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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
期待されて困る二人

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魔王の裔(1)

 ダルキン議長にお引き取り願ったロシュ・クランブリッドはミレニティの許可を得てロゾーを住居スペースに招く。表に出したくない重要な話らしい。


(こんな重要人物が来ることがあるからルースト(ここ)のインテリジェンスセキュリティはとんでもなく強化されてたのか)

 彼は改めて納得した。


「ロゾー君はレニーについてどのくらい知っているんだね?」

 氏は尋ねてくる。

「本人に聞いた範囲のことだけですよ。十年あまり前に唯一の親族だった祖父を亡くして天涯孤独の身になったこと。その後は後見人、あなたのことですね。引き取られていたけど、三年前にベッフェルベリの家に戻ってきたって話まで」

「概要しか知らないわけか。それでよく彼女に思い入れたものだ」

「お人好しとはちょっと違うかな、ロゾーは。なんか、行き場所に困ってたみたいだったもん。ただ憐れに思われただけじゃなかったんで受け入れやすかったの」

 娘は弁解じみた説明をする。

「私のこと、なんにも知らないからこそ変な近づき方と思わなかったし」

「僕との関係とか、レニーの価値を知らないで来たなら信用できるか」

「この娘の価値? 特に旧区画の信頼は厚いしアームドスキンもかなり乗れるみたいだが、それ以上のなにかある口振りですね」


 当然あるだろうとは思う。ロシュが後見しているが、彼の親族ではない。それなら星間管理局の情報部も掴んでいて、相応の注意を払っているはず。ノーマークではないものの、関係性は掴めていないということ。


(もし、親族だったら接触禁止リストに挙げられてるはずだ)

 それくらいゴート宙区をセンシティブに扱っている。

(こりゃ、ロシュ氏と接触したことでオレへのマークも強まりそうだな。まあ、言い訳の必要もない。全部が本当に偶然でしかないんだからよ)


「大元はレニーの祖父ジェイル・ユング氏に起因する」

 ロシュは淡々と語る。

「ジェイル氏はごく一部の我々の内輪ではあまりに有名な人物だからだ。以前は『鋼の魔王』の異名を持っていた」

「は? 魔王?」

「そうなんだ。ゴート人類圏が星間銀河に加わる過程にも大きく関与している。反対派の起こした争乱をわずか一週間で収束させた英雄たち。『鍵の三勇士』の一人『叡智の鍵』とも呼ばれている英雄さ」


 ゴート宙区が星間銀河圏に加盟したのは星間宇宙暦1425年のこと。今から四十五年も前の話である。そんな昔に活躍した偉人だとロシュは言う。


(妙に話が大きくなってきた。これは聞いても大丈夫なやつか?)

 迷いが生じる。


「しかし、英雄なのに魔王とはずいぶんな」

 迷いより興味が勝ってしまう。

「事の始まりはゼムナ本星での動乱からだ。我らの歴史に『三惑星連盟大戦』というのがあってね、その大戦を終結に導いた英雄というのもいたのだ。彼の末裔ライナック家は長きときの間に腐敗し、惑星ゼムナを独裁の下に置き圧政を敷いていた」

「ありがちと言うにはドラマチックって感じですか」

「今でこそ歴史として語れるが、当時はひどい有様だったと聞くよ。そこで立ちあがったのがジェイル氏だった」


 独裁を良しとしなかったミレニティの祖父は、圧政に苦しむ人々が結成した『エイグニル』というレジスタンス組織を率いて戦ったという。残酷とも例えられる様々な作戦を用い、独裁を打ち破るべく、どんな風評にも耐える鋼の精神力をもって勝利を得たらしい。ゆえにジェイルは『鋼の魔王』の異名を持つ。


「僕の祖父が総裁をやっていた当時のガルドワは関与していなかったけど、ジェイル氏はブラッドバウの『剣王』リューン・バレルと共闘して、最終的にはライナックの一族を葬ったんだ」

 まるでムービーのあらすじを聞かされているような話だった。

「アームドスキンの最先端技術を保有していた強大なライナックを打倒するには魔王の権謀術数は不可欠だったといわれてる。だからこそジェイル氏は魔王と怖れられながらも英雄と称えられる偉人に数えられるようになった」

「有名人どころではないじゃないですか」

「ところが、彼はゼムナ動乱終結後に行方をくらました。誰もが不思議に思っていたが、戦争に飽いだのだろうというのが一般的な意見だ」

 雑多な意見が飛び交ったらしい。

「だが、一部の人間は知っている。氏は冷徹に振る舞うこともできたクレバーな方だったが、同時に自らの行為を悔いるくらいの常識人でもあった」

「苦しかったんですかね」

「ああ、彼は称えられるのを厭うたんだ。多くの命を奪った自分がそんな場に身を置くことが許されるべきと思わなかったんだと思う。どこに消えたのか、消息は杳として知れなかった」


 他の鍵の勇士たちを含め、多くの人々がジェイル氏の行方を追ったという。しかし、誰も見つけることができなかったらしい。


「くり返すが、わずかに星間銀河圏加盟に至る争乱の折りに三人の集結が叶った。ゴート人類圏が星間銀河への鍵を開いたとされる戦闘を勝利したから今がある。ゆえに我が父『勇気の鍵』ユーゴ・クランブリッドと『力の鍵』リューン・バレル、そして『叡智の鍵』ジェイル・ユングは『鍵の三勇士』って呼ばれるのさ」


 ロゾーはまるで叙事詩を聞かされた気分になっていた。

次回『魔王の裔(2)』 「彼はどうかね?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 みんな伝説級の活躍ですしね?
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