ロゾーの実力(6)
『おお、愉快愉快』
ドゥカルの意識は歓喜に踊る。
『こやつのサイレベルはどうなっておる? 戦闘中でもないのにどうしてこうも乱高下するんかのう。集中力だけでやっておるなら、どこか壊れておるぞ』
アル・リヴェレともなるとコクピット周りのセンサーも充実しており、ロゾーという男のデータもしっかりと取れた。
普通サイレベルというものは戦闘時の高揚感によって左右されるもの。ピンチだったり、ここぞと本人が決意を固めたときこそ上昇する。
『意識してやっておるのか? まさかの。そんな人間はついぞ聞いたことがないのう』
惑星規模破壊兵器システムの起動キーにまで設定されているようなパラメータである。容易にコントロールできるようなものではない。それこそ、幼いときから極限的な死と隣り合わせの環境で生き抜いていないかぎりは。
『面白いもんが転がっておるもんじゃ。この世は捨てたもんじゃないぞよ、リヴェルよ。ほっほっほ』
ドゥカルはコクピットカメラの犬頭を眺めた。
◇ ◇ ◇
アル・リヴェレはいわば協定機のコピーマシンである。ロシュの父であるユーゴが協定者として乗っていた『リヴェリオン』というアームドスキンの性能を再現するために模索して建造された機体である。
ミレニティも一度だけ、ユーゴの国葬が行われた折りにそのアームドスキンを見ている。各部は現代風にアレンジしてあるし、フランカーといった固定武装は取り払われている。
しかし、現在の駆動系や重力波フィンが搭載されていない1番機が建造されたときから人を寄せ付けないほどの性能を発揮している。アームドスキンの申し子のようなパイロットでなければ扱えないといわれた。
(ロシュおじさまはパイロットとしての才能に乏しかった。他は身内にも所属パイロットにもわずか一人だけ。シルヴィーネおばさまだけが唯一まともに乗れたマシン)
シルヴィーネにしても搭乗機会が多かったわけでもない。小規模な内乱鎮圧に数回と、あとは演習で比類なき戦闘力を発揮したのが記録されている。
「乗れそう、ロゾー?」
「本格的に動かせるかどうかはわからないが、どうにか乗れそうだ。じゃじゃ馬馴らしでプロトコル作り込んで一般人にも使えるようにするか?」
彼は予想を口にしている。
「きっと無理。任せるからジャッジの仕事に付き合えるとき補助のアルバイトして」
「馬鹿言うな。GPF隊員は副業禁止だ。それに、とんでもない値段の付くような兵器を気楽に渡すな」
「そうかな? せいぜい二百万トレドくらいだと思うけど」
「経済感覚壊れてるぞ」
庫内に並べている他のアームドスキンはパーツのみの原価が五十万トレド程度である。売値にするなら百万トレドほどだろう。それを考えれば倍の価格設定にしたのだから十分だと思っている。
「姿が見えないと思ったら裏にいたの」
パトリシアが覗きに来る。
「万年寝坊助をやっと起こしたのね?」
「うん、死蔵するようなものでもないし使える人がいればね」
「名案ではあるわね」
幼馴染も同意してくれる。
「さっきのアルバイト代の話、もしロゾーが手伝ってくれるなら、うちで飲み食いする分はルースト持ちでいいんじゃない? 金銭を伴わない労働対価なら法的にはセーフでしょ?」
「それでいい?」
「オレを除け者にして話を進めるな」
アル・リヴェレのスピーカーから聞こえる声は非難というより呆れの色が強い。やぶさかではないと思ってくれていそうだ。
「じゃあ、庫内に移動させて。出せるようにしとくから」
「あいよ」
あきらめたようだ。
機体を歩ませたロゾーはふわりとかがんで右手で彼女と幼馴染を掬いあげる。本来は危うい行為なのだが、あまりに自然すぎて乗っかってしまった。
シャッターをくぐって機体格納庫に入るとテーブルの傍に降ろしてくれる。空いている壁面近くに歩かせて背中を向けると降着姿勢を取らせて降機してくる。
(全部が全部できてる。まったく慣熟訓練してないのに、あっという間に育っちゃってる)
σ・ルーンの命令信号とプロトコルがセットで成長をしている。本当なら時間を掛けて形作るはずのものが、目に見えて進化しているのを信じられない面持ちで見つめた。
「ほんと変わった男よね。見た目全然違うのにいつの間にかご近所さんに馴染んじゃって」
「うん、評判いい」
「レニーと同種の匂いっていうのかな、そんな感じがするわ。どこがって聞かれるとすっごく困るんだけど」
「嫌な気分じゃないかも」
幼くして天涯孤独にされた不運で世を儚んでいないとはいえない。それでも真っ当に生きたいとだけは願っている。多くは望まないから、社会の一部として認められていたいと足掻いている。
「人の顔じろじろ見てなにを話してる」
「やっとレニーが背中を預けられそうなのが出てきたって。ワンコっていうのがなんだけど」
「餌に釣られてるような腹ペコの野良犬でいいのか?」
「そのほうが普通で安心できるんじゃない」
じゃれ合うパトリシアとロゾーを見ているとミレニティも楽しい気分になった。
次回『地上との落差(1)』 「暇つぶしになるくらいにはな」




