ロゾーの実力(4)
(そんなことってある?)
ミレニティは心の底から驚いている。
ザーヴァルはルーストに置いてあるアームドスキンの中で一番扱いの難しい機体なのである。ミディアムタイプなので普通は一番簡単に思えるがそうではない。マルチに動くからこそ操縦バランスの難易度が高い。
ライトタイプならすべての動作をコンパクトにできる。ブレーキが効きやすい。ヘヴィータイプはパワーで振りまわせばいい。いざとなれば重さがブレーキになる。しかし、ミディアムタイプはそうはいかない。
(別機体で組まれたプロトコルで動かしてるのよ? いきなりまともに動作するわけないのに)
必ず慣熟が必要になる。ところがロゾーは当たり前のように動かしてきた。つまり、普段からどの程度アクションするかを計算しながら学習を進めてきたということ。彼のプロトコルは売れるほどの価値があるだろう。
(まさに平均化データ。操縦が上手い下手とかとはルートの違うことをしてる)
彼はどんなアームドスキンであろうとも乗機として平均的に機能させることを重視している。最低限のレベルを確保してくれる動作パターンを作りあげてきたのだ。
(だから、いきなりの機体でもこんなに動かせる)
イオンスリーブ搭載機は久しぶりだと言った。その特性感覚も取り戻しつつアクションの組み立てに入れ込んでいる。そういうセンスは天才的だと思った。
「考え事してると転がすぞ?」
「どうやって負けを認めさせようか練ってるところ」
勝ち筋が見えない。かといってコテンパンにされているでもない。むしろ活き活きと動かせている感じがする。ロゾーは彼女を十全に引きだそうとしているきらいがあった。
(大人、なのかな)
認めさせたいという欲求はある。しかし、彼の手のうちで転がされていると感じてもそれが心地よくもある。セーブしていたものを全部解放しても受け止めてもらえる。それは他にない快楽であった。
(直感的に惹かれたけど正解だったみたい)
時間を忘れて実機シミュレーションを続けても疲労感がない。きっと脳内麻薬が放出されっぱなしの状態になってしまっている。実戦の中でも感じられたことのない充実感だった。
「そろそろにしよう。ハイト・リュンデがなんか警告出してるぞ」
「あ、バイタルオーバー」
必要以上に興奮していた様子である。タイムを見ると、夢中で一時間以上没頭していた。普通ではあり得ない稼働時間だ。バイタルオーバーするはずである。
「ごめんなさい。平気?」
「結構メンタル削られたぞ。途中からやられ役だったもんな」
「ほんとごめんなさい」
σ・ルーンとプロトコルはとんでもなく成長していることだろう。あまりに濃密な時間だった。それなのに彼は軽口で流してくれる。コクピットを出ると涼しい風が顔をなぶっていった。
「はぁー、生き返る」
パトリシアが置いていってくれたドリンクが身体中に染みていく。
「アガりすぎだ」
「こんなの久しぶりだったんだもん。……ねえ、ロゾー。フィットスキンって持ってこれる?」
「オレのは管理局宙港のボックスに放り込んである。公務以外で使うわけにはいかないからな」
制服に近い扱いなのだという。
「私物は?」
「あるが、ずいぶんと出してない。もう劣化しちまってるな」
「そうなんだ。じゃあ、段取りしとくね」
「なにを企んでる?」
目を丸くしている。なにをさせられるか戦々恐々としているのだろう。実際、ブルゾンをはだけたロゾーの上半身は水蒸気を登らせていた。フィットスキンのクーラー機能なしで今日みたいなことはさせられない。
(それにロゾーだったら、もしかしたらアレを……)
ミレニティは期待に胸を膨らませていた。
◇ ◇ ◇
絵に描いたような満面の笑みが待ち受けていた。次の非番にロゾーがルーストに顔を覗かせたときのことである。ミレニティが手をひらひらさせている先には『ROOST』のロゴが入った青と白に色分けされているフィットスキンが吊るされていた。
「段取りよすぎだぞ?」
「頑張ってもらっちゃった」
彼の体格だと標準規格ギリギリである。ただし、獣人種であるがゆえに筋肉量が異なる。どうしてもリクエスト品になってしまうのだ。
「今日もハードな実機シミュをする気か? 絶対に三十分休憩だからな。この前で懲りただろう?」
「違うの。ちょっと試してもらいたいことがあって」
「オレになにをさせようとしてる?」
「いいから、とりあえず着て」
目をキラキラさせながら懇願される。やむなくミリタリベストを脱いでシャツになる。それも脱ぐと半裸だ。人類種のようにアンダーウェアは必要ない。毛皮がある。
「そんなにモフモフじゃなかった」
「長毛だったらやってられないぞ」
ベッフェルベリは安定して温暖な気候をしている。発汗機能を獲得していなければ耐えられない感じだった。それこそ、ずっとフィットスキンを着ていないとすぐに熱中症になってしまう。
「すべすべ」
「楽しむな。勝手しておいて、もしオレに尻尾があったらどうする気だったんだ」
「あ、忘れてた」
スグルクに尻尾はない。進化過程で捨て去ってきた。どうせなら体毛も捨てればよかったものを残してしまっている。
「こっちこっち」
ミレニティは着替えた彼を機体格納庫の奥へと引っ張っていく。裏手に続くドアがあるところまで。
「なんだと?」
ドアをくぐってロゾーが見たものは純白のアームドスキンだった。
次回『ロゾーの実力(5)』 「まるで厄介払いみたいな言い方するな」




