魔王の裔(3)
「びっくりした?」
「そりゃあな」
ロシュを見送ったあとにミレニティに尋ねられたロゾー。他に返しようがない。いきなりゴート宙区のVIPとご対面とは面食らう。
「オレが聞いていいような話なのかも、な」
「逆に身近な人には聞かせられない話。みんな、お祖父ちゃんを知ってても正体のことは知らないもん。『鋼の魔王』はそれくらい有名人」
「外の人間だから色眼鏡なく話せる内容か。わからなくもない」
彼女が気を許しているなら知っておくべきとロシュが判断したのは理解できる。そうでなくてはガルドワ総裁との接点を説明しにくい。
旧区画の人々には遠縁だと説明してあるらしい。ゴート宙区の住民なら彼の説明を疑いもなく聞き入れる素地ができている。
「怖くならない?」
「どのあたりが? レニーの祖父殿は偉人に数えられるのかもしれないが、だからって君の人格が変わるわけじゃない。少なからず影響を受けてるとしたってな」
「やっぱり、みんなとは違うんだ」
もし、ジェイルの正体を知ったとしたら、誰もがミレニティに過大な期待を抱くだろう。それはロシュとて逃れられず、これからの成長でなにかを成すのではないかと期待されているという。
「このとおり、普通の娘なのにね。お祖母ちゃんみたいに勘が鋭くもないし」
「祖父殿と一緒に戦ってたのか?」
「うん。すさまじい戦果を挙げたらしいの。強力な異能を持つライナックさえ凌駕するほどの」
伝説として語り継がれるほどの活躍をしたのだという。ゴートの人々が星間銀河圏に加われるだけの安定感を持つに至るベースを築いたのが鍵の三勇士として歴史に刻まれていると語った。
「もう一人いたな」
「『力の鍵』リューン・バレルも亡くなられたって。結構前のこと。ブラッドバウは今も力を失ってないけど。姉さまたちがしっかり締めてる」
三角耳が反応して彼女を向く。
「知ってるような口振りなんだが」
「機動要塞バンデンブルグに行ったのは一度だけ。十年も前。今の総帥のリリエル姉さまが若かった頃。っても、今まだギリ二十代だけど」
「あっちのトップとも知り合いか。これは話せないな」
彼女は窺うように見てくる。
「ロゾーだったらこっちのほうが衝撃的かも。リリエル姉さまの旦那様はジャスティウイングだけど?」
「おいおい、星間銀河最強の司法巡察官の名前が出てきたぞ。そろそろ勘弁してくれ」
「安心して。ジュネ兄さまがここに来たことは一回しかないから。とっても忙しい人だもん」
多くの人物、それも英雄クラスの人々がミレニティの今後に期待を抱いている。彼女こそが魔王を継ぐ者ではないかと。小さな身体に掛かるプレッシャーは如何ほどのものか。
(ロシュ氏もこの娘のメンタル面のほうを案じてそうだな。そのために番犬の一匹くらい飼っておくべきと判断したか)
真っ当に考えれば、どこの馬の骨ともしれない犬を近づけはすまい。彼女を利用する可能性のほうが高いと考えるはず。ゆえに彼に事実を告げていったともいえる。ミレニティのバックには自分たちが付いているぞとプレッシャーを掛けていったのだ。
(いざってときに寄り掛かれるような男に見えたか? ちゃんと調べたんなら、妙なしがらみに捕まってるとわかっただろうに)
思惑が見えない。ベッフェルベリの住人では難しいにしても、しがらみがないほうが適格に思える。外の人間のほうが使いやすいと思ったか。
「ここに来るの嫌になった? いろいろとめんどくさいでしょ、私」
「オレとしちゃ気にならない。だがよ、あの議長さんが騒いでくれたお陰で星間管理局もレニーの背後にこれまで以上の注意を払わないといけないって思ったろう。もしかしたら上から禁止令が出るかもしれないな」
「嫌だなあ。ねえ、いっそのこと除隊してうちに来ない?」
「ここで飼われるのか。それも悪くないって思っちゃいるが」
熱心に勧めてくる。ずいぶんと気に入られたもんだと思った。自分の背後関係を知ったとき、態度の変わる人間をそれだけ見てきたということだろう。
(悲しいかな、簡単に除隊も認められない身の上じゃな)
スルーするしかない。
「いろいろ聞いたし不公平だから教えとく」
「なに?」
「オレが左遷させられた理由はな、民間人殺しだ。踏まえといてくれ」
ロゾーは軍人としてはあり得ない理由を教えておいた。
◇ ◇ ◇
「よろしく頼む」
「承りました、ロシュ・クランブリッド様」
管理局情報部のドゥーリア・クレメンスは通信を切ったあとにブースに突っ伏した。後輩たちが目を丸くしているが気にしていられない。
(あの犬、なんてことしてくれるの)
ロゾー・ハレハンタに関する案件として彼女にまわってきたのだが、内容が内容だけに応じざるを得ない。
(ゼムナ案件に関わるだけじゃなく、ゴート宙区のVIPまで関わってきたらもう手の打ちようがないじゃない)
ロシュからの要請は、ロゾーをルーストから遠ざけるような手配をしないことだった。その方向で動いていただけに、待ったを掛けられると他に策がない。
(要請をはねつけていいような相手でもない。今後の活動さえ制約されかねないわ。この事態、どこへ転がっていくのか予想もできなくなってしまったじゃない)
ドゥーリアは判断を上に委ねるしかないと決心した。
次回『ロゾーの実力(1)』 「ひどい。まるで私が変みたいじゃない」




