傍観する犬(5)
(なんてタフなアームドスキンなんだ)
ロゾーは呆れていた。
ずっと殴り合っているのに激しく損傷している様子はない。それも、比較的衝撃に弱いはずの頭部への攻撃も多いのにである。もし彼のコムファンが同じことをしたら今ごろは頭の形がなくなっているだろう。
「セレクション用に頑丈に作ってある機体ってことか?」
「そうでもないけど」
即座に否定されてしまった。
「戦闘用アームドスキンは格闘戦も前提だから強度には留意するかな。採掘用機体なんかはそんなでもなく、コストにも配慮して量産されたりする。どうしても高価になるからレンタルショップも成り立つの」
「こんな使い方するんじゃな」
「でも、頭はダメージチェックの結果でセンサー交換したりしなきゃいけなかったりする」
殴り合いに体当たり、なんでもありの接近戦だ。一度の戦闘でオーバーホールと言われても変だとは思わない。
「最近はまだマシなほう」
半笑いでミレニティが教えてくれる。
「ここ一年は必要分くらいのイオンスリーブシリンダが入ってくるようになったから。衝撃緩衝力があってダメージ軽減されてる感じ」
「パワーが上がってもその分、機体ダメージも相殺されてるか。だからってパイロットが受ける衝撃は変わってないはず」
「うん、勝負が早くなった。セレクション仕様のアームドスキンはパイロットが脳震盪起こしたらシステムが自動離脱するよう設定されてるの」
見ていると、激しく殴られた機体が倒れ伏す場面がある。すると、立ちあがったアームドスキンはジャンプして離脱している。それでリタイヤという判定らしい。
「一応限度をわきまえるようになってるか」
「また一機リタイヤだ」
双方とも数が減ってきたのをルーソンが指摘する。
「でもね、興奮してくるとそれじゃどうにもなんないケースが出てきちゃうのよね」
「嫌な予感がするな」
「その予想は当たってると思う」
一機がタックルを仕掛けて相手を転倒させる。それだけならまだいいのだが、ついには馬乗りになって殴りつけはじめた。そうなると、いくら設定があろうが離脱はできない。
「リタイヤ信号出てるのに」
ミレニティはすぐにパイロットシートを格納させる。
「行ってくる」
「あーなると止めなきゃいけないんだって」
「まあ、そうだわな」
重力波フィンを展開したハイト・リュンデが現場に降りていく。接近すると警告を発した。
「こら、リタイヤ検知してるでしょ? やめなさい」
「うるせえ! ひっこんでろ!」
「なんて?」
オープン回線の会話がもれ聞こえてくる。
従わなかったアームドスキンに背中から蹴りを入れて前のめりに倒す。リタイヤ機が離脱したのを確認すると相手が立ちあがるのを待った。過剰に興奮している鉱夫は掴み掛かっていく。
「このやろ!」
「聞き分けないんだから」
ハイト・リュンデは両手を掻いくぐって懐に入る。右腕を取りつつ旋回して背中に担いだ。そのまま機体を立てると相手は見事に浮く。クルンとまわって背中から叩きつけられていた。
「うっひゃあ。レニー姉ちゃん、格好いい」
「あれは痛いな」
彼女によってリタイヤ判定を食らう。どうせルール違反なのだから失格なのだ。余計に痛い思いをしただけである。
「見事なものだ。あれなら抵抗する気にもなるまい」
「ベッフェルベリに、レニー姉ちゃんに敵うアームドスキン乗りなんていないって」
「思い知ったようだ」
ゴート語に翻訳されているので硬い表現になっているが少年も興奮して気にしていない。崖のほうに乗りだしそうになるのを引っ張って止めてやらねばならなかった。
(気性の荒さも風土みたいなもんか。なるほど、レニーみたいなジャッジが立ち会わないと収拾がつかなくなるな)
腕組みしたハイト・リュンデが横に立ったままセレクションは続行され数分後には決着がついた。一気に熱くはなるが、明確な勝敗が決すれば遺恨は残らないようである。勝ち負けなく肩を叩き合っていた。
(オレから見たら馬鹿らしい乱闘騒ぎも、暗黙のルールみたいなもので縛られてまわってるんだな。レニーもそれに組み込まれてたわけか)
ロゾーはこの惑星の奇妙な慣習に触れたのだった。
◇ ◇ ◇
『面白い男がやってきたもんじゃのう』
ドゥカルは奥行きを感じさせない白い空間でつぶやいた。
『あの子は気に入ってるようじゃがどうしたもんかの』
『身を引かぬのか?』
『珍客があったもんじゃ』
交流が絶えて久しい相手であった。彼と同じくゼムナの遺志『リヴェル』が意思を伝えてきたのである。協定者の死後、表舞台には顔を見せないつもりなのだと思っていた。
『ぬしは早々にガルドワを離れたもんよの?』
『ユーゴを継ぐ者はいても時代の子を継ぐ者はおらぬ。あの血筋からは現れぬだろうし、もうそんな時代でもなくなった』
『そうかの? 儂には妙なきな臭さが漂っておるように思えるが』
『我には関わる意思はない。そなたこそジェイルを喪っても残っているのは哀れみか?』
もう彼の子も世を去った。それでも目を離さないでいるのは哀れみと思われても仕方がない。次代は新しき子ではないが才能は受け継いでいる。
『見捨てるのも無情よのう』
『情で時代は動かぬ。残るは我欲と知れ』
『思い出だけで過ごすには時間が余らんかの? それなら眺めるもよかろう』
『もの好きであろうか』
成し遂げたドゥカルには余生を楽しむ心持ちがあった。
次はエピソード『期待されて困る二人』 8月更新予定です。




