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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
期待されて困る二人

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白騎士来たる(2)

「僕はロシュ・クランブリッド。彼女、ミレニティ・ユングの後見人だ。よろしく頼むよ」

「ああ、あんたが! ……でしたか」

 ロゾーは勢い返事をしてしまって付け加える。


 ロシュは壮年の紳士である。見たところ三十代くらいであろうか。彼女の父親を名乗るにはいささか若い。体格もよく、192cmの彼と変わらないくらいの上背をしていた。

 碧眼に、緩やかに波打つダークブロンドをミディアムヘアにしている。穏やかな物腰に柔和な面立ちなのでそうは感じないが、筋肉質な体格が普通は威圧感を覚えさせるであろう。


「ロシュおじさまはガルドワの方なの。戦闘艦が来てるのはそっちでも知ってるでしょう?」

「ホワイトナイトで来るような偉いさんか。失礼は許してもらえますかね、無骨者なんで」

「気にしないでくれたまえ。慣れているよ。僕だって、そんなに血統が良いわけじゃない」

「でも、おじさま、ガルドワの現総裁なのに」

「なんだって!?」


 そこまで聞いて固まった。総裁、つまり企業国家ガルドワのトップに君臨する人物だという意味のはず。ゴート宙区で普通に暮らしていれば死ぬまで縁のないような上流に位置する。


「かしこまらなくていい」

 ロシュは苦い顔をする。

「レニーには話したろう? 僕の父親は、元はガルドワとはまったく関わりのない一般人だった」

「先代はラティーナおばさまだったけど、ユーゴおじさまは協……、ホワイトナイトだったんだもの。無関係じゃなくない?」

「父上は亡くなるまで、いちパイロットを自称していたよ」

 わからない話が続く。

「ホワイトナイトは艦名じゃないのか?」

「あれはロシュおじさまのお父様への敬意で付けられた名前。ガルドワ史上最強のパイロットの功績に応じて冠されたの」

「駄目だ。話が全然わからない」


 総裁ロシュが星間公用語(パブリック)を操ってくれているから話そのものは理解できる。しかし、ゴート宙区の以前のこととなるとロゾーは全く知らないことだらけだった。


「あとでゆっくり話そうじゃないか。君がレニーに関わるつもりなら知っておかなければならないことがある」

 腰が引けそうなことを告げられる。

「彼女があ……なたの関係者ならオレなんかが関わるべきじゃないかもしれませんがね」

「いや、僕のほうからお願いしたいくらいなんだよ。レニーは意外と強情で、どうしてもベッフェルベリに居たいと言うんでね。守りたくともなかなか手が届かない」

「だからって」

 格が違う。

「君のことは少し調べさせてもらった。以前は(G)(F)に所属していたね?」

「まあ、一応は」

「精通しているわけではないが、あそこはかなり狭き門のはずだ。よほど優秀なパイロットでなければ入れない」

「そうだったの?」


 (G)(F)は星間管理局の正規軍、唯一軍務部に属する機関である。並列部署でありながら、警務部に属する星間(G)平和維(P)持軍(F)とは一線を画する。星間銀河中から集まった優秀なパイロットが目指す頂点に位置する軍である。


「調べたんなら、今オレが転属になってGPFにいるのも知っているんでしょう? 使いもんにならないからクビになったんですよ」

 シニカルな笑いで応じる。

「転属がなぜだかまでは判明しなかった。しかし、入隊基準を満たしていたのは事実だろう? それだけの実力はある」

「昔は意気込んでましたよ。でも、今じゃ出涸(でが)らしです」

「その若さでかい?」

 興味深げに見られる。

「あなたの立場ならご存知でしょうがパイロット……、いや、人間ってのはモチベーションを失ったら終わりなんですよ。夢とか希望とか青臭いと思いながらも心のどこかに持ってるもんです。でも、その全部を投げ捨てたとき、終わるんです」

「ふむ、理解できなくもないね。ただ、僕には君の瞳の中に宿る光が消えてないように見える。少なくともレニーを助けたいという意思の発露は自暴自棄な人間のそれじゃない」

「こんな終わった奴でも身に付けたもんは残ってるんですよ。犯罪者に堕ちる度胸もないなら、せめて誰かの役に立つ道具として使ってもらえればいいくらいの感じです」


 偽らざる本音だった。もう自分のために生きる気力はない。少し前まではキュロラント・バニャックの踏み台になれればいいと思っていた。しかし、危なっかしいミレニティに出会った以上、それも運命として受け入れるつもりになっていただけなのである。


「なるほど」

 ロシュは窺うように見てくる。

「どうやら居場所を見失ったようだね、君は。ならば、この『ルースト』に吸い寄せられたとしてもおかしくはない。ここはジェイル氏がそういう場所として作ったものだ」

「意味がわかりませんが」

「その名のとおり、ここは宿り木(ルースト)なのだよ。一つの終焉を迎えた者が憩う場所といえばわかるかね?」

 思いもしなかった話を聞かされた。

「それはレニーの祖父殿にまつわる話……」

「だから、いつもお願いしているではありませんか!」


 一台の車がルーストの表に乱暴に急停車したかと思うと新たな人物が転がり出てくる。立派なリムジンから現れた初老と思われる男はロシュに食って掛かっていく。


 目まぐるしく現れる人間関係にロゾーはもうどうにでもなれという気分になった。

次回『白騎士来たる(3)』 「やってることは俗物の極みだけどな」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 コレ、人物相関図、凄い絡まり方してそうですね?
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