ロゾーの実力(2)
『ようやっと見せてくれるかの』
ドゥカルは起動させたアームドスキン『ザーヴァル』の機動データモニタを始める。
陰ながらミレニティの生活を見守っているゼムナの遺志は待ちに待った時間を迎える。星間軍や星間平和維持軍のメインシステムに侵入してロゾーの実績を拾いあげることは可能。
ただし、極めて高度なシステムは彼の侵入も検知して警報を発するであろう。ゆえに彼のテリトリで実機に乗ってくれる機会を待っていた。
『センサーが足りんがどれくらい拾えるもんかのう』
ドゥカルが設計・建造したハイト・リュンデ以外のルーストに置いてあるアームドスキンは一般機である。パイロットモニタ用のセンサーは標準的なものしか搭載されていない。実機シミュレーションであればなおさらパイロットの状態把握は困難だ。
『どれくらい動かせるかくらいはわかるじゃろう』
ドゥカルはロックを解除したザーヴァルを監視した。
◇ ◇ ◇
『パーソナルプロトコルのインストールが完了しました。機体同調を開始いたします』
機体システムが準備完了を告げてくる。
「σ・ルーンの同期コード送る」
『同期正常。σ・ルーンにエンチャント。3、2、1、機体同調成功』
「少しは違うとこあるかと思ったが完璧にユニバーサルデザインだったか。助かった」
星間公用語も受け付けてくれたのが良かった。そこから難儀するかもしれないと思っていたのだ。
「実機シミュレーションモード。緩衝アームのフィードバックを20%に設定してくれ」
『シミュレーションフィードバックの慣性力を20%に設定しました。接続機体を設定してください』
「ハイト・リュンデで。起動してからでいい」
『承りました』
ひと通りの設定が終わった頃にフィットスキンに着替えたミレニティがやってくる。パイロットシートに座る彼に不思議そうな視線を向けてきていた。
「乗れた?」
「ロック掛かってなかったぞ。今度から気をつけとけ」
「そうだっけ。おかしいなあ。まあ、いいか。ザーヴァルを選んだのね?」
「こいつはザーヴァルって機体か。慣れないんでな」
イメージ的にパワータイプと思われたようだ。しかし、ロゾーとしては俊敏さを重視したい。どれだけ彼の要望に順応してくれるかが大事なのだ。それには軽さも必要である。
「イオンスリーブ搭載機はご無沙汰なんだ。味を聞かないと振りまわされるかもしれん」
「えー、意外」
「戦闘艦の機体格納庫を見たらびっくりするぞ。スクラップ間近の機体が並んでる」
ミレニティはころころと笑いながらハイト・リュンデに小走りで向かう。搭乗すると手慣れた動作で起動から同調までを済ませた。
『ハイト・リュンデと接続完了。実機シミュレーションを実行します』
アナウンスを聞いた彼はシート格納操作をする。
「仮想ステージは外か」
「一番選んでるのがここ。稼働させるシーンも荒野ばかりだから」
「地上は慣れないんだけどな。まあ、性能を見るには重力下も重要だ」
彼ら隊員がシミュレーションをする場合はほとんどが宇宙空間を選択する。主な任務地がそこだからだ。地上は基本的に刑事機関である星間保安機構が管轄する。
「いけそう?」
「いつでもいいぞ」
フィットスキン代わりにブルゾンを羽織ってロックバーを掛けている。いくらかマシな程度だが、慣性力再現性を低くしているので支障あるまい。
「じゃ、スタート」
鮮やかな黄色と白のボディをもつハイト・リュンデが滑らかに加速する。ロゾーも合わせてペダルを踏み込むと静かに背景が滑りだした。久々の感覚に身を浸す。
(重力波フィンはこれがいい)
スムースな機動が心地よい。
(姿勢にブレが出るような叩かれるみたいな加速がない。これでエネルギー効率もいいってんだからメリットが大きすぎる)
デメリットが少ない。性能面で強いて挙げれば、高速域での加速だろうか。パルススラスターは推力を加えた分だけ加速するが、重力波フィンはスピードが出るほど加速は鈍くなる。
他に整備の難しさもある。整備士の中には知識が足りなくて重力波フィンが触れない者もまだいる。技術的にはステージが違うといっていいほどらしい。
「いくよ?」
滑らかな加速を楽しんでいるとすぐにハイト・リュンデと接触する。武装は非使用の設定なので蹴り掛かってきた。上に逸らしつついなす。腕の操縦桿に当たるフィットバーへのフィードバックは驚くほど小さい。
(こっちのフィードバックまで低減させてないんだがな)
感触に戸惑う。
(イオンスリーブの緩衝性能が存分に活かされる設計になってる。ブロックは柔らかいがアタックはどうだ?)
意識して地面に誘導する。娘も待ってましたとばかりについてきた。彼女はあまり宇宙戦闘を経験していないはずである。ジャッジとして大地での戦闘がほとんどだろう。
「私のステージに付き合って大丈夫?」
「まだ掴めてないんだ。反動制御が上手くできるとは思えないんでね」
足を地につけてのバトルを選ぶ。そのほうが駆動系の生の感覚を味わえそうだ。普段のスパーに近い状態で追従性を掴みたい。
ロゾーはバックステップで間合いを取りつつグリップを握り直した。
次回『ロゾーの実力(3)』 「いやらしいだろう?」




