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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
期待されて困る二人

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ロゾーの実力(5)

 純白のアームドスキンのフォルムに特別な感じはしない。どちらかというと正統派だと思う。いささかシャープなところがあるくらいか。

 ただし、まとう雰囲気は普通ではない。内からあふれ出るような強者の空気感のようなもの。とてもじゃないが、まともな機体だとは思えない。


「これ、なんだ?」

「『アル・リヴェレ』ってアームドスキン。ルーストを再開するとき、ロシュおじさまに餞別って譲り受けたんだけどちょっとね」

「この違和感は……」

「とってもピーキーで、とても普通の人が乗れるような機体じゃないの。どう調整したって無理で、レンタルに出せるような代物じゃなくってずっと寝かせてたのを久しぶりに起こしたんだけど」


 装甲の内側にひそむポテンシャルというべきだろうか。命懸けの勝負の経験がなくては感じられない異様がそこにあった。


「乗ってみてくれない?」

「オレが?」

「ガルドワでもほんの数機しか作ってないらしいの。乗れるのはシルヴィーネおばさま、ロシュおじさまのお姉さんくらいだって。もう引退なさってるけど、一時はユーゴおじさまを継ぐホワイトナイトはあの方しかいないって言われた人」

「おい、重たいぞ」


 極めて特殊な機体だという。鍵の三勇士に挙がっているユーゴ・クランブリッドの乗機を徹底的に分析して量産化できないかと模索した結果できあがったアームドスキンなのだが、誰もが扱えないほどの仕上がりになってしまったという話だった。


「乗ってみないこともないが、うん、壊さない程度にな」

「よかった。たぶん私なら乗れるかもしれないってつもりなんだろうけど、ハイト・リュンデでわりと満腹で。さすがに持ち腐れちゃうのは忍びなくって」

「まるで厄介払いみたいな言い方するな」


 ロゾーなら動かせるかもしれないと思って起こして再整備してみたのだそうだ。しかし、ミレニティの技術を持ってしても100%に仕上がっているかはわからないらしい。


「プロトコルスティック貸して」

「なんでだ?」

「コピーして使わないと。アル・リヴェレでの学習を上書きしたら、とてもじゃないけど他の機体が動かせなくなっちゃう」

「なんてもんに乗せる気なんだよ」

 ツッコまざるを得ない。


 基台に立たせてないので降着姿勢を取らせないといけない。遠隔でのσ(シグマ)・ルーンの登録だけでもひと仕事だった。ミレニティのσ・ルーンとも無線接続をしてからようやくパイロットシートに収まる。


「どんな感じー?」

「まあ、待てって」


 機体同調が完了して動かす準備が整ったところである。ただし、とてもではないがいきなりフィットバーに腕を通す気になれない。意識スイッチでコンソールパネルを呼びだした。


「なんてパワーゲインだよ」

 思わずつぶやく。

「ねえ、変でしょ」

「変とわかってるもんに放り込むとかマゾっ気でもあるのか?」

「私だってアル・リヴェレが動くとこ見てみたいんだもん」


 ひととおりスペックチェックをしたが軍用機でもそれだけの数値はないだろうという数字が並んでいた。なにを考えてこんな物を組んだのだろうと思う。逆に、これを組める技術に感服すべきだろう。


(やっぱりゴート宙区は底しれない。あの(G)(F)が総出でも落とせないかもしれないのはたぶん本当だ)

 ロゾーは薄ら寒い気分になった。


 星間管理局がセンシティブに扱うはずである。とてもではないが、優秀な人材を配置して刺激していい場所じゃない。駐屯艦隊なぞ、それこそ人材のゴミ箱くらいにしかできない。いいかげんなくらいでちょうどいい。


(地政学的に、お世辞にもいい場所とはいえないしな)

 上層部はさぞや胃が痛いだろう。


「引っ掛かってる?」

「いや、なんとかしてみる。ちょっと離れとけ」

「はーい」


 ミレニティが店舗側の壁に張り付いたのを確認してからフィットバーに腕を這わせた。シリコンタブがしっかりとキャッチしているのを目視してからゆっくりと動かしてみる。


「動いた」

「そりゃ動くだろう。でもな」

「ちゃんとしてるっぽいよ。手が開いたり閉じたり。自在に動いてるんじゃないかな」


 持ちあげた腕を視界に入れる。手の開閉から指を波打つように独立して動作させるとこまでやってみた。それはグリップの握力センサーだけでは足りず、σ(シグマ)・ルーンの操作と連動させないとできない動作だからだ。


「ここで動かしても近所迷惑にならないか?」

「大丈夫。理解してもらってるから」


 足踏みさせる。音も振動もかなり控えめだ。どれほどの技術をこのボディに放り込めばこんな出来上がりになるのか理解に苦しむ。しかも、ベースは半世紀以上前に実在したマシンだというのだから、どこかおかしい。


「さって、と」

「え?」


 足の屈伸から軽いジャンプ動作をした。そこからバク宙させる。空中でするりとロールしてくれた機体は想像したとおりの着地点を踏んでくれた。精度も極限近く高いアームドスキンだと思う。


「どうやったらそんなのできるの? 私だっていきなりは無理なのに」

「勘だな。動かしてみて感触を確かめて……」

「わかんないよ、そんな直感的なの」


 不満げな面持ちになった娘を見てロゾーは苦笑した。

次回『ロゾーの実力(6)』 「経済感覚壊れてるぞ」

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