ロゾーの実力(3)
ロゾーはアームドスキン『ザーヴァル』を少し乱暴に降ろしてみる。足が地面を噛み、滑る感じで背景が流れた。
しかし、足首から膝にかけてのイオンスリーブシリンダがショックを緩和するのか微かなフィードバックも起こさない。それでいてペダルを操作して踏ん張ると、しっかりと粘る感じでブレーキを掛けた。
(お、これは?)
非常にいい感触である。
駆動系の動作の繋ぎが滑らかである。機械特有のカツンという衝撃がシミュレーションで再現されることがない。キャンセルされているのではなく、実際に小さいことを示している。実機シミュはそれくらい忠実なのだ。
(男のロマンはないが)
ガツンという衝撃がないのは操縦をしていますという感覚に乏しい。しかし、自身の身体を動かしているかのような自然な感じがする。追従性は非常に高いと見た。
「加減はいらなさそうだ」
「ほんと?」
探るように控えていたミレニティのハイト・リュンデが走ってくる。実際に乗って対峙してみると、その足さばきも新駆動系の特性によるものだとわかった。彼女は完全に乗りこなしている。
「無理しなくても」
「オレを転がしてから言ってみな」
挑発する。
カウンターで数歩前に出てテンポを外す。彼女相手にペースを渡すのは危険だ。見栄を張った手前、いきなり転倒させられるのは避けたい。
「そういうとこ!」
「いやらしいだろう?」
ハイト・リュンデが攻撃に入るモーションを削る。数歩分の時間を失ったミレニティはバックスイングに乏しい蹴りしか放てない。威力が落ちているので簡単に腕で受ける。
(どう来る?)
その蹴りとて苦し紛れではない。次に繋ぐ計算があるので放ってくる。そうでなければキャンセルしている。彼女はそういうタイプの戦い方をするのだ。
(そこまで動くもんか)
放たれたと同じスピードで蹴りが折りたたまれる。スピン気味に地面を叩くと反対側の足が蹴り足となって跳ねてきた。しかも今度は膝から一直線に下から伸びてくる。受けるのを危険と察したロゾーは上半身を反らしつつバックステップで間合いを取った。
「乗ってくれないんだ」
「嫌な感じがしたからな」
彼は舌を巻いている。
知る範囲では、アームドスキンというのは足技が得意ではないものなのだ。それはロゾーの範囲内の話。宇宙をメインに活動するとどうしても足の利用価値は下がる。無重力での蹴りは威力が数割がた落ちるからである。
(スパー相手を喉から手が出るほど欲しがるわけだ)
脚の操作は腕のようにフィットバーで行うのではない。完全にσ・ルーンによる学習操作である。つまり、生身の身体で学習させておかないと発動させられない。
そのうえで実戦で用いてプロトコルが組まれてようやく完成する。ミレニティはおそらくこれまでシャドウアクションでσ・ルーンを成長させ、ジャッジの仕事の中に取り入れてきた。それでどうにか形になる。
「やっ!」
今、作り溜めてきたものを目いっぱい発動させている。この間もハイト・リュンデのプロトコルはかなりの勢いで成長している。スパー相手がいるということは全てにおいて短縮可能になるのだ。
(嬉しくてしょうがないだろうな)
今までの苦心惨憺が思いやられる。
フェイントの蹴りを幾つか挟んで間合いを詰めてくる。不用意に突っ込んでこないところがにくい。ほとんど接触せんばかりの距離で膝が跳ねてくる。普通は手で止めにいくところ。
(これは受けては駄目なやつ)
上半身を動かされる。微妙に後ろ重心になってしまう。重心がズレたら横を抜けざまに腕を取ってくるだろう。ひねりつつ、さらに押し込んでくる。そうすれば倒されてしまう。
倒れないよう機体をバックロールさせても無駄だ。すでに体勢は崩されている。なんとでも料理できるはず。
「こうだな」
半身になりながら、むしろ詰める。重量を掛けつつカウンターで重心を前へ。接触したザーヴァルは逆にハイト・リュンデを逆反り体勢に仕向ける。ミレニティは崩されないようアウトステップするしかない。これが彼女の組み立てを切る方法である。
「なんでよう」
「面白い仕掛けをしてくるからだ」
ミレニティにしてみれば組み立ての起点を潰された形。文句の一つも言いたくなるのは当然だ。今まで通用してきたものが通じなくなるのは嫌なものである。
「ロゾーの意地悪」
「乗って倒されろというのか? 遠慮する」
「学習させろー!」
一連の組み立てをプロトコルに仕上げるチャンスを逸した。乗ってやってもよかったが、こっちにそのつもりがないのに完成させるのは癪である。のちのちの効果より、今彼女を増長させるほうが良くないと判断した。
「お願いするならあとで付き合ってやる。今は普通にスパーをやろうぜ?」
「だったら、とことん仕掛けてやるんだから」
「そうそう、本気で来い」
変な欲目を抱かせず、思いっきり動かさせるのがいい。それが今のミレニティの一撃一撃が萎縮しているプロトコルをよりダイナミックに進化させられる。バトルの素人相手なら通用しようが、もし上手の相手に出会ったときに付け込まれる隙を潰しておきたい。
(ロシュはこの娘をここで終わらせる気はなさそうだしな)
ロゾーは指導教官のつもりでスパーを続けた。
次回『ロゾーの実力(4)』 (大人、なのかな)




