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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
彼の生い立ちに涙する彼女

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伏せがちな少女(4)

「医療機関はどちらになさいますか? 事前に治療可能枠の確認もできますが」

 美形アテンダントが尋ねてくる。

「管理局病院がお勧めなんだがオレの決めることじゃない」

「たぶん、お世話になってるドクターがわたしの身体のこと一番わかってると思うからお願いできたら」

「では確認してみましょう」


 ドゥーリアが手配を続けてくれる。本当にあれよあれよという間に段取りが進んでいった。


「確認取れました」

 今回ばかりは少し時間が掛かった。

「ドクターがチネ様の治療用のテストピースを保管なされているそうです。こちらからの要請で培養準備を進めてくださるようなので、移植手術までの期間は短縮できそうです。よかったですね」

「うそ、夢みたい……」

「ほんと、よかったな」

 涙ぐんで、手で顔を覆う少女をルーソンは元気づける。


(こんなに上手くいく? 怖いほどなんだけど)

 ミレニティはまだ戸惑っている。


「世話になった。この借りはどうやって返せばいい?」

 ロゾーはドゥーリアを窺う。

「制度内の処理なので結構です。……と言いたいところなのですが、お気遣いいただけるのであればルーストの位置情報ジャミングを外していただけると幸いです」

「それはオレの管理範囲外だから勘弁してくれ。その代わり、σ(シグマ)・ルーンに在留ポインタを発信するよう設定してもいい」

「ありがとうございます」


 ロゾーが許可を与えるとアテンダントは彼のσ・ルーンにアクセスしている。在留ポインタというのは位置情報検知条件を強化する方法で、最終地点の発信が記録されるのだそうだ。個人情報に強く関わる部分なので、本人の許可なくできる設定ではない。


「ロゾー、それって」

「気にするな。元々付いてた首輪がちょっと頑丈になっただけだ。大して変わらんな」

「ありがとう」


 そうとしか言えなかった。彼は彼女と関わったことで多くを捨てていっている気がする。自分を大事にしない行動に不安がつきまとう。


(ロゾーがあきらめたいろんなことを私はどうやって埋めればいいのかしら)


 ミレニティは思い悩むのだった。


   ◇      ◇      ◇


「まだ粘るの、パティ?」

「だって、この前は弟とチネを連れて街で外食してきたんでしょ? 今度はあたしの番じゃない?」


 先日、星間管理局ビルに出向いた彼らは、用が済んだあと外食して帰っている。パトリシアにはランチ不要に連絡をしたので誤魔化しようがなかった。それで幼馴染は拗ねているのである。


「あたしも豪華なランチが食べたかった」

「ロゾーの奢りで、でしょう?」

「それもある」


 犬頭の男はメーダ食堂のほうが美味いと何度もフォローしているのだがパトリシアは納得しない。要は、物珍しい食事がしたいだけなのである。自分のうちの味ばかりでは飽きると贅沢を言っている。


「レニーやあの馬鹿弟ばっかりロゾーに甘えて。たまにはあたしにも甘えさせなさい」

「甘やかそうにも、パティは私よりずっとしっかりしてるじゃない。だから隙がないと思われてるんじゃないかな」

「ああー、隙のないモテない女だって言われてる!」


 幼馴染は大騒ぎだが、当の本人のロゾーは機体格納庫(ハンガー)のテーブルの傍のソファで大いびきをかいている。なにも言ったりはしないが、疲れるようなこともあるのだろうと思って寝かせていた。


「でも、正直すごく助かってる」

 パトリシアは口調を改める。

「チネのご両親は抱き合って泣くほど喜んでた。娘のことも心配だったんだろうし、自分たちの苦労も殊更だっただろうし」

「そのままじゃ、いつ重い病気に罹るかもしれないもんね。最悪命に関わるような」

「移植手術まで頑張ってくれたら、もうなにも心配がないんだもの。緊張の糸が切れたみたいだったわ」


 彼女たちにしてみれば、ご近所さんは家族とほとんど同列といっていい。援助までするのは踏み込み過ぎで遠慮されるだろうが、心配する分にはどれだけしてもいいだろうという意識だった。


「ロゾーが来て、町の雰囲気もちょっと変わった気がする」

 パトリシアがもらす。

「議会の連中、なにかにつけ圧力掛けようとするじゃない。政府より人心を集めてる感じがするのが気に入らないんでしょ」

「実権なんてなにもないのにね。それでも邪魔だって感じるのかな」

「目障りなだけって感じでしょ、ジェイルおじさんへの嫉妬混じりの。最近はちょっと圧力強まってて、反発して喧嘩腰みたいなとこあったから。でも、このワンコはなんてことないように弾き飛ばしちゃうんだもの」


 議会と旧区画の軋轢だったものが、そこに星間管理局が介在してくると話が変わってくる。政府はもちろん管理局に口出しなんてできないし、関係者の視点が旧区画に混ざり込んだことで無茶ができなくなった。結果、圧力は弱まって風の通りが良くなっている。


(たった一人でこんなに変わるなんて面白い。お祖父ちゃんが巡り合わせてくれたのかな?)

 そんな気がした。


「うう……」

 珍しくロゾーがうなされている。

「キニー……」


 その寝言にミレニティもパトリシアも反応せざるを得なかった。

次回『残してきたもの(1)』 「言ってみなさい。怒らないから」

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更新有り難うございます。 本人と両親からすれば、降って湧いた幸運?
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