伏せがちな少女(3)
ロゾーが少女チネを抱きかかえ、ルーソンの肩に手を添えて歩いていく。初めての場所に気後れする彼らを元気づけるように。ミレニティはそれに続く格好になった。
「よ!」
数あるブースの中から目的のものを見つけた男は前に立つ。
「いらっしゃいませ、ロゾー・ハレハンタ操機長。本日はどのような御用向きでしょうか?」
「え、いつの間に予約なんか」
「いや、管理局の関連機関の所属者は登録されてる。ビル内に入る時点から顔認証で検出されてる」
アテンダントが名乗るまでもなく来訪者に対応を始めたので予約していたのかと思ったのだ。そうではなく、彼個人を認識していたらしい。
「今日は付き添い。ちょっと個人的な話になるから相談ブース使えるかい?」
「承りました。あちらの表示されたブースでお話を伺います。どうぞ」
「ありがとな」
当然のように話を進める。防音措置を施されている個別ブースへと案内され中に入る。
(こういうの、ロシュおじさまだからの特別対応じゃなかったんだ)
一度利用したことのある彼女は意外に思った。
「お待たせいたしました。わたくし、担当させていただくドゥーリア・クレメンスと申します。ご要件を伺います」
バックヤードから目の覚めるような美形アテンダントが出てきた。
「付き添いって言ったつもりなんだが」
「なにか問題がございましょうか?」
「あのな、雰囲気が違うんだよ。まあ、通じるならいいか」
チネを横に腰掛けさせたロゾーは額を揉んでいる。
「どういうこと?」
「怖いお姉さんが来ちまった。思ったより目を付けられてるらしい」
「大丈夫?」
この時点でミレニティはなにがなんだかわかっていない。ただ、以前に話したロゾーがマークされている件に関係しているのは理解した。
「こっちの子、チネ・マクドイヤンが先天的な腎障害で困ってる。先端再生医療を受けられるよう手配してくれ」
臆面もなく要求する。
「チネ・マクドイヤン様ですね。医療記録およびカルテの閲覧の許可をいただけますか?」
「このお姉さんは口が固い。なんの心配もいらないぞ」
「はい、いいです」
備え付けのコンソールを用いて一気に複数のパネルを呼びだしたドゥーリアは本当に読めているのかというスピードで消化していく。数秒も経たずに顔を向けてきた。
「先天性の問題であることが確認されました。ご両親の記録に関しても閲覧は構いませんでしょうか?」
チネに尋ねてくるが戸惑っている。
「レニー、マクドイヤンさんとこの夫婦はヤンチャな経歴があったりするか?」
「ううん、とっても真面目な方よ」
「じゃあ、大丈夫だ」
チネを促して許可をする。
「はい、違法薬物使用の前科などは確認されませんでした。これにより、チネ様の症状は完全に先天的なものであるのがほぼ証明された形です」
「妊娠前とか最中の薬物使用で子どもに影響出たりするから、その確認だ。問題なかったろう?」
「確認できませんでしたので、チネ様は星間管理局福祉施策第四号認定がなされました。ご両親の同意および署名が確認されましたら、指定医療機関での再生治療が無料で受けられます」
驚くような話が告げられる。どうしても高額になってしまう臓器の再生治療が無償で受けられるというのだ。
「そんなこと、あるんですか?」
ミレニティは思わず聞き返してしまった。
「はい。星間管理局はすべての加盟国民に対して、生来の健康を保証する福祉制度がございます。明確な過失が認められる障害でないかぎり、生まれた瞬間から健康な身体状態で人生を始められるよう規定しております」
「ほんとに……」
「普通の加盟国民は案外知らなかったりするんだよな。それぞれの国営の医療機関でも把握してないもんだから推奨されなかったりな」
星間管理局の医療機関では当たり前に勧められるらしい。
「オレたちの臓器の問題に関しちゃ後天的で、しかも自分からパイロットになったって過失があるから除外だ。でも、チネみたいに生まれつきの障害に関しちゃ無料で治療を受ける権利がある。それを行使するだけの話」
「びっくり。国家福祉制度より充実してるなんて。マクドイヤンさんとこだって、できうるかぎりの手配をして、それでも無理だってあきらめてたのに」
「ベッフェルベリに限らず、ゴート宙区の人間はどうも管理局ビルに腰が引けてる。せっかくなんだから目いっぱい活用すべきなんだよ」
確かに人気は少ない。来訪者はほとんどが渡航者という状態なのは明白である。
しかも、彼女らの知らない便利な制度がたくさんありそうだった。ちょっと真面目に勉強するべきだと思う。
「申請書類はお宅のほうに配信しておきますね。お戻りになられましたら、内容を十分に確認のうえ返信をお願いします。登録が完了しましたら、改めてアナウンスさせていただきます」
「ああ、頼む。早めだと助かるな。段取りに時間が掛かるだろうし」
「ええ、お早めにしていただければ、一般的な医療機関であれば半年以内には移植手術が可能かと思われます」
「レニー、ご近所さんのほうの手筈は任せる。オレができるのはここまでだ」
(ここまでもなにも、ほとんど確定状態じゃない)
ミレニティは喜べばいいのか驚けばいいのかわからない状態だった。
次回『伏せがちな少女(4)』 「隙のないモテない女だって言われてる!」




