白騎士来たる(3)
小太りの初老の男がロシュ・クランブリッドに近づく。普段は走ることもしないのか足元も危うげに小走りで距離を詰めようとすると、途端に車から降りてきたシークレットサービスが紳士の前に壁を作った。それに驚いて尻餅をついている。
「急な行動は謹んでいただきたく存じます」
「い……や、そんなつもりは」
男は青褪めている。
助け起こしているところを見るとその初老の人物は彼らも知っている顔のようだった。それでも、自分たちの護衛対象に必要以上の接近は許さないという構えである。
「ですから、何度も申しあげているように頭越しの外交は遠慮してくださればこんなことには」
青くなったり赤くなったりと忙しい人物だ。
「僕にそんなつもりはないんだがね」
「ですが、自治政府が認められてからもう十五年近くになるのですよ。その議会議長である私をないがしろにして、別の者とベッフェルベリの今後を協議なさるのはよしてくださいと申しあげています」
「協議なんてしていないさ。ただ、後見している娘が元気にやっているか様子を見に来るくらい許してくれてもいいじゃないか」
ロゾーは真っ当な意見だと思った。
「ならば、まずこの私に来訪のお話をくださってもよろしいのでは?」
「政治向きの話をする予定がないのだよ。議長が言っているように、すでにこの惑星は立派な国家であり、星間管理局にも加盟を成している。僕の意見が入る余地はないだろう?」
「そういうわけにもまいりませんでしょう? あなた様はガルドワの総裁であらせられるのです」
少しずつ話が見えてきた。初老の人物が誰なのかも。要は、この議長なる人物はひがんでいるのである。
「この人はベッフェルベリ自治政府議会の議長でダルキン・ファンガスタさん」
親指で示してみせるとミレニティが小声で教えてくれた。
「国のトップ?」
「そう。どうも私が国を乗っ取りに帰ってきたみたいに思ってて」
「はぁ?」
彼女の祖父ジェイル・ユングが旧区画の顔役だったのは聞いている。自治政府発足の折りも彼を議長にと推す声は少なからずあったそうである。しかし、ジェイルが固辞したため他の議員が議長に選出された。そんな経緯があるので、彼の後継であるミレニティを危険視しているらしい。
「ただの権威主義者か」
「でも、運営能力は高い方なのよ、たぶん。そう聞いてる」
「やってることは俗物の極みだけどな」
彼自身は議会発足時からの議員であり、議長としては二代目という話だ。彼が国民と愛国のために議長の座に就いているかどうかはロゾーにもわからないが。
「ミレニティ嬢は確かに信頼を集めていますが、まだお若く経験も浅い。いずれはとお考えになられていっらしゃるにしても、しっかりと勉強なさってからのほうがよろしいかと。なんでしたら本国に連れ帰って指導なさっては如何ですか?」
「レニーはそれを望んでいないのだがね」
「いやいや、私とて彼女の可能性は認めているんですよ。だからこそ、今のうちに勉学に励むべきだとお勧めいたします」
本人の意志確認など二の次。権威主義者であるからこそ、誰もが上昇志向を持っていると誤解している。ロゾーにはミレニティが次になにを目指すべきか模索しているように見えている。
「遠ざけようと必死だぞ?」
「ほんと、困っちゃう。政治なんて興味ないのに」
「言っても無駄だろうな。このタイプは、本人がどう言おうがいつか周りに担ぎあげられるはずだって信じてる」
自分が親族を後継にと目論んでいるから血統を危険だと感じる。そして、事実としてミレニティが旧区画や国民の大部分を占める鉱夫の信頼と人気を勝ち得ているのが怖ろしいのだ。
「こんなちっぽけな辺境惑星国家の権力抗争に巻き込まれるくらいなら、氏に頼んでガルドワの後継を狙ったらどうだ? そのほうが大きなことができる」
「冗談でもやめて。ロシュおじさまには私より優秀な息子がいるの。大切な姉弟みたいな人なんだから押しのけようなんてしたくない」
本気で憤慨しているようだ。
「息子っても、まだ小さいんだろう? 優秀かどうかわからないじゃないか」
「私と同い年よ。ロゾー、あなた、おじさまが幾つだと思ってるの? 四十三歳なのよ」
「なに? てっきり三十代前半くらいかって思った」
それほどに若々しく見える。宙区を代表するような国家のトップとしては若いといえるだろうが見た目は輪を掛けている。彼が決して人類種の年齢が読めない所為ではないと思いたい。
「わかったよ。こちらでの用が済んだら政庁に寄らせてもらう。それで勘弁してくれないかな? 僕の時間も有限なんだよ」
「もちろん、総裁がお忙しい身であるのは承知しておりますとも。だからこそ今後も円滑なお取引ができますようお話し申しあげたいと考えております」
「ただし、今以上に高く買いあげるのは少々難しいと思うのだけれどね。ベッフェルベリの資源がお世辞にも希少とは言いがたい物ばかりなのは理解しているものと思ってる」
しっかりと釘を刺すあたりはビジネス面でもロシュは優秀なのだろう。しかし、軍需産業メインの企業を率いるに適した人物なのかはまだ疑問である。
(σ・ルーンも着けてないんじゃな)
ミレニティの成長には物足りないだろうとロゾーは思った。
次回『魔王の裔(1)』 「は? 魔王?」




