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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
期待されて困る二人

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魔王の裔(2)

(成し遂げた男が隠棲するために作った場所か、宿り木(ルースト)は)

 ロゾーは自嘲する。

(なにもできないまま終わって流れ着いたオレには不似合いな気もするが、ロシュは別の意味に捉えてるのかもな)


 話を聞くまではミレニティを早々に放りだしたひどい後見人かと思っていたがそうではないようだ。祖父の人生を知った彼女が、まるで墓標のようなこの店を守りたいと考えたのがわかる。ロシュの庇護下の生活に引け目を感じてもいたのだろう。


「パートナーであるニーチェさんとの間に息子がいるのまでは知られていたんだよ。しかし、マイナーな開拓惑星でやっと見つけたときにはレニーが一人しかおらず親族は皆他界していた」

 ロシュは無念を示して唇を噛む。

「まだ八歳だった彼女はジェイル氏に恩を感じる旧区画の住民たちに守られるように育まれていた。僕はここの人たちに身分を明かして、きちんと育てる旨を伝えて引き取ったのさ」


 それからの生活は一変したとミレニティが語る。ロシュは自分の子どもたちと平等に彼女を扱い、まるで家族のように接してくれた。しっかりとした教育を受け、普通から見れば豪華な暮らしをしたという。

 しかし、ミレニティはルーストに未練があった。祖父ジェイルが心血注いで拓いたこの惑星(ほし)で生きていきたいと思ったのだそうだ。それにずっとガルドワにいれば、彼女のパイロットの才を見込んだ誰かに持ちあげられ、後継争いが起きかねないと危惧した。


「せめて二十歳くらいまではと言うおじさまを説き伏せて帰ってきたの」

 活き活きとした瞳で言う。

「パトリシアともまた一緒が良かったし、旧区画の人たちに恩返しもしたかったし、私にもなにかできることがあるんじゃないかと思って。快く受け入れてもらって、今はレンタルとジャッジで暮らせてるから結果いいんじゃない?」


 ミレニティはロシュにどうだとばかりに胸を張る。今は成人したとはいえ、娘一人をなかなかに野蛮な開拓惑星に送るのは不安があっただろう。しかし、彼女は不安を払拭してベッフェルベリで生きている。

 見つめ合う二人には確かに家族に似た絆があると見て取れた。彼女は独り立ちした姿を親代わりの紳士に見せびらかしたくて仕方ないのだ。


(血の繋がりがなくとも、これが普通の家族なんだろうな)

 胸のトゲが痛みを訴えてくる。


「ちょっとオレ、腹減ったから隣でメシ食ってくる。パティになんか持ってくるよう言っとく」


 空気を察したロゾーはその場を退散した。


   ◇      ◇      ◇


「彼はどうかね?」

 ミレニティは覚悟していた質問を受けた。

「まるで子供扱い。大人たちが心配してるようなアクションは全然ないから。自信失うくらい」

「ロゾー君が異種だからではないかな? 人類種(サピエンテクス)に恋愛的だったり性的感情を抱くことがないとか」

「わかんない。でも、それにしては女性の扱いに長けてるっていうか、気遣いの仕方がきちんとした男性のそれっぽくて」

 ガルドワにいた頃に受けた配慮に似たものを感じている。

「彼の経歴に関して、星間管理局はずいぶんとガードが固くてね。明かしてくれない」

「そんなにしっかり調べたの、ロシュおじさま?」

「調べるさ。君が心配だからな」


 ただし、名前を出しただけですぐに反応があったところに奇妙な感じを覚えたそうだ。彼がもし、普通の問題で(G)(F)から排除されただけならばそんな反応はないと感じる。

 無数といってもいい大勢の中からロゾーたった一人のデータを拾いだすにはそれなりの時間を要するはず。除隊させず、転属という建前で閑職に飛ばされているところに違和感があるそうだ。


「なにかスキャンダル的な匂いがするんだよね」

「ロゾーはやらかしただけだって言ってた。終わってるとも言ってるけど」

「それほどの諦念を抱くものかね? ほとんど知られていない辺境の惑星(ほし)から志を抱いて星間銀河圏の中心ともいえる場所に身を投じた獣人種(ゾアントピテクス)が二十八歳という若さで人生を悲観するとは」


 初めて会ったときも死んだ目をしていたわけではない。話してみて、まるで群れからはぐれてしまった大型犬がまどろむ場所を探して彷徨っているかのような印象を抱いた。ミレニティも自分の今を思い、感傷的になったので気を許している。


「ここにはレニーのシンパも多い。万が一にも君を傷つけるなんて考えられない空気がある。それでいて居着くのだから、つまらない欲望での行動ではないと分析はできる」

「そういうんじゃないのは確か。おじさまのことを知っても取り入ろうなんて気配も感じなかったでしょ?」

「これほど感触が悪いなんて初めてかもしれないね」


 ガルドワ総裁という肩書を知れば、誰もがなんらかの思惑を抱くものだ。ところがロゾーは、彼がミレニティの後見人であることのほうに重きを置いていたように感じられた。彼女の今の境遇を不満に感じて、こうなった経緯を知りたがっていただけのようだ。


「お人好しじゃなくてお節介焼き?」

「目標を見失って、誰かに頼られているのが心地よく感じるようになっていそうに思えるな」

「芯がなくなっているみたい。私、良くないって思うの」


 ミレニティはロゾーの空虚な感じを不満に思っていた。

次回『魔王の裔(3)』 「外の人間だから色眼鏡なく話せる内容か」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 タイトルを回収⋯⋯なんですかね?>迷い犬
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