白騎士来たる(1)
400m級の大型戦闘艦がやってくれば接近されている側は緊張を強いられるもの。戦闘艦自体の火力が高いわけではない。この時代の軍艦というのは総じて搭載能力を問われるからだ。
その大型艦に関してはアームドスキンの搭載数が五十機にもなる。通常の戦闘艦の実に1.5倍以上の戦闘能力を持つことになるからだ。ただし、ベッフェルベリ軌道上の星間平和維持軍艦隊は動揺していない。
「ガルドワの『ホワイトナイト』?」
艦名が呼ばれる。
「ええ、そのホワイトナイトがタッチダウンして通常航行で接近中。だから誰も騒がない。住民なんてGPF艦隊がいるより安心できるんじゃないかしら」
「ゴート宙区の保安機構の片翼がお目見えか」
「そんなに珍しいことでもないのよ。あなたが来てからは初めてになるけど、わたしが着任してからはもう三度目ね」
キュロラント戦隊長着任後となると三年間で三度目ということ。
ロゾーは艦橋に上がってきていた。たまに顔を見せる場所ではある。パイロットのたむろす娯楽室やカフェテリア、トレーニングルームよりよほど居やすい。通信士たちも総じて好意的だ。
「企業国家ガルドワにしてみれば開拓投資をした惑星ベッフェルベリ。定期的な視察って話もわからなくもないんだけど、問題は来るのがホワイトナイトってことかしら」
「そういう艦じゃないのか?」
「とんでもない。最強の戦闘艦よ。ガルドワ軍総旗艦になってるわ。それが明日には到着」
超光速航法をした艦船は惑星から距離4万km以上離れた宇宙に時空間復帰する。復帰時に強力な重力震が発生してしまうからだ。
もし、3万km以内にタッチダウンすれば地上では災害が起こる。地震の誘発やそれに伴う津波、火山の爆発などが挙げられる。ゆえに禁じられ、4万km以上離れた位置にタッチダウンし通常航行での降下を義務付けられる。領宙に設定されているその距離を移動するのに半日掛かる。
「明日は非番よね、ロゾー。また降りるみたいだけど、間違ってもガルドワの偉い人とトラブルはよしてちょうだい」
「すれ違いもするもんか。連中が立ち寄るようなベッフェルベリの政庁なんぞに用はない」
「そうよね。いつも都市の外れのほうに行ってるみたいだもの」
降下も回を重ねた最近は車をレンタルするようになった。運転席がオープンになったオフロードカーである。旧区画に入ってからは自動運転のスピードを落とさせて街の人々に挨拶しつつ通り過ぎる。オートキャブだとそれが難しい。
(レニーの買い出しの足に使うのにもちょうどいいしな)
彼女を乗せて、ときにはパトリシアも乗せてちょっと都会の街並みまで走る。そこでショッピングに付き合うケースも少なくない。二人とも年頃の娘であり、たまには試着ができるような店に足を運びたい時分である。
「呼ばれてたりしないのか?」
「まさか。仮に用があっても星間管理局ビルまででしょう」
「だろうな。むしろ管理局の上の人間が呼びつけられるような相手か」
乗っているのは経営トップクラスか軍幹部であろう。
ロゾーはこのとき完全に高をくくっていた。
◇ ◇ ◇
ASレンタルショップ『ルースト』に着いて庫内までオフロードカーを乗り入れて停車させるとロゾーはそこで止まる。ミレニティがブラウスにベスト、下は膝丈のスカートという珍しい出で立ちをしていたからだ。
「オレをからかうにしては手が込んでないか?」
「違うの。お客様があるから」
「邪魔だったら早めに言ってくれればよかったのによ」
「先方もあなたに会いたいって言ってたから」
だから予定どおり来てもらったのだという。しかし、旧区画の住人を除いて共通の知り合いなど記憶にない。彼女の旧知の人物かと思った。
「学校の友だちとか?」
「ほとんどここに住んでる」
「そのはずだよな」
ミレニティやパトリシアが通っていた学校は今ルーソンが行っているのと同じ学校だ。学区が旧区画で生徒は皆住民である。中には出ていった者もいなくはないらしいが、ほとんどがまだ住んでいるという。
「もう着くって」
シャッターを開けっ放しにしていたのそのためのようだ。
「寄せとく」
「うん、お願い」
彼がGリフトタイプのオフロードを隅に移動させると、さらに輪を掛けてごついGリフトカーが入ってきた。簡易型反重力端子を搭載した車体とはいえ、そのボリュームはほとんど戦車に近い。
バラバラと人が降りてくると、とてつもなく重そうな後部ドアが上開きウイング型に自動で口を開ける。見るからにシークレットサービス的な者たちが列を成して恭しく腰を折る敬礼を送る中、その人物が降車してきた。
「ごくろう。確認して納得したなら車内で休みたまえ」
「は!」
列をなす前にシークレットサービスは総員で危険がないか庫内全体に目を走らせていた。向けられた鋭い視線に思わずホールドアップで応じたほどだ。事実、武装などしていない。
「いらっしゃい、おじさま」
ミレニティが上流階級を思わせる礼を送っている。
「元気そうでなによりだね、レニー。経営のほうは問題はないかい?」
「順調です。そんなに儲かってるわけではないけど苦しいほどじゃありません」
「みたいだね。収支レポートには目を通してるよ」
ビジネススーツに袖を通した紳士と会話している。
「やあ、君がロゾー君かい?」
「どうも。ロゾー・ハレハンタっていいます」
「レニーに話は聞いてる。会っておきたかったんだ」
明らかに格の高そうな人物にロゾーは敬語を外せなかった。
次回『白騎士来たる(2)』 「かしこまらなくていい」




