危険な犬(1)
(強かった。本気でやっても勝てないかも)
ミレニティがスパーで再確認したロゾーの印象。
無論、彼が主張したように種族特性がある。特に獣人種は野生が強く身体能力も高いと聞く。人類種よりも戦闘に関しては間違いなく長けている。
(でも、反射神経とかに偏っていたら私の体術とは相性悪いはず。それなのに上まわってくるのはタイプが似てるから)
彼女のは数手先を考えながら組みあげていく格闘法。攻撃に反応しているだけなら気づかぬうちに術中にハマる。そうならないのは、この犬頭の兵士も読みで流れを作る力があるのだ。
「レニー、メッセがピコピコしてるけど放っといていいやつ?」
ブロアで身体を冷まして戻るとパトリシアが訊いてくる。
「なんて?」
「『フレニオンネットワークからの指定外アクセスをブロック』だって」
「だったら大丈夫」
「なんだと?」
反応したのはロゾーだった。
「なんでアラーム鳴らないんだよ」
「見えてなかった? あ、読めないんだった」
「ゴート語だもんね」
幼馴染も笑っている。
投影パネルが立ちあがっていたのは彼も気づいていた様子。ただし、表示がゴート語になっているので読めず、警報も発していないので大した内容ではないと思っていたらしい。
「不正アクセスだろうが」
目を丸くしている。
「そんな珍しいことでもないから。アームドスキンを扱ってるもの。覗きに来る輩はいるし」
「うん。ブロックをくり返してるわね」
「執拗だな」
不穏な事態と考えているみたいだ。
「最後は『フレニオンネットワークの遮断を検知』って」
「それは珍しいかも。『突破。ネットワークへの復帰完了』ってなってるから問題ない」
「おいおい……」
犬頭は考え込んでいる。ミレニティやパトリシアの顔色を窺い見る様子を見せるも、平然としているので眉根を寄せた。
「ここのインテリジェンスセキュリティはどうなってる?」
少し身体が膨らんでいるのは赤茶の毛皮が立っているからか。
「どうって?」
「フレニオンネットワークを遮断しようとするのなんぞ星間管理局しかない。なにか探りを入れられてるぞ」
「じゃあ、いつものも管理局だったのかな」
星間銀河圏でフレニオン通信を管理しているのが管理局なのはミレニティも知っている。この時空外媒質を利用した超光速通信システムを管轄しているから星間管理局はとてつもなく広い銀河を統制できるのだ。
ただし、ベッフェルベリ含むゴート人類圏も以前からフレニオン通信を使っていた。独自のラインを持っているので、覗かれることがあろうと切り離すのまでは難しいだろう。
「仕掛けてきたってことは……、オレの位置情報を把握できてない?」
視線を彷徨わせる。
「あ、そうかも。いろいろあるからカットオフしてる。アドレス登録ある人には在宅がわかるようにしてあるけど」
「居所がわからないわけじゃないはず。ここに入ったところまでは見えてるはずだからな」
「ロゾーがなにしてるか覗こうとしたってこと?」
真剣な顔で頷いてくる。
「ああ、ロストしたから調べに入ろうとしたんだろうぜ」
「あんたってば、そんなに素行悪いの。犯罪を疑われるとか?」
「こんなとこに飛ばされるくらいだからな、パティ」
宙区でも辺境なのは事実だが、星間平和維持軍兵士にとっても評価の低い者を掻き集めているセクションだというのは前にも聞いた。ロゾーがなにをやらかして評価ダウンを申し付けられたのかは知らないが。
「もしかして動員掛かって呼び出しだったりとかしない?」
にわかに不安になった。
「いや、フレニオンネットワークが生きてるんなら直接通信入る。そうじゃないってのは位置把握ができてないってだけ。オレのσ・ルーンは位置情報カットができないよう規制されてる」
「なにすればプライベートまで規制されちゃうわけ?」
「とっても悪いことだ」
パトリシアの怪訝な顔に冗談めかして応じている。
「さておき、良くないな。コンソール借りるぞ。ここからGPFの情報ボードにアクセスしとく。悪さしてないってわかるだろう」
「隠れてたらどうなるの?」
「とんでもなく怖いお姉さんがやってくるかもしれない」
コンソールパネルを彼のところにスワイプして滑らせるとコードを打ち込んで閲覧している。アクセス記録が発生することで位置把握されるのは予想に難くない。
「怖いお姉さんって上司?」
幼馴染は興味津々だ。
「上官にも怖いお姉さんがいるが別口だ。星間管理局にも情報部……、諜報機関みたいのがある。そこにはもっと怖いお姉さんがいるんだ」
「ロゾーも怖がらせるほどのマッチョな人?」
「いや、見た目はどんな花よりきれいかもな。ただし、中身はそのへんのゴロツキより遥かに怖ろしいぞ」
意識して三角耳を寝かせている。
「そんなに?」
「マズいって判断されたら、オレなんぞすぐに消される」
「ただ事じゃなかった!」
どこまでが本気でどこからが冗談なのかわからない。しかし、彼の浮かべた一瞬の焦りが、全てが軽口でないのを語っている。
(ロゾーって思ったより危険なのかな?)
そうは思いたくないミレニティだった。
次回『危険な犬(2)』 「ああ、彼? そんなに重要なのかしら」




