傍観する犬(2)
「そういうのって普通というか一般的に考えて早いもん勝ちじゃないのか」
所有者のいる鉱山の採掘ではない。領宙であろうが公宙であろうが明確な所有権のない宇宙を飛ぶ小惑星の話である。第一発見者あるいは業者に権利が発生するのが一般的だろう。
「見失うような石ころでもない。軌道要素を確認してマーカー付けとけばもう一度見つけるのも簡単だ。そもそもバッティングするのがおかしい」
「資源開発初期の当時はそうしてたみたい。でも、有望な小惑星になると一個の利ザヤが大きくて。他社のマーカーを外して再申請するとかの違反行為が横行したんだって」
「わからんこともない」
ロゾーも額に手を当てて天を仰いだ。宇宙鉱夫たちも命知らずの荒くればかり。誰も見ていなければ無茶をするかもしれない。
「マーカー発信することそのものが他の事業者に見つけてくれと言わんばかりだってトラブルも頻発してね。いっそのことマーカー設置を廃止したほうがトラブルは減ったの」
「すると、第一発見者の主張が通らなくなるって?」
「そう。国の開発庁が許可を下ろすと実はバッティングしてるケースが出て、モラルハザードは解消されても別のトラブルが発生しちゃったわけ」
惑星圏近くとはいえ広い宇宙のこと。バッティングする可能性は低いとはいえゼロではない。モラルハザードの危険度より、低いバッティング頻度のほうをベッフェルベリ政府は選んだらしい。
「で、小惑星所有権を巡って争うことになるんだけど、事業者の提示する発見日時なんて当てにならないでしょ? 儲けが絡めば偽証もするし船の記録改竄だってする」
「判定できる人間なんていないな」
「客観的に判定できないなら当事者同士で所有選定、セレクションをしなさいってことになっちゃったんだって」
「それがあのアームドスキンでの喧嘩ってか?」
ひどく野蛮な方法である。しかし、客観的に明確な答えが出るのも認めざるを得ない。クジ引きだのジャンケンなどの単純な方法に頼ると遺恨が残りやすい。最悪裏取引など、もっとこじれる原因にもなる。
(荒くれ者らしく実力で勝負を付けろって政府が公認する結果になったんだな)
当事者が一番納得しやすい手段だったのだろう。
「まさか、助っ人に駆りだされるとかじゃないだろうな、レニー?」
自機に乗る準備をしている娘に問う。
「違うの。私はジャッジ。勝敗を見届けると同時に、必要以上に相手のアームドスキンを破壊して負傷させたり最悪死亡事故とか起こさせないよう監視するポジション」
「君みたいな娘を政府が起用する?」
「それもハズレ。ジャッジは当該事業者同士が決めていいことになってて依頼が来ちゃうから請けてるの。元々はお祖父ちゃんが任されてたってのもあるかな」
ミレニティの祖父はこの旧区画の顔役的な存在だったという。ゆえに、セレクションという制度が始まったときも当たり前のように声掛けされてジャッジを担当していたらしい。
「レンタル機もセレクション用のものなんだよな?」
ロゾーも予想していた。
「採掘用のアームドスキンは戦闘用のものとは違うもん。セレクションのときは必要になるでしょ? 小さい事業者ほどセレクションのためだけにアームドスキンを維持なんてできないし」
「レンタルの需要は当然か」
「貸しだすんだから気軽に壊されても困るし。自分でジャッジをして、セレクションバトルが過熱するようだったら止めに入るほうが気が楽」
彼女の実力なら理解できる。
「なるほど、レンタルショップが成立して、しかもレニーが自分のアームドスキンまで持ってるのも当然なんだな」
「うん、ハイト・リュンデはジャッジを担当するとき用の機体」
「なんともな」
(あの乱闘騒ぎにもそれなりの意味があって運用されてたのかよ)
奇妙な慣習としか思えない。
「まあ、役所としても住民のガス抜き的な施策として捉えてそう」
「確かに、事務屋に荒くれどもを御せというのは酷だよな」
「結果、セレクションを奨励してるの」
引っ掛かりがなくもないが、ミレニティが旧区画を含め、住民の大部分を占める鉱夫たちの敬意を集めてる理由も納得できる。ただし、彼女の実力のほどをまだ知らない。
(気になるな。軌道からの過去映像をチェックすればわかるだろうが)
ハイト・リュンデの動きを追えばいい。
「もー、レニー姉ちゃんも兄ちゃんも早口だから俺にはわかんないよ」
ルーソンが文句を言う。
「セレクションの説明をしてあげてただけ。ルッソがちゃんと星間公用語の勉強してないから悪いんでしょ?」
「そうだけどさあ」
「じゃあ、こうするか。ルッソの星間公用語が上達するか、オレのゴート語の習得か早いか勝負だ。勝ったらなにか言うこと聞いてやろう」
少年に提案する。
「ほんと? 絶対だよ」
「約束する。職業柄できないことも多いがな」
「無理言っちゃ駄目よ、ルッソ」
ルーソンの勉強が進めば将来の選択肢も増える。軽い気持ちでの約束だった。
「今日のところは付き合えない。オレはセレクションとやらの見学をしようと思ってる」
「えー、俺も見に行きたい」
「また言うの? んー……、今日は特別よ。ロゾーがいてくれるなら危なくないでしょうし」
「よし! 兄ちゃんのお陰でやっと見に行けるや」
皆で出掛けるためにサブシートの準備をする娘をロゾーは手伝った。
次回『傍観する犬(3)』 「ロゾーには逆に小さい?」




