傍観する犬(1)
ロゾーが再びASレンタルショップ『ルースト』を訪れると珍しいことになっていた。基台上が閑散としていたのである。ミレニティのアームドスキン『ハイト・リュンデ』以外は出払っている状態だ。
「そんなこともあるか」
感想をもらすと答えが返ってきた。
「当たり前でしょ。一応、経営成り立ってるんだもん」
「こりゃ失礼。珍しいのはこっちもなんだな」
「ふうん」
クレーンアームに吊られたライトスキンから降りてきた経営者がフィットスキンを着けていたのである。ロゾーは不躾な視線を向けることなく目を逸らした。
極めてタイトな構造となっているパイロットスーツ『フィットスキン』は耐衝撃防刃耐被爆と高性能で宇宙服も兼ねている。ただし、身体のラインが露骨に表れるがゆえに年頃の乙女が着用した姿を眺めるものではない。
「紳士なんだ。それとも、子どもになんて興味ない?」
「単にマナー違反だ」
ミレニティの窺うような眼差しを手で払う。
黄色と白で色分けされた彼女のフィットスキンは凹凸に富んでいるとはいえない。平均よりはスレンダーなほうだと感じる。それでも成熟間近と思われる美しいラインを誇っていた。
胸元には『LOOST』のロゴが施されている。じろじろと観察したりはしないが、着慣れたふうで立ち姿も様になっていた。本人が恥ずかしがらないものを遠慮するのも変なので適度に視線を送る。
「まさか搬出まで自分でやってたのか?」
「ううん、今日はハイト・リュンデに乗るから」
「君も? まさか、あの乱闘騒ぎに?」
思い当たる節といえばそれしかない。問いただそうとしたところで闖入者がある。駆け込んできたのは茶色のカールした髪の少年だった。
「いた、犬の兄ちゃん!」
「お、なんだ、少年?」
「来たの、ルッソ」
娘の知り合いのようだ。目を皿のようにして見あげてくる。その反応にも慣れたものなので膝を突いて肩を組んだ。
「名前は?」
「ルーソン。ルーソン・メーダ」
「その子ね、パティの弟なの。十二歳」
「ああ、なるほど」
面立ちに隣の娘と似ているところがある。姉弟と言われれば確かに納得できる。やや年は離れているようだが。
「犬の兄ちゃんはロゾーっていうんだよね?」
「ああ、ロゾー・ハレハンタだ。よろしくな」
「会えて良かった。姉ちゃんに兄ちゃんの話を聞かされてずっとうらやましくてたまらなかったんだよ」
好奇の視線を気にしても仕方がない。特に少年の好意を含んだものまで拒絶していたら彼は人間社会にいることそのものがストレスにしかならない。
「すげー牙。すげー口。俺の頭なんてすっぽり入っちまいそう」
「その気になれば。あいにくと人間を食う趣味はないけどな」
「そりゃそうだよね」
「まあ、故郷じゃ猿なんて狩って食う対象でしかないが」
告げると、目がさらに丸くなる。怯えるのではなく、ただ、人類種との違いを実感しているだけの様子。
「そーなんだ」
「ルッソ、悪いけど私忙しいの。良かったらロゾーをもてなしてあげてくれる?」
「今日セレクションなの、レニー姉ちゃん」
ルーソンは当たり前のように納得する。彼らにとっては日常に近い会話なのだろうとわかった。
「その話だ。セレクションってのはあの乱闘騒ぎのことなんだろ。レニーも関係しているのか?」
「兄ちゃんは知らないんだ」
「案外伝わってないものね。全然知識なし?」
「だだっ広いところで、アームドスキンまで使っての乱闘騒ぎってくらいか。どうやらここの文化だって認定されてて干渉は避けるように言われてる」
第三者目線だと文化と呼ぶには実に奇妙な習慣だった。
惑星ベッフェルベリの唯一の都市を除けば、大陸は沿岸部以外ほとんどが荒野に覆われている。比較的乾燥気味の惑星だった。
軌道上から眺めていると、その誰もいない荒野に集結したアームドスキンが急に戦いはじめるのである。転属になった当初は、あまりの暴挙に呆れたものだ。なにせ、戦うといっても武器を用いない格闘戦である。
「乱闘騒ぎって。意味はあるのよ」
「あれにどんな意味があるって?」
理解不能である。
「ベッフェルベリ唯一の産業っていったら金属資源でしょう?」
「それしかないって聞いてる」
「小惑星を確保、分解して採掘船に乗せて軌道プラントで精製するんだけど、その小惑星探索でバッティングすることがあるのよ」
惑星近傍を周回する小惑星を様々な金属資源として活用するわけだが、その全てが有用なわけではない。キャッチしてサンプル採取のうえ分析にまわして結果如何で採掘するかどうか決めるのである。
決定までタイムラグがある以上、一つの小惑星のサンプリングで競合してしまうことがあるそうなのだ。そのバッティングが起こってしまったとき、どちらの業者に所有権を認めるか、セレクションを行って決定するという。
「は?」
呆れてしまう。
「なんでそんなことをする。オレには理解不能なんだが」
「なんでって言われても、私が生まれる前からやってきた習慣なの。だから星間管理局も地域文化認定してくれてるんでしょう?」
「いや、馬鹿げてるとしか思えない」
もっといい方法が幾らでもありそうな気がするロゾーであった。
次回『傍観する犬(2)』 「それがあのアームドスキンでの喧嘩ってか?」




