↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
彼の生い立ちに涙する彼女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/54

残してきたもの(1)

 迂闊だった。ミレニティはロゾーがうなされながら口にした『キニー』という名前に身体が固まってしまう。そんな反応を幼馴染が見逃すわけもない。


「こらこら、この野良犬が」

 パトリシアが彼を揺り起こしに掛かった。

「どこで引っ掛けたのか知んないけど、乙女の前で他の女のこと思いだしてんじゃないわよ」

「女の……名前?」

「さっき、『キニー』って」


 目ぼけ眼だったロゾーの目が見開かれる。失態を覚ったように顔を逸らすと、戻ったときには表情を改めて笑顔になっていた。


「昔の女だ」

「堂々とほざくんじゃない」

 幼馴染の追及の手は厳しい。

「ただの別れた彼女って感じじゃなかったわ」

「あのなぁ」

「言ってみなさい。怒らないから」


 パトリシアの意図はわからない。ただの興味本位か、彼の好みのタイプでも聞きだそうとしているか。リアクションがリアクションだっただけに印象は強いはずだ。


「嘘だ。キニーは妹だよ」

「は、妹? 故郷に残してきた妹って感じじゃないわ」

「本当だ。オレのために死んだ妹の名だ」


 さすがのパトリシアもそこで絶句する。触れてはいけないものに踏み込んでしまったという面持ちで顔をしかめ、ミレニティのほうを窺ってくる。


「言い方が悪かった。事件ってほどじゃない」

 ロゾーはフォローをする。

「普通に病死。身体が弱かったんだ。チネのことがあったんで久しぶりに夢に見た」

「なんだ。びっくりした」

「妹さんのこと、話せる?」

 真摯な表情で尋ねる。

「ロゾーの故郷のこと聞いたことないし、一度聞いてみたかったもん。話したくないのならどうしてもとは言わないけど」

「まったくもって面白くもなんともない話だぞ? どっちかというと胸糞悪くなるような類だ」

「教えて」


 嫌がられるかもしれないとは思う。しかし、知りたかった。彼だけ、自分の過去を知ってしまった負い目もあるから教えてくれるのではないかと思っているので少し大胆になった。


「妹はキニー・メゼハンタっていう」

「ファミリーネームが違うじゃない。実妹じゃないとか」

 幼馴染が不審げに訊く。

「血の繋がった妹だ。異母妹とかじゃない。オレのロゾー・ハレハンタって名前には意味があるんだよ」

「名前に意味?」

「故郷のスグルクには年の周期が七つあってな、『ハ』の年の『レ』の季節に産まれた『ハンタ』の家の子だからハレハンタなんだ」


 変わった風習だと思った。親の名前を継承したり、ミドルネームに残したりするケースは少なからずある。しかし、生まれ年を名前に組み込むのは聞いたことがない。


「じゃあ、妹さんは『メ』の年の『ゼ』の季節に産まれたわけ」

「そうだ。七年周期だから、子どものうちは名前だけで何歳かわかる仕組みになってる」

 七年差があれば成長具合でわかるだろう。

「成長すればおおよその基準にしかならないけど。まあ、人類種(サピエンテクス)に比べると多産だからそういう仕組みになったのかもな」

「なるほど、名前だけでどこの家の幾つくらいの子かわかれば見分けやすいわね」

「子どもたちだけでゴチャっとしてても名乗らせればどこに連れ帰ればいいかすぐわかる寸法だ」


 画期的とは言わないまでも、効率的と思われるシステムである。子ども同士でも年の差の理解が早いだろう。


「ロゾーのため(・・)? なんかしちゃったわけじゃないんだよね?」

「ああ、キニーはオレを思って死んでしまった。だから、君がレニーって呼ばれてるのを聞いてドキッとした」

「妹さんと重ねたんだ」


 ロゾーが重い口を開くのをミレニティは黙って耳を傾けた。


   ◇      ◇      ◇


 ロゾーはハンタの家の八番目の男の子として生まれた。スグリの慣習として兄弟間はそれほど仲が良くはない。兄姉に面倒見てもらったという記憶は皆無だった。むしろライバルというのが近い。

 違う家の子ども同士でなら遊ぶことも多いが、それは狩りの練習じみたものが多く、幼い頃は男女の差なくじゃれ合っていたと憶えている。


 彼の二つ下に妹が生まれた。スグリの種族は女性も基本的には一人で狩りができるものだ。強いものこそが優れたスグリだとされる。しかし、妹のキニーは生まれつき病弱であった。

 スグリは『ゾダ』という閉鎖式の天幕のような家に住む。男児は乳離れしたら父親と同じゾダで寝起きし、女児はそのまま母親と同じゾダにいる。彼女は生まれ損ないとして家族から隔離され、家族とは別のゾダだった。


 ゆえに、ロゾーが妹のキニーの顔を見たことが数度しかなかった。生まれ損ないのゾダを訪れるのは良くないこととされているからだ。弱気が移るみたいな言われ方をした。

 しかし、あるとき妹のいるゾダの傍を通り掛かったロゾーはうめき声を耳にしてしまう。あまりに心配になった彼はつい中を覗き込んでしまった。そこには可愛らしい面立ちの妹が伏せていた。


「キニー?」

「えっと、もしかしてお兄ちゃんの一人?」

「ロゾーだ」

「ロゾーお兄ちゃん、ここに来たら怒られちゃうよ」

「そんなんはいい。どうしてこんななんだ?」


 ロゾーの見た妹の姿は、病弱というだけでなく顔を腫らしていたからだった。

次回『残してきたもの(2)』 「近所の誰かにいじめられてたりするんならオレがやり返してやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 割とココロのトゲに?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。