくに議会の言うことを聞かん。どっちかというと旧区画の意見を尊重する始末だ。いったいなんだという?」
不満しかない。
「そういった構図を作りあげてきたからでしょう。おそらくはそれこそがジェイル・ユングの画策した結果ではないかと? 自らの後継者にベッフェルベリを与えるためだと思われます」
「許されてなるものか。民主的に選ばれた議員こそがこの国の代表であり、全体を御する議長が最高位であるべきなのだ」
「はい、おっしゃるとおりにございます」
政策秘書が近づいてきて耳元にささやく。
「では、まずは採掘業者から実権を奪うことからお始めになられては?」
「む、どうすればいい?」
「あの馬鹿げたセレクションという制度を廃止するか、もしくは議会の制御化に置くか、どちらかが良策でしょう。あえて言わせていただくのであれば、ジャッジを議会の息のかかった者にすべきかと」
「ふむ、セレクションそのものは荒くれどものガス抜き。いきなり禁止しては不満がこちらに向く可能性は否めんか」
ボアクトは現実的な方策を政策秘書に求めた。
次はエピソード『彼女の危機に奔走する彼』 12月更新予定です。




