地上でアルバイト(3)
ロゾーとミレニティがセレクションエリア近くの高台に到着すると、ハンク組とダラカッツの両社のアームドスキンがすでに睨み合いの状態だった。一桁台同士の対戦だった前回と比べると迫力が違う。
「機種はバラバラでもこれだけ集まると見応えあるな」
「様々な機種が混ざってるのは当然なの。ほとんど趣味で作った一品物ばかりなんだもん」
「これだけの数を趣味で作るのかよ。どこの富豪だ?」
当然の疑問が湧く。アームドスキンはそんなに安く建造できるような代物ではない。
ミレニティは双方の準備が整っているのを確認して開始の合図を告げた。両者が走りだして激突するのを見定めてから彼に振り向く。
「それぞれが別のエンジニアの手によるものよ」
娘が教えてくれる。
「作ったからって誰か個人に簡単に売れるものでもないでしょう? だから、大手のレンタル会社が買い取るの。レンタル機として利益を生みだしてもらうために」
「買い漁るわけか」
「そう。で、エンジニアは次のアームドスキンを作る原資を手にして、レンタル会社は購入した機体を維持管理しつつレンタルして利益を得る。双方、損はないって感じ」
レンタル会社は他の星系の町工場とかもチェックしているという。
「ルーストみたいなとこは珍しい部類なんだな」
「うん、うちみたいに自前で建造してレンタルしてるところは稀。維持を考えるとレンタル会社だって大手の量産機を仕入れたほうが楽なんだけど高価いし」
「量産機ってのは軍用を目的にメンテナンス性を高めたうえで実用に耐えるほどのスペックを備えるよう設計されてるもんだからな。開発費が馬鹿に掛かる」
開発が成功すれば製造コストは下がっていく。しかし、開発に要した費用を回収しなくてはならないし、失敗するケースの費用も転化される。どうしても価格は上がってしまうもの。
「フリーのエンジニアが空き時間に気の向くまま組んだアームドスキンだったら金は掛かっても原資だけ回収できれば十分だろうしな」
要は腕試しみたいなものと理解する。
「うちにあるレンタル機はお祖父ちゃんが遺してくれた設計図で組んだものばかり。ハイト・リュンデだけは私にマッチするようにしてあったみたいだけど」
「ジェイル氏は多才だったんだな」
「なんでもできる人だった。家族が暮らせるよう、いろいろと手広くやって。パイロット兼エンジニアなのかと思ってたんだけど、七つのときにやっと過去を教えてもらったの」
その壮絶さにしばらくは怖くなってしまったという。
「お祖母ちゃんが亡くなってすぐのことだった。自分もそう長生きはできないだろうから、私がなにも知らないまま遺していくのは心苦しかったのかも」
「レニーに背負わせようとは思ってなかったと思うぞ」
「うん。鋼の魔王の孫なんだから誇りを持って生きなさいって激励だったはず」
カミングアウトの理由など本人の胸のうちにしかない。それでも、ミレニティはプラスに受け取って生きていこうとしている。悪くないことだと感じた。
「でも、ちょっとだけ後悔はあったみたい。そのとき、初めてお祖父ちゃんが涙を流すのを見たんだもん」
呆然とする彼女を抱きしめて言ったらしい。
「『家族に業を背負わせてしまった。お前には悪いことをしたと思っている』って」
「レニーの両親の事故死や祖母殿の早逝まで自分の責任だと感じていたんだろうな。やり遂げるのは覚悟のうえで自分で背負うつもりだったんだろうけど、現実に不運に見舞われたのは家族だったと」
自責の念からくる涙だったのだろう。
「なんでこんなこと話してるのかな。パティにだって打ち明けたことないのに。ロゾーがお祖父ちゃんに雰囲気が似てるからかも」
「君は吐きだすところを求めてたんだよ。オレみたいに終わった奴にはちょうどいい。ちゃんと墓まで持ってく」
「困っちゃう」
ずっと自分の中に閉じ込めていた思いを吐露したのは寄り掛かれる相手と認められたからか。親身になってくれる隣のメーダ家を頼っているとはいえ、主人のルーニトにユング家の事情まで負わせたくはなかったのであろう。
(こうして他の誰の耳もないところじゃなきゃ話せなかったんだろうな。この年頃の娘にはまだ重すぎる話だ)
どこにいても、ただの厄介者扱いだった彼なのだ。喉の奥にずっと詰まっていたしこりを吐きだすゴミ箱の役に立つなら本望である。
「レニー、君が幸せになるのはこれからだ。幸運しかない人生が待ってる。今のうちに吐きだせるもんは吐きだしとけ」
「そんなこと言ったら甘えちゃうんだから」
「いいんじゃないか。なんのしがらみもないゴミ箱なんてそうは転がってないぞ」
ロシュではミレニティを別の見方しかできない。彼女を救っているつもりで、ジェイル氏の幻影を追っている。いつか、偉大な先達と同じ存在になると期待しているのだから。
(オレを踏み台にして羽ばたいていけ。まだ、そのくらいのことはできる度量は残ってるはずだ)
自分におあつらえ向きの役回りだとロゾーは感じていた。
次回『地上でアルバイト(4)』 「ぶっ飛ばされんのはお前らのほうだ」




